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Loyal Tomboy  作者: EN
第一話「ルーキー」
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01-10:○黒いお抱え衛兵[4]

第一話:「ルーキー」

section10「黒いお抱え衛兵」


セニフが操縦するDQパングラードは、重心位置補正機構を搭載していない旧式タイプであり、綺麗な2足歩行が出来ない「出来損ないDQ」である。


主な移動方法としては「ホバー移動」以外に無く、両足の設置面積を可能な限り大きく取る事によって、何とか機体のバランスを取っているに過ぎない。


現在市場に出回っている最新鋭DQと比べれば、まるで玩具のような印象さえ、感じてしまう同機体なのだが、ここエリア55のように、凹凸が激しい地形上を快走する分には、かえってこのような旧式DQの方が、扱いが楽な場合もあるのだ。


しかし、そんな大地を滑り動くことのみに特化したパングラードでさえ、時に大量の水分を含んだ湿地帯に差し掛かかると、それまで増幅させてきた移動スピードが大きくかき消されてしまう。


(セニフ)

「何だよここ・・・。スピードに全然乗らないじゃん!ちっくしょ・・・。」


大きく迂回する羽目にはなったものの、本来、FTPフィールドを展開させながら移動するジャネット機よりも、先行してカーネルと対峙しなければならないはずのセニフは、中々思うようにスピードに乗れない自分の愛機に対して、苛立ちを押さえ切れないように、細く綺麗な赤髪を掻き乱した。


何もわざわざ、このような移動が困難な戦闘エリアを、交戦会場として選択しなくても良いようなものだが、相手チームのDQは、機体性能すら未知数な最新鋭機種リベーダー2である。

しかも、カーネルというチームに所属するパイロットが、今まで対峙して来たパイロット達より、劣っているはずもない。


対戦条件がどうであれ、そんなパイロットが悠々と戦闘を繰り広げられるような戦場は、彼女達としても、絶対に選択してはならないのである。


しかし、セニフとの距離を徐々に詰めつつある相手DQもまた、彼女と同様の湿地帯エリアに差し掛かっているはずなのだが、どうも、移動に関して地形的制約をあまり受けていない様にも見受けられる。


その走行スピードから推測しても、ホバー走行タイプのDQであることは間違いないのだが、それでいながらにして、このスピードとは・・・。


ちょっとタイミング的に、まずいかも・・・。


と、セニフが一段と表情を曇らせた矢先だった。


ドドーン!!


突然、激しい爆発音と共に大きな黒煙が2本、セニフの行く先に立ち昇る。


(アリミア)

「セニフ?囮が先行しないでどうするの?」


ヘッドホンを通して静かな声色を投げかけたアリミアは、少し意地悪な口調でセニフの気持ちを煽り立てる。


どうやら、直前に発生した爆発音の正体は、アリミアが遥か後方からカーネルを狙撃したものであり、相手の進行速度を緩めさせるための、牽制弾であったようだ。


(セニフ)

「わかってるよ!!」


目に見えて進行速度を落としたリベーダー2に対し、簡単な挑発に怒鳴り声を返したセニフが、躍起になってフットペダルを踏み込むと、出力を臨界点まで引き上げられたパングラードは、見る見るうちにその進行速度を吹き上げていく。


なんとも単純な反応を見せるセニフの動きを、サーチレーダー上で確認しつつ、クスクスと笑いを堪え忍んだアリミアは、次なる砲撃を放つポジションを確保するために、即座に操るDQを発進させた。


チームTomboy側としては、これでようやく、相手カーネル機を迎えるための準備が整ったわけだなのだが、やはりと言うべきか、完全にヒットさせるつもりで放ったアリミアの弾丸を、いとも簡単に回避して見せた辺り、リベーダー2のパイロットの腕前は偽者ではない。


(アリミア)

「所詮カーネルはカーネルか。」


今回のチームTomboyの作戦において、一番重要なポジションを任されたの、やはりなんと言っても、最後にカーネルを狙撃すべきアリミアである。


それは、パイロットの腕の差以前に、DQ機体性能に雲泥の差が存在するため、彼女達には、近接戦闘での勝ち目が、ほとんど無いからに他ならない。


しかも、鬱蒼と生い茂る木々達を間抜いて、正確な射撃を敢行することは非常に難しいことであり、一瞬でもカーネルの動きを停止させることが、今回の作戦における、成功の前提条件となっているのだ。


そういった意味では、相手の注意を逸らすべきセニフ、不意打ちをかけるジャネット共に、軽視できる役割でも無く、たった一つの失敗から、一気に全滅となる可能性も否定できない。


(セニフ)

「あと30秒。絶妙じゃん。」


カーネルの現在位置と、パングラードの現在位置から推測するに、どうやら今回のメインウォーエリアは、湿地帯のど真ん中に浮かぶ、島のような乾土帯となるらしい。


地形的にもさほど凹凸が無く、比較的開けた空間であることを確認したセニフは、山積する不安感を、微塵も感じさせないような笑顔を浮かべた。


彼女としては「強いものとやれる」という、好奇心の方が勝るようだ。


そして、フットペダルでパングラードの出力を調節し、対決戦場を微妙に修正すると、やがて視界に捕らえた相手を鋭く凝視した。


(セニフ)

「みえた!!」


この時点で、彼女から見て前方1kmilsほど向うに、漆黒のDQが見え隠れする。


それは見るからに、かなり大型のDQであったが、ジャネットが搭乗するラプセルなどとは、比較にならないほどの機動性を感じさせる機体構造だ。


勿論、足を止めて撃ち合うことがタブーとされるパングラードで、真正面からリベーダー2と近接戦闘を繰り広げるわけにもいかないのだが、セニフは即座に、パングラードの両手に備え付けられている、20mm機関砲に弾丸の装填を開始し、向かう相手に照準を絞る。


これまで繰り広げてきた戦闘によって、かなりの弾数を消耗してしまったために、すべての弾丸を装填したところで、残り40%に満たない程度。


セニフが10秒ほどトリガーを引きっぱなしにすると、全弾を打ち尽くしてしまう量ほどしか残されていなかった。


一方この時、チーム「Black's」のメイルマンもまた、迫りくる撃ち合いのための準備を開始していた。


リベーダー2が装備する武器は、小型のリニアキャノン「ResenASR-10reng」で、ロールコンデンサに一気に高電圧をかけ、瞬間的に発生する磁力により弾丸を発射するものであり、瞬間的に大量のエネルギーを発生させるテスラポットが開発されるまで、実用化が困難であった兵器だ。


最近、ようやくこの手の武器は増え始めたのだが、未だに実戦で使用されるほどの成果も無く、この最新鋭機種リベーダー2も、電磁系火器を主装備とする設計思想であったが、どうしても通常火器を使用する機能を切り捨てられ無かったのだ。


(メイルマン)

「へっへ!!雑魚共のくせに、面白い作戦を立てるみたいだな。ルーキーがすぐさまやるようなフォーメーションじゃないぜ。どおりで早めに指示が下るわけだ。」


メイルマンはそう言い放つと、サーチレーダー上でしきりに「囮」であることを示す、セニフの動きを横目に、周囲への警戒をさらに強める。


彼は、チームTomboyの作戦をすべて見透かしていた訳では無いが、それでも彼女達が「時間差攻撃」を得意としている事は、すでに確認済みであった。


これは「お抱え衛兵」たるチームBlack'sの特権であり、彼らの元には、一般の参加チームには与えられない、各チームの詳細情報情報が、リアルタイムで提供されているのだ。


当たり前のことであるが、ルーキーチームたるTomboyは、過去の戦闘記録に乏しいために、対峙する相手チームとしても、まったく予備知識が無いままに、このチームと対戦しなければならない。


しかも、パイロットが全員「女」であるようなチームに対し、一体どのチームが、彼女達のチームに対して、警戒心を抱くというのであろうか。


彼女達がここまで快進撃を続けることが出来たのも、こういった相手の油断が招いた結果なのかもしれない。


勿論、事前にそんな情報を提供されていたメイルマンとしても、実際にチームTomboyの展開行動を目の当たりにするまで、全く信用していなかった。


時間差攻撃と簡単に言うが、実際にその戦術をチームとして運用することは、非常に難しいことであり、そんな高等戦術を実戦するチームが、こんな低位チームに存在するとは思っていなかったからだ。


とは言え、相手は所詮ルーキーチームのパイロット一人。


DQの扱いにどれだけ長けていたとしても、実際の戦闘経験に乏しい相手に、自分が負けるなどと露程にも思っていないメイルマンは、静かにニヤリと不敵な笑みを浮かばせて、さらにリベーダー2の巡航速度を増加させた。

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