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Loyal Tomboy  作者: EN
第六話「死に化粧」
114/245

06-19:○パレ・ロワイヤル攻略作戦[1]

ジョハダルのセリフを一部修正しました。

新:オクラホマ攻略部隊がナルタリア湖周域に到達するまで残り2時間弱

旧:オクラホマ攻略部隊がナルタリア湖周域に到達するまで残り1時間


ストーリーには影響ありませんが、後続の戦闘で結構時間を使う羽目になってしまい、本隊の到着想定時刻をずらしました。

ご了承くださいTT


すみません。同じ内容でもう一箇所修正しました。

新:残り2時間を切ったと言う逼迫ひっぱくした・・・

旧:残り1時間を切ったと言う逼迫ひっぱくした・・・

第六話:「死に化粧」

section19「パレ・ロワイヤル攻略作戦」


前へ前へと突き動こうとする闘争心を、優しく包み込むような静寂さの中に、何処か懐かしい安らぎを与える蟲の歌声が響き渡っている。


りんりんと。


一寸先さえも見えぬ真っ暗闇の中で、ふんわりと心地よい香りを漂わせる緑の木々達が、緩やかに流れ去る風の妖精達と一緒に、和やかな踊りを踊っている。


さらさらと。



閉じたまぶたの裏側からでも解る、そんな心安らぐ自然の風景は、全く俗世間ぞくせけんうごめきを少しも感じさせない、穏やかで静かな空気の流れだけを漂わせているようにも感じられるが、それもまた、過酷な死闘の幕開けを呼び覚ます、虚飾きょしょくの前触れに過ぎない事を、彼女は知っていた。


薄暗いコクピット内に漂う綺麗な薄緑色の燐光りんこうの中に浸り、じっと両目をつむって静かなる時を過ごしていた彼女は、しばし心の奥底ではやる気持ちを抑えられなくなると、決まって直ぐにコンソール脇のインフォメーション表示ボタンを押した。


この時、彼女達パレ・ロワイヤルミサイル基地攻略部隊が、ネニファイン部隊仮駐屯地を出立してから、既に二時間が経過しようとしていたが、今も尚、彼女達はその作戦軍事目標に対する攻撃を開始してはいない。


勿論、それが予め予定されていた作戦通りの行動なのだと、頭の中では解っていても、何処かヤキモキとした心の葛藤かっとうに突き立てられると、気持ちをしずめる大自然のなぐさみすら、鬱陶うっとうしく感じてしまうのだ。



彼女達は今、パレ・ロワイヤルミサイル基地が存在すると言う、ナルタリア湖南東部周域の密林地帯に身を潜め、じっと息を殺して作戦開始予定時刻を待っていた。


セレナ山、カノンズル山の谷間に当たるこの地域は、密林地帯と称される事からも解る通り、未開の地たる風貌をそのままに残した完全不整地地帯であり、装輪そうりん車輌を用いた移動はほぼ不可能であると言っても良い。


当然それは、帝国軍の秘密基地が存在するこの地域において、その場所を容易に特定できるような道筋を、綺麗に描き出す事が出来なかった為であり、現在では遥か昔に栄えた西方の都から伸びる細道が、僅かに残されているだけであった。


その為、この地方周域に展開していると予測される帝国軍の防衛守備隊は、その多くが装軌そうき車輌か低空移動機構を備えた兵器に限定されている事は間違いなく、保有する兵力も決して多くは無いであろうとの見解が一般的だ。


勿論、この秘密基地に関する確固たる情報がほとんど得られてない以上、その見解は憶測の範疇はんちゅうを超えない、机上の空論であると言わざるを得ないが、それでも帝国軍の有する軍事開発技術力が、著しい進歩でも見せない限り、そこに然したる違いは存在し得ないであろう。


(セニフ)

「突入開始時刻まで後10分。・・・。後10分か・・・。」


セニフはコンソール画面上に映し出された、先程とほとんど変わらぬ間怠まだるっこしい情報に対し、鼻で軽く溜め息を吐き付けて見せると、自分自身の心を静かに説き伏せるように小さく呟いた。


トゥアム共和国軍のオクラホマ攻略部隊がナルタリア湖周辺を通過するまで、残り2時間を切ったと言う逼迫ひっぱくした時間帯にありながらも、今だ彼女達がパレ・ロワイヤルミサイル基地に突入を開始していないのは、諜報部からもたらされるであろう同基地に関する情報を、作戦開始時間ギリギリまで待っていたからである。


勿論、南方都市アザンクウルを出立したリバルザイナ共和国空軍の到達を持って、パレ・ロワイヤルミサイル基地に対する軍事行動が明らかとなってしまう為、彼女達に与えられた待機時間は間もなく終了を迎える事になるが、それでもネニファイン司令部は、この不確定要素の強い秘密基地の情報を、出来れば入手してから攻撃を開始したい思いが有ったのだ。



コツン。



セニフは目の前のTRPスクリーン上に映し出される、薄暗い森の中を一通り見渡した後で、ゆっくりと戦闘開始の準備に取り掛かろうとしていたが、不意にコクピット内部に響き渡った軽い金属音に気が付くと、直ぐに通信機の受信モードを切り替えた。


これは敵軍事拠点周域で隠蔽状態を堅持する必要の有った彼女達が、仲間達との通信を可能とする為の唯一の方策であり、有線した通信機装置を相手方の機体近くまで射出すると言う、全く古典的な通信手段であった。


(ジョハダル)

「セニフ。フロル。聞こえるか?そろそろ突入開始の時間だ。最終確認をしておくぞ。フロア隊は陣形最左翼に展開し、カノンズル山麓まで一気に突入する。フィールド防壁内部での通信は困難な事が予測される為、戦闘中の判断は各自に任せるが、なるべく密集隊形を維持して通信回線の維持に努めるように。」


(セニフ)

「了解。」


(フロル)

「了解。」


(ジョハダル)

「それから敵兵器の多くは俺達と同じDQ部隊だろうが、敵の軍事拠点周域には数多くの地雷原や、野戦砲台が設置されている可能性もある。前進には細心の注意を払えよ。まあ、こんな密林の中なら、遠方から狙撃されるような心配も無いだろうがな。」


(フロル)

「突入フォーメーションはラインで良いのか?」


(ジョハダル)

「小隊フォーメーションはバックスラッシュ隊形で、左からセニフ、俺、フロルの順で並ぶ。最前衛のセニフは何か不穏な気配を察知したら、直ぐにワイヤーロープ付きセンサーで周囲の状況を確認しろ。センサー回収が困難な状況でも、出し惜しみする必要はないからな。」


(セニフ)

「うん。解った。」


今回のパレ・ロワイヤルミサイル基地攻略作戦において、セニフの上官となる小隊長「ジョハダル・ムーズ」が、軍事目標突入前の小隊内最終確認作業をする為、低く渋い声色を通信システムへと投下する。


今年31歳を迎える彼は、面長な顔貌がんぼうに、細く垂れ下がった目尻が特徴的な人物であり、それなりの軍歴を有したトゥアム共和国軍正式軍人の一人だ。


年齢的に人の上に立つべき立場柄、最近では周囲を気遣うような言動が見られるようになったが、これでも若い頃は上官泣かせの荒くれ者として有名を馳せた人物である。


彼の有するDQ操舵技術に関しても、凡人を遥かに凌駕りょうがする熟練したものであり、ネニファイン部隊内においても常に上位者たる存在感をかもし出す、有能なDQパイロットであった。


一方、セニフの同僚として同じフロア小隊に名を連ねる「フロル・クローチェ」は、浅黒い肌に少し厚めの唇が特徴的な26歳の長身女性で、ブラックポイントで開催されたDQA大会に、チーム「ガンナール」の攻撃的アタッカーとして参加していた経歴を有している。


彼女はその独特のしゃがれ声と、女性らしさを脱色した言葉遣いから、しばし豪胆で野放図のほうずなイメージを植え付けられがちなのだが、実際の所は、心優しく温厚な性格の持ち主であり、ネニファイン部隊初期研修時に、何処か暗く落ち込んでいたセニフの事を気遣って、優しく話しかけてきたのも彼女である。


以降二人は、何の気兼ねも無く会話をする間柄にまで至るのだが、どんな相手に対しても分け隔てなく接する気持ちの良いその性格は、セニフに限らず誰からも好まれるものであった。


(ジョハダル)

「オクラホマ攻略部隊がナルタリア湖周域に到達するまで残り2時間弱。第七機械化歩兵部隊による基地制圧を考慮すれば、周辺周域の敵部隊掃討にそれほど多くの時間をかけている余裕は無い。当面は目の前に立ちはだかる敵機だけを撃破して、残りは後続部隊と支援部隊に任せる事にしよう。俺達先発隊はまず、帝国軍の防衛ラインを突破し、敵陣奥深くまで進攻してパレ・ロワイヤルミサイル基地の周辺状況を探る。そして、その上で適宜てきぎ状況に応じて、後続部隊への行動指標を提示する。もっとも、司令部が待っている情報が入手出来さえすれば、もっと楽な戦局を望めようものだが、現時点で何ら音沙汰おとさたの無い砂上の楼閣ろうかくに、多大な期待を置く事も出来ないしな。」


セニフはこの時、ジョハダルの発した言葉の内容を、悲観的な意味合いで捉えてしまうと、頭から被ったヘルメットの重みに任せて静かに下をうつむき、真一文字に伸ばした下唇をキュッと強く噛み締めた。


そして、ゆっくりとパイロットスーツの上から、紅いヘアピンを忍ばせた内ポケット付近へと両手を宛がい、声にならない呟きを持って、心の中に浮かび上がった人物の名前を口ずさんだ。


胸の奥底で再び重たい鎌首をもたげ始めた、短絡的たんらくてきあせりの想いを、必死に強く心の中でじ伏せるようにして。


(ジョハダル)

「まあ、それはそれとして、とりあえず当初の作戦プラン通りの行動を開始するぞ。二人とも準備はいいな。」


(フロル)

「ちょっと待て!!何か来るぞ!!方角0130!!」


(セニフ)

「?」


その時、不意にサーチレーダー上に浮かび上がった、不思議な光点の存在に気が付いたフロルが、慌てた様子で部隊メンバー達への注意喚起を促す。


そして、直ぐに正面モニター脇のサーチ感度計をグルグルと回して調節すると、しばしこの不審な光点の動きに意識を注力させた。


見たところそれは、北方からほぼ一直線にこちら側へと突き進んで来る様子が窺え、移動に際する地形的制約を受けていない事から推測しても、何かしら上空を飛来してくる物だと判断される。


この時彼女達は、自分達の隠蔽いんぺい行動が、帝国軍に察知されてしまったのではないかと言う疑念を抱き、即座に戦闘態勢への移行を余儀なくされてしまったのだが、自動追尾システムに対する警戒警報を発する気配すら見せなかったサーチシステムは、ただ静かにその進行軌跡を描き出すだけであった。


(セニフ)

「ミサイル?・・・かな。」


(フロル)

「そうみたいだな。」


(ジョハダル)

「小型の巡航ミサイルか?帝国軍の攻撃にしては余りにチンケなものだな。もしかして司令部が首を長くして待っていた物が、ようやく到着したってことか?」


やがて、周囲に何の被害をもたらす事もなく、悠々と頭上を飛び越えて行く一発のミサイルに対し、彼女達は懐疑的かいぎてき視線を持って、静かにそれを見送る事しか出来なかったのだが、ジョハダルが何気なく口にしたその憶測は、決して真実と遠く離れたものではなかった。


昨今さっこん、高濃度フィールド粒子を用いた敵通信システムへの妨害行為が、恒常化こうじょうかした戦場においては、その通信連絡中継ポイントを上空に構える例は決して少なく無く、このように攻撃を意図しないミサイルのほとんどが、何かしらの情報伝達を目的としたものであると言っても過言ではない。


この時、帝国領土奥深くから飛来したそのミサイルは、紛れも無くアリミアがオクラホマ空港管制施設屋上から撃ち放った、スパイロウ巡航ミサイルに間違いなかったが、彼女達が駆るトゥマルクの通信機能程度では、その事実までを察知する事は出来なかった。


(フロル)

「どうする?ジョハダル。このまま司令部からの新しい指示を待つか?」


(ジョハダル)

「いや。どちらにせよパレ・ロワイヤルミサイル基地に対する、攻撃指示は変わらんだろう。新しくプランの変更が必要となれば、その時、司令部から追って指示があるはずさ。先発隊は先発隊らしく、戦闘の口火を真っ先に切り落とす役割を、忠実に担う事としよう。・・・っと。どうやら同じような決断を下した奴等に、先を越されてしまったようだな。」


その時、彼女達の隠れ潜む場所から東側に望む密林の奥深くで、大きな木々達の間隙をって見え隠れする、三つの光点がきらびやかに浮かび上がった。


それは勿論、彼女達と同じ立場でこの戦場の入り口手前付近に潜伏していた、キャリオン隊の発したバーニヤ光である事は言うまでも無く、その光は先発隊としての責務を語ったジョハダルの思いを、軽く嘲笑あざわらうかのようにして、勢い良く北上を開始したのだった。


(セニフ)

「行こう!!」


やがてセニフは、力強い声色の号令を通信システム内に響き渡らせて、小隊長たるジョハダルのお株を完全に奪い去ってしまうと、素早くトゥマルクのシステム状態をアクティブモードへと移行し、その上で思いっきり右足でフットペダルを踏み込んだ。


そして、トゥマルクの後部バーニヤから吹きさらした激しい熱波によって、静かな深い眠りへと落ち込んでいた密林の中を、煌々(こうこう)としたオレンジ色の光で照らし出すと、彼女は搭乗するトゥマルクの機体に急激な加速度を与えて、一気に待機ポイントを飛び出して行った。


(フロル)

「全く・・・。落ち着きの無い娘だね。少しばかり大人しいかと思って見ていれば、直ぐにこれだ。」


(ジョハダル)

「まあいいさ。この際、セニフの熱い戦意に乗せられてやろうぜ。」


(フロル)

「良いのかジョハダル。お前は立場上、制止する側に回る役だろ?」


(ジョハダル)

「なぁに。俺もこういうのは嫌いじゃないんでね。そう言った損な役柄はフロルに任せる事にするよ。それに、噂に聞くあいつの暴れっぷりを、得と拝見したくもあるしな。」


ジョハダルはそう言い放つと、ヘルメットゴーグル越しに不敵な笑みを浮かべ、チラリと視線を宛がった右手後方に控えるフロルに、トゥマルクの右手を軽く振りかざして見せた。


彼は自らに与えられた小隊長と言う立場を良く理解してはいたが、それでも自分の持てる能力の全てを、凡将たる指揮官らしく、後方からの叱咤激励しったげきげいのみに浪費するつもりは無かった。


勿論、それなりの自制心と統制力を持ってして、暴れ狂う部下達の手綱をしっかりと握り締める必要はあったが、彼はこの時、目の前で産声を上げ始めた過酷な戦場に対して、それほど誇大こだいな恐怖心を抱いてはいなかった。


トゥアム共和国軍がパレ・ロワイヤルミサイル基地攻略の為に投入した兵力は、先発隊となるネニファイン部隊DQ4個小隊12機に、後発隊のDQ4個小隊12機と、決して大部隊と称するには程遠い戦力であったと言わざるを得ないが、それでも同基地の完全なる占領を目標として投入される歩兵部隊には、第七機械化歩兵部隊の精鋭達1個中隊150名が名を連ね、更には強力な火力を有したリプトンサム部隊の支援砲撃車輌2個中隊20輌が後方に控えている。


そして何より、隣国であるリバルザイナ共和国空軍の協力により、同地域における絶対的航空優勢権の掌握が期待できる状況下と有らば、大部隊の運用が困難を極める密林地帯での戦闘において、それほど悲観的な雲行きに萎縮いしゅくしてしまう必要もなかった。



やがて二人は、真っ暗な闇夜の中へと先行したセニフに感化される様にして、搭乗するトゥマルクの後部バーニヤを大きく吹き上がらせると、彼女の辿り経た軌跡を少しずらしたライン上を北上し始めた。


そして、無数の木々達が生い茂る黒と言う大地上に、眩い光のペイントを持って綺麗な曲流きょくりゅうを描き出すと、まるで導火線を辿る火花のような様相をかもし出して、濃密な殺意の渦巻く戦場と言う巨大な爆発物へと直走ひたはしるのだった。


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