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Loyal Tomboy  作者: EN
第六話「死に化粧」
106/245

06-11:○解れ始めた糸[2]

ジルヴァが投げ捨てたのは、ドリンクホルダーではなくボトルですね・・・^^

本当にお馬鹿でごめんなさい。修正しました。

第六話:「死に化粧」

section11「解れ始めた糸」


帝国トポリ領南東部にある「オクラホマ都市」は、トゥアム共和国との国境を形作る「レイナート山脈」の西側ふもとに位置し、強力な八個の固定対空高射砲によって守られる強固な軍事都市である。


広大な敷地面積を誇るオクラホマ空港には、強力な航空部隊が数多く駐留し、都市南部と北部にそれぞれ建設された防衛基地の存在も、決して侮れない軍事力を有していた。


遥か東方で勃発したカルッツァ地方戦線に対しての強い警戒心から、帝国軍東方戦線最高責任者「トリストライアン・レブ・ブラシアック」の命により、北部防衛部隊の大半が東方戦線へと送り込まれる事になるのだが、それでもオクラホマ都市南方防衛基地内には、まだ一都市を防衛するのに十分なほどの戦力が残されていた。


都市南部に広がる「ソリアス平原」一帯を見渡せる小丘に建設された、このオクラホマ都市南方防衛基地は、一見小規模な軍事基地のようにも見えてしまうのだが、実の所その軍事施設の多くが地下にうずめられており、地上に綺麗に並べられている大戦車団の数も、保有する兵力の約3分の1程度に過ぎない。


それは勿論、周囲を広く見渡せる地域にあって、上空からの爆撃や遠方からのミサイル攻撃に対処する為の防衛策であり、この時この南方防衛基地内には、優に一個師団を超える兵力が存在している事が報告されていた。



そして、そんな強力な防衛基地を西に臨む山間の森林地帯に、じっと息を潜めて時を待つ六つの巨大な人型兵器の姿があった。


彼等はランベルク地方から険しいレイナート山脈を越え、密かにこの地へと潜入を果したネニファイン部隊の別働隊であり、オクラホマ軍事空港破壊工作員達を、無事帰還させる為の作戦任務に従事する部隊だ。


彼等はこの時点で既に、当初の第一目標である工作員回収部隊の輸送任務を完了しており、この後工作員回収部隊のオクラホマ都市突入を手助けする為に、オクラホマ都市南方防衛部隊に対して、陽動作戦を展開する手はずとなっていた。


そしてそれは、トゥアム共和国軍主力部隊である、オクラホマ攻略部隊の攻撃に先んじて、同地域に駐留する帝国軍戦車部隊の注意を引き付ける為の役割も担っており、軍上層部に容認されたサルムザーク陸等三佐の作戦は、まさにオクラホマ都市の防衛能力を早期攻略する為の重要な鍵として、オクラホマ攻略作戦の中に組み込まれたのだった。



しかし、そんな重要なキーパーツを担うべき部隊の中にあって、真っ暗な闇の世界を映し出すスクリーンをじっと眺めていたランスロットが、狭苦しい一人部屋の中で大きな欠伸あくびを吐き出した。


それは、目の前へと差し迫った強大な帝国軍防衛部隊との戦いを前に、極度の緊張状態に曝された精神が奏でる、生理的現象のようにも見えたが、ふてぶてしいまでの態度で両足をコンソール画面の上へと放り投げ、眠たそうな表情を浮かべてコクピットシートに寝そべる彼の態度からは、少しも緊張感を指し示す雰囲気は感じられなかった。


彼は無造作に右手で金色グリグリの短髪を掻き乱すと、長い時間待機状態を強いられる事になってしまった現状に対し、当て付けの意味も兼ねて、退屈さを紛らわすボヤキを発した。


(ランスロット)

「ほんと暇だねぇ。このままだと作戦が始まる前に寝ちまいそうだぜ。誰か歌でも歌ってくれないもんかね。ジルヴァちゃん。よろしく~。」


(ジルヴァ)

「てめぇの末路に絶望して、一人寂しく鎮魂歌レクイエムでも歌ってな。」


(フレイアム)

「工作員回収部隊からの合図があるまでの辛抱だ。奴等からの最後の定期連絡があってから既に2時間。もう直ぐ眠れない夜がやってくるさ。」


作戦開始からカウントを重ねていくコンソール画面の数値に目を通しながら、大きくえらの張ったあごが特徴的な「フレイアム・モートン」が静かに呟く。


彼は今年三十路みそじを迎えるトゥアム共和国軍の正規軍人であり、ルワシー、ランスロット両名を従える小隊長の一人だ。


軍務に誠実で規律正しい彼の性格は、非常に真面目でお堅い印象を受けてしまうものだが、それでも意固地いこじに軍規だけを優先させて、周囲にむさ苦しい雰囲気を作り出すような人物ではない。


時折、意味不明な言動を繰り返すランスロットに対して、触れれば切れるナイフのように鋭い毒舌どくぜつを突きつけるジルヴァとは異なり、彼が発する言動は常に温和でいて親しみやすいものだった。


(ランスロット)

「眠れない夜を君と共に・・・か。涙が出るほど良いシチュエーションだねぇ。これが居心地の悪いコクピットの中じゃなく、愛を語らうに相応ふさわしいベッドの上ならなぁ。右腕に抱いたジルヴァちゃんの吐息を肌で感じながら、吐き散らしたタバコの煙に余韻よいんせる俺。そして無造作に両腕を伸ばして、身体をまとわり付かせるジルヴァちゃんに向かって、格好良い俺は静かな口調で語りかけるんだ。眠れないのかい?君の気持ちも解るが、少しは眠らないと明日に差し支えるよ。大丈夫。君の綺麗な瞳のとりこになってしまった俺の心は、決して君の元から逃げ出したりはしないよ。だから安心して俺の右腕の中で眠るといい。すると、そんな俺の優しい言葉に対して、切なそうな表情を浮かべて見せたジルヴァちゃんが、こう言うんだ。」


(ジルヴァ)

「この変態スケベ野郎が!気持ち悪い妄想に私を使うな!」


(ルワシー)

「あっはっはっはっは。ベタベタで何のひねりもねぇ妄想には違いねぇが、中々おもしれぇ結末を見たぜ。暇さえありゃぁ女の尻追い回すこと事しか考えてねぇ奴だからな。狭いコクピット内に押し込まれて身動取れねぇ分、馬鹿な妄想に逃避するしかねぇんだろうぜ。」


(ランスロット)

「失敬な事言わないで欲しいねルワシー君。俺とジルヴァちゃんの恋仲は、今始まったばかりなのよ。両者の初々しい想いの芽を早々に摘み取るような言動は、極力避けてくれたまえ。」


(ジルヴァ)

「ふざけんなよ!誰がてめぇなんかに恋心を抱くかってぇの!鏡で自分の顔を良く眺めてみろっつうの!」


(ルワシー)

「一方的に蹴り付けられるだけの関係の上に、一体何を求めてんだかぁ知らねぇが、こんなガサツで女っ気もねぇ女相手に、おめぇも良くやるもんだぜ。」


(ランスロット)

「おや。ほんとルワシー君は女性を見る目がないねぇ。俺は彼女の透き通った純粋な心に魅かれているわけよ。ガサツな性格だろうと、少しも女っ気が無かろうと、背が小さかろうと、胸が小さかろうと関係ないのさ。」


(ジルヴァ)

「てめぇ。私に喧嘩売ってんのか?戦闘中、私の視界内に姿を見せたら、躊躇ちゅうちょ無くトリガーを引いてやるからな。覚えとけよコラ。」


(ランスロット)

「解っている。解っている。何も言わなくても解っているよジルヴァ。君は自分の感情を表現する事が苦手な女性なんだ。そうやって言葉で俺の事を切り付けながらも、実は心の奥底では泣いているのさ。さぁ。心を解き放って!素直に自分を表現して!俺の事を好きだと言ってしまいなさい!」


(ジルヴァ)

「ほんっっっと!こいつウザ過ぎだろ!てめぇみてぇなカス男は死ね!即座に死ねっ!!」


(アイグリー)

「うっるさいなぁ。待機時間中ぐらい、ゆっくり音楽聴かせといてくれ。醜いヒステリーは戦闘が始まってから起こせば良いだろ。少しは静かにして欲しいもんだね。」


(ジルヴァ)

「何だと!!糞生意気な小僧が偉そうな口叩くんじゃねぇよ!!大体待機中に音楽聴いている奴があるか!!私の指示が聞こえないだろうが!!」


(アイグリー)

「だから低音量で聴いてるんだって。誰もあんたに迷惑かけたりしないから、俺に迷惑かけるもやめてくれ。」


(ジルヴァ)

「・・・んっっっだとこのぉ!!」


(ランスロット)

「んー。怒ったジルヴァちゃんの声も色っぽいわ。良いもんだねぇ。」


(フレイアム)

「おいおいお前等。幾ら有線通信だからと言って、無闇に大声を張り上げるもんじゃないぜ。作戦開始前に敵に察知されたら元も子もないぞ。ジルヴァもそんなにいきり立って突っ掛かるなって。」


過酷な戦火の渦中でのた打ち回る状況ならいざ知らず、たまに持て余した時間を好きに使うぐらい、本人達の自由にさせたい気持ちが有ったフレイアムだが、さすがに底なしに繰り広げられる実りの無いやり取りに苦言を呈すると、呆れ返る様に溜め息を吐き出した。


自らの命を賭して戦う過酷な戦場を前に、これほど能天気に語らえる彼等の神経の図太さは頼もしい限りなのだが、それでも遊びの延長線上で楽にこなせるほど、今回の作戦任務は甘くない。


それは勿論、放蕩ほうとう主義者達の口車に乗せられて、見苦しくも稚拙な怒鳴り声を発する事になってしまったジルヴァ自身も、それは解っている事だった。


(ジルヴァ)

「ちっ・・・。解ってるよ。」


彼女は苛立ちを込めた拳で目の前のモニターを強く叩き付けると、少し不貞腐ふてくされたように舌打ちを奏で出して、コクピットシート脇に取り付けられているドリンクホルダーから、ストロー付きボトルを掴み取った。


そして、何処か無性に疲れ果てた身体を預けるように、コクピットシートの背凭せもたれに圧し掛かると、大量に怒気の溜まった意識を無理やり冷却する為に、勢い良く冷たい紅茶を体内へと流し込んだ。


(フレイアム)

「時間的にそろそろオクラホマ攻略部隊が北上を開始する頃だな。もう、いつ回収部隊からの合図があってもおかしくないぜ。ジルヴァ。」


(ジルヴァ)

「そうだな。」


ジルヴァは半分程度量を減らしたボトルを、無造作にシート後部の籠の中に放り投げると、フレイアムの投げかけた言葉に呼応するかのように、綺麗な顔立ちに統率者たる真剣な表情を浮かべた。


(ジルヴァ)

「各員共に現状陣形を保ったまま第一種戦闘配備に移行!回収部隊からの連絡が入り次第、即座に戦闘行動へと突入する!作戦は当初の予定通り、オクラホマ南方防衛守備隊に対して、遠距離からの陽動作戦を展開!敵戦車部隊の注意を引き付けつつ、北東山岳地帯へと逃走する!戦闘エリアは森林地帯及びボカージュ周辺地域のみに限定。敵戦車部隊との正面衝突は絶対に避けろよ!」


小隊長としての責務を背負い、与えられた作戦任務を、成功へと導かなければならない彼女の立場からすれば、戦力として与えられた彼等を、幾ら使い物にならないからとは言え、決してないがしろにする事は出来ない。


ただでさえ彼女達の目の前にたむろすオクラホマ南方防衛守備隊は大部隊であり、たった6機のDQを持ってして立ち向かえる相手でないことは、戦う前から解りきっている事だ。


彼女達ネニファイン別働隊に与えられた作戦任務は、オクラホマ南方防衛守備隊の注意を引き付ける為の囮攻撃を敢行する事。


そして、トゥアム共和国軍オクラホマ攻略部隊が到着するまでの間、小気味良く逃げ回って見せることである。


勿論、彼女が言葉で示す通り、帝国軍の強力な戦車部隊との直接的交戦を展開する必要など全く無いのだが、それでも帝国軍の猛攻に曝される事になる彼女達には、少しのずれも許されない一糸乱れぬ部隊行動が必要不可欠となるのだ。


ジルヴァはTRPスクリーンを通して森の中に見え隠れする、灰色に緑の迷彩を施したDQ「アカイナン」にチラリと視線を移すと、部隊メンバー達の緊張感を煽り立てる為に、えて大きな声で更なる激を飛ばした。


(ジルヴァ)

「いいか!今回私等に与えられた作戦任務は、たった一人の人間を助け出す事じゃない!大勢の仲間達の命運を背負った重要な作戦任務なんだ!いつまでもグダグダグダグダと馬鹿な会話に興じている暇は無いぞ!トゥアム共和国の未来の全ては私等の手にかかっていると思え!いいな!てめぇら!!」


(ランスロット)

「おおぅー。なんとも勇ましい限りです事。ジルヴァちゃん。俺もやるときゃやる男だって事、少しは見せてあげないとね。」


(ルワシー)

「まぁ。俺等も馬鹿やるためだけにここに来た訳じゃねぇしな。はえぇとこ暴れたくてウズウズしてらぁよ。」


(アイグリー)

「はいはい。解りましたよ。戦闘準備ね。」


彼女の抱き持った意思の全てが、彼等に正確に伝わったかどうかは別としても、彼等も生死を賭した戦いに挑むにあたり、それなりの心構えを持って挑まねばならない事は解っていた。


国家の命運を賭けた戦争と言う大きな力の流れの渦中かちゅうで、彼等のようにか弱き戦士達が生き延びる為には、常に高い集中力を持続し続ける事が絶対的必要条件であり、一瞬の気の緩みが全てを無へと帰する暴力的世界を目の前にして、彼等も何の備えもなしに身を投じる勇気は無いと言うことだ。


先ほどからランスロットやルワシーが無闇に馬鹿騒ぎして見せたのも、何もこの可愛らしい小隊長をいびり倒す事が目的だった訳ではなく、それが戦闘前における彼等なりの気の紛らわせ方なのだ。


勿論、そんな彼らの矢面やおもてに立たされたジルヴァにとっては、迷惑千万極まりない話なのだが、彼女が彼等の無駄話に対して、完全無視を決め込むような態度を見せなかったのも、それを暗に察していたからなのだろう。


(ジルヴァ)

「おいユァンラオ。お前も少しぐらい返事したらどうなんだ?戦闘準備は完了したのか?」


(ユァンラオ)

「ん・・・。ああ・・・。OKだ。」


(ジルヴァ)

「ライン陣形の最左翼はお前に任せたんだ。周囲の警戒行動は常に怠るなよ。解ってんな。」


(ユァンラオ)

「ああ。・・・解っている。」


そして彼女は、ネニファイン部隊内でも一際異様な雰囲気をかもし出す謎の男「ユァンラオ・ジャンワン」に対しても、何ら臆する事無く小隊長としての言葉を投げつけた。


普段から何ら他人と関わり合いを持つ事もなく、たった一人唯我独尊ゆいがどくそんの信念を貫き通すこの男は、彼女とは違った意味で周囲から疎まれる存在だが、彼がネニファイン別働隊の貴重な戦力の一人である事に変わりは無く、ジルヴァにとってユァンラオと言う男の存在が如何なるものであったとしても、決して無為に捨て置く事は出来なかったのだ。


ランベルク地方を出立してからと言うもの、古びた置物のようにその存在感をかき消していたユァンラオは、ランスロットやルワシーの吐き出す無意味な言動に対して、何ら少しも反応を見せる事は無かったのだが、この時珍しくもジルヴァの投げかけた言葉に素直な反応を示して見せた。


「貴方にも少し聞きたい事があるの。」


そんな二人の会話を、通信機越しに聞いていたランスロットは、少し唇を尖らせて誰にも聞こえないように口笛を吹いて見せた。


そして、ライン陣形を形成する部隊最右翼の位置から、TRPスクリーン越しに反対側最左翼方面へと視線を切り替えると、彼は不思議と脳裏に浮かび上がったアリミアの言葉を反芻はんすうさせるのだ。


その言葉は、先に行われたディップ・メイサ・クロー作戦後に、彼女がランスロットに対して投げかけた言葉である。


ディップ・メイサ・クロー作戦において、何ら面白みの無い待機組みに編成されてしまったランスロットは、待機任務終了後に、ランベルク地下基地のレストポート付近でアリミアと出会う事になったのだが、その後二人きりで話がしたいと言う彼女の要望から、静かな雰囲気の喫茶店で待ち合わせをする事になったのだ。


ネニファイン部隊研修時から、アリミアと言う女性に対して強い興味を示していたランスロットとしては、全く誰にも邪魔される事の無い二人きりと言う状況を、心躍るような気持ちで迎えたに違いないが、その時アリミアから真に聞きたかった内容を示されるに連れ、次第に心の中で興を削がれてしまう気分にさいなまれてしまった事を覚えている。


勿論、彼自身アリミアの話の内容に全く興味がなかった訳ではないが、出来れば彼としても「余り触れない方が良いな」と認識していた話であった。


それは、嘗てブラックポイントDQA大会で、ランスロットと同じチームに所属していた、ユァンラオ・ジャンワンと言う男についての話だ。



ランスロットから見て、彼は一体どんな人物なのか。


普段彼はどんな事をしているのか。どんな事に興味があるのか。


彼の周囲にはどんな人物が集まるのか。


それが男性なのか女性なのか。


若年者なのか熟年者なのか。等々・・・。



テーブルを挟んで真剣な眼差しで問いかけるアリミアに対し、お調子者のランスロットも、少なからず真面目に受け答えして見せたつもりだったが、彼女の問いかけの内容から総合的に導き出した一つの答えを、彼は無謀にも直接彼女にぶつけてしまったのだ。


「ひょっとして、ユァンラオの事が好きなんですか?」


ランスロットはその直後、本気でアリミアにぶん殴られそうになった事を思い出し、思わず額ににじんだ汗を拭い去るような仕草で、少しだけ表情を歪めさせた。



ランスロットから見て、このユァンラオと言う人物は、ただ一言で言い表すならば「得体の知れない人物」と言う言葉に尽きる。


勿論彼等二人は、チーム「Black's」と言うDQA大会屈指の最強チームに所属し、12回に及ぶ大会総合優勝と言う栄光を勝ち取ってきた訳だが、それでも彼が、このユァンラオに対して、心の中に張り巡らせた絶対的防衛線を取り除く事はなかった。


決して誰にびる事なく、己の抱き持つ思いのみに忠実なこの一匹狼は、恐らく誰にも理解されない所に自分自身を置く異世界の住人。


鋭く黒光りする怪しげな視線の先に、一体何を見据えているのか見当も付かないが、上っ面だけでやり取りされる会話以上の深度まで、ランスロットは立ち入る事さえ出来なかった。


しかし、そんな相手の恐怖心を煽り立てる攻撃的防壁に包まれたユァンラオに対して、事もあろうか好意を寄せて自ら近づこうとする奇特な女性がいる事も事実であり、ランスロットがアリミアに対して、先のような失言を投げかけてしまったのも、彼がそんな不思議な現象を目の当たりにしているからに他ならなかった。


「私はね。いつも自分一人の力で生きてきたから、本当に頼れる人がいないの。」


勿論アリミアには、そんな気は毛頭無いらしく、ユァンラオと言う男に対する彼女の興味心は、もっと別の所から来ているのであろう事は理解できたのだが、それでもアリミアがその本心を明かす事を拒んだ為、結局ランスロットには、何故彼女がこの危険な男の事を探ろうとしているのか、その理由まで詳しく知る事は出来なかった。


「ランスロット。出来る範囲で良いから、彼の様子を見ておいて欲しいの。そして何かあったら、直ぐに私に連絡をちょうだい。もし貴方が私の期待に応えてくれたら、私も貴方の期待に何でも応えてあげるわ。だからお願い。」


この時、ランスロットに頼み込むアリミアの表情は真剣そのものであり、ランスロットが当初の目的を完全に忘却してしまう程の、強い印象を植え付けられてしまった事は確かだ。


好意なくして相手の事を知ろうとする心理。


そこには少なからず、逆説的心の揺り動きが見て取れる。


勿論、自分から寄り付かなければ、ほとんど無害に近いこの男に対し、アリミアの方から一方的に悪意を抱いていると言う事は無いだろう。


とすれば、ユァンラオに何らかしらの危害を加えられている側・・・。


と言うことか・・・。



(ルワシー)

「ランスロット。この作戦が終わったら、またミリタリードーンに飲みに行くかぁ?」


(ランスロット)

「お、いいね。また朝まで浴びるほど飲みまくるか。ユァンラオもどうだい?いい女がいるかもしれないぜ。」


普段のお調子者振りを前面に押し出しつつ、ランスロットは以前と変わりの無い態度のまま、元チームメイトに誘いの言葉を投げかけたのだが、この時、彼からどのような返事が返されるのか、ランスロットは既に解っていた。


(ユァンラオ)

「興味がない。」


その後の会話の一切を遮断するかのように冷たく突き放す言葉。


自分の興味心をそそられる事象以外には、何ら少しも関心を寄せない不感症なる男。


そんな男が今回の作戦に自ら進んで参加を決意するなど、ランスロットも全く予想する事が出来なかったのだが、少なくともアリミアの事を助け出そうと言う正義感に駆り立てられた訳では無いのだろう。


アリミアが本気でこの男の素性を暴こうとしていた事と、何か関係があるのだろうか・・・。




ビーッ。ビーッ。ビーッ。



(ルワシー)

「んおっ?やっと来たか?」


(フレイアム)

「予定時刻を15分もオーバーしているな。」


すると突然、コクピット内部に鳴り響いた警告音と共に、目の前のコンソール上で緑のシグナルが激しく点滅を開始した。


勿論それは、工作員回収部隊からの最終連絡受信を知らせるシグナルであり、と同時に、ネニファイン別働隊に対する作戦任務を開始せよと言う合図でもある。


ランスロットはすぐさま、だらしなくシートの上に寝そべった体勢を起き上がらせると、勢い良く掴み取ったグローブを手にめた後で、搭乗するDQの最終機動作業へと移行した。


(ジルヴァ)

「よし!これよりネニファイン別働隊は、オクラホマ南方防衛基地に対する陽動作戦を開始する!レアル隊、エミーゴ隊の各員共に、エリア35-23までラインシフトで前進!その後はお互いに等間隔を保ったまま大きく左右に展開せよ!いいかてめぇら!絶対に遅れるなよ!ソリアス平原の夜空に、盛大な花火をド派手に打ち上げてやろうぜ!」


可愛らしい声色に乗せて下された指示を皮切りに、それまで静けさを保っていた森林地帯が一斉にどよめき始める。


そして、等間隔に綺麗に並んだ6機のDQアカイナンが、後部テスラポットに取り付けられた複数のバーニヤを同時に吹き上がらせると、鳴り響いた大きな爆音と共に、薄暗い闇夜の中を静かに照らし出した。


(ランスロット)

「さーてと。ほんじゃまぁ、ぼちぼち行きますか。」


アリミアの事にしても、ユァンラオの事にしても。


まずは自分がこの戦場から生きて戻ってからの話になる。


あれこれ小面倒くさい事に頭を悩ませるのは、まず目の前の仕事を終わらせてからにしますか・・・。



ランスロットは、TRPスクリーンの左端に視線を置きながら小さい呟きを発すると、ひんやりと冷たい操縦桿を握り締めて、勢い良くフットペダルを踏みしめた。


やがて、森の中に浮かび上がった綺麗な六つの篝火かがりびは、激しい風圧によって周囲を吹き散らしながら、真っ暗な森の中へと姿を消していった。


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