06-10:○解れ始めた糸[1]
セニフがジョルジュ、サフォークと会話するシーンは、通信システムを通してのものだった事を明確にする為に、1箇所だけ文章を変更しました。ストーリーに変更は有りませんのでご了承ください。
第六話:「死に化粧」
section10「解れ始めた糸」
真っ黒な薄いカーテンを重ね引くように、青と言う色を次第に消し行く空の彼方で、巨大な焚き火を燃やしたような紅色が綺麗なグラデーションを形作る。
涼やかな北風と共に訪れた闇の世界は、大地に根付く木々達の足元からヒタヒタと忍び寄り、それまで活発に動き回っていた動物達の意識を、優しく静かな眠りの中へと誘って行くようだ。
やがて四方を濃密に囲った木々達の周囲に、夜と言う黒い香りが色濃く漂い始めた頃、闇に溶け込んだ彼等の影をくっきりと浮かび上がらせるように、森の中を迸る光の筋が、忙しく動き回る働き蟻達の姿を映し出していた。
(チャンペル)
「東方RN-319北端20から54までクリア。オクラホマ攻略部隊通過予定時刻まであと0330。リプトンサム部隊の支援砲撃地点到着まで0020です。」
(バーンス)
「パレ・ロワイヤル基地の周辺状況は?」
(チャンペル)
「現在の所、ナルタリア湖周辺部に大きな動きは見られません。」
(リスキーマ)
「三佐。第七機械化歩兵部隊のフレッチャー三佐から通信が入っています。」
(サルムザーク)
「リスキーマ。回線を回せ。」
(シューマリアン)
「各機体整備作業員は、DQ最終点検作業が終了次第、動力ポットへのテスラマター注入作業を開始。10分以内にFE転換機能チェックまでを完了させるように。DQシステム整備担当者はメインデータ投入後、パラレルシミュレートシステムとの接続テストを開始。DQパイロットの受け入れ態勢構築を急げ。」
(カース)
「各部隊DQパイロットは、速やかにDQに搭乗せよ。繰り返す。各部隊DQパイロットは、速やかにDQに搭乗せよ。」
黒いキャンパスの上に色鮮やかな緑色で描き出したような密林の中で、珍しく木々達が疎らに生え揃う傾斜のなだらかな平原地帯。
ここは帝国南東部に位置するナルタリア湖から東へ約100kmils離れた地点であり、帝国軍のパレ・ロワイヤルミサイル基地を軍事目標に見据える、ネニファイン部隊の仮駐屯地となる場所だ。
1台の牽引車と3つの積載車からなる大型トレーラーが、まるで建物で有るかのように綺麗な4列を形成し、大きな荷台の上にはトゥアム共和国最新鋭人型兵器である、DQトゥマルクが仰向けに寝そべっている。
その他にも、ネニファイン部隊本部付き指揮車となる大型装甲バスや、DQ火器輸送車輌、高出力通信車輌、索敵車輌、補給車輌、DQ整備車輌などが周囲に屯し、まさに移動する小さな軍事基地と言った様相を醸し出していた。
そして、各車輌を網の目のように繋ぎ合わせた無数の太いケーブルの上を、汗びっしょりになりながら駆け回る作業員達が、飛び交った指揮車からの指示に煽られて、更なる慌しさを奏でるのだ。
(マース)
「チャンペル。諜報部からの続報はまだ無いのか?」
(チャンペル)
「現在の所ありません。作戦開始5分前まで続報を待つようにとの指示です。」
(ジョハダル)
「久々の元隊復帰の癖に、余り色んな事に気を回しすぎるもんじゃないぜ。続報が有ろうが無かろうが行く事には変わりないんだ。もう少しリラックスしたらどうだ?」
(マース)
「全く余計なお世話だぜ。俺はてめぇ見たいな楽観主義者とは違うんだよ。」
(ウララ)
「なぁに?喧嘩?喧嘩?」
(メディアス)
「それだけ仲が良いって事だろうさ。あんたみたいな娘は触れちゃダメだよ。」
大きな木々の隙間から満天の星空を拝める綺麗な空気に包み込まれ、緩やかに流れ行く風の中に、赤く長い髪の毛をなびかせながら、セニフは右耳に装着したイヤホンマイクから流れ来る仲間達の会話を聞き流していた。
そして、一番左手にある大型トレーラーの最後尾に到達すると、セニフはその荷台の上へと軽やかに飛び乗り、トゥマルクのコクピットへと続く鉄梯子をよじ登り始めた。
やがて、天空へと向けて大きく口を開け放ったコクピットハッチの元まで辿り着くと、セニフは綺麗に光り輝く無数の星々を見上げて、一際目立って強い光を放つ一つの星をじっと見つめた。
(チャンペル)
「リバルザイナ共和国軍ドラン大佐から入電です。リバルザイナ共和国の飛行編隊は当初の予定通り、21:30を持ってアザンクウルを出立。22:00から24:00までの間、ナルタリア湖上空半径100kmilsの制空権を確保するとのことです。尚、追加兵員の要請については、22:30を最終期限とするそうです。」
(カース)
「ドラン大佐宛てに三佐の名前で返信。貴国の協力に感謝すると。」
(チャンペル)
「了解。」
(リスキーマ)
「サルフマルティア基地から入電。カルッツァ地方の陽動部隊が最後の攻撃を開始との事です。」
淀む事無く透き通った頭上のスクリーンに映し出されたのは、個々が持つ意思を放つかのように、光る事で周囲にその存在を示す「星」と言う存在。
その光の色。その光の強さ。その光の大きさに違いは有れど、そこに何かの価値を見出され、呼称を与えられるまでに至った者は、極僅かに過ぎず、その多くが人々に認識される事も無く、じっと夜空に光り輝いているのだ。
彼女の見上げた視線の先には、「星空」と言う大きな概念的言葉で括られた、極ありふれた自然の風景が広がっていたのだが、彼女は見据えたこの名も無き一つの星に対して何かを強く願い掛けると、ゆっくりと両目を閉じたのだ。
(ジョルジュ)
「セニフ。三号機のデータ投入作業完了したよ。コクピットに入ってメインシステムを立ち上げて。」
(セニフ)
「うん。」
(ジョルジュ)
「センターボールの比率は、三号機の火器装備に合わせて、L4.5:R5.5に調整してあるから、除装時は火器に合わせて比率を微調整してね。」
(セニフ)
「うん。」
(ジョルジュ)
「それと、パラレルシミュレーションに投下するデータは、低威力火器から順番にお願い。システム規模の問題で、敵機の出現数が制限されているから。」
(セニフ)
「うん。」
耳元のイヤホンマイクから流れ来るジョルジュの可愛らしい声色に対して、何処か上の空な返事を三つほど返したセニフは、頬を撫でように過ぎ行く優しげな夜風の中、再び見開いた瞳の奥に願いを込めた星の光を取り込む。
そして、上向きに開いたトゥマルクのコクピットハッチに左手をかけ、搭乗者を待つばかりの薄暗い操縦席へと視線を落とすと、セニフは勢い良くシートの背凭れに飛び乗った。
(チャンペル)
「ネニファイン部隊各機へ。パレ・ロワイヤル攻略作戦開始まで残り0030。各自速やかにDQ最終調整作業を完了させ、作戦開始5分前にはスタートエリアに集合してください。」
普段ハンガーで直立不動に立っているDQに乗り込むのとは違い、狭いコクピット内で真横に90度傾いたシート上に座ると言うのは非常に骨が折れる作業だが、体の大きな他のメンバー達ならいざ知らず、小柄な体躯のセニフにとって見ればそれは造作も無い事だ。
セニフは小さな身体を更に小さく丸め込んで、シートの背凭に腰を下ろすと、細い両足を左から順番にフットペダルの上へと押し上げた。
そして、正面のメインモニターの脇に取り付けてあるカード差込口に、DQ駆動キーを差し込むと、メインスイッチとなる透明なパネル部分に、右手人差し指を軽く宛がう。
すると程なくして、認証完了を示す甲高い音が鳴り響くと共に、目的別に彩られた綺麗な光が、一斉に薄暗いコクピット内部を照らし出した。
やがて、即座にDQシステムと投入データのリンク作業を開始したセニフは、以前ディップ・メイサ・クロー作戦の時に見せた戸惑いや不安を少しも見せず、まさに普段の訓練通りといった感じで、テキパキと流れるように、機体設定作業をこなして行った。
(サフォーク)
「セニフ。バーナーランチャーの出力レンジは、ご希望通り手動で50から150%まで調整出来るようにしておいてやったぜ。火器動力はテスラポット直結だから、指定基準値を超えて使用した場合、直後の機体挙動に支障をきたすからな。気を付けろ。」
(セニフ)
「うん。」
個人パーソナルデータシステム展開・・・完了。
DQ機体神経接続作業・・・完了。
(サフォーク)
「左肩装備の120ミドレンは、暗視センサーの都合で、照準距離が普段の3分の2まで低下している。森の中で狙撃戦も無いだろうが、普段の感覚のまま使用するなよ。」
(セニフ)
「うん。」
センターボールマトリクスシステム・・・異常なし。
火器コントロールシステム・・・異常なし。
(サフォーク)
「ジョルジュ。一号機から三号機のテスラマター注入作業完了。テスラポットFE転換機能に異常は無しだ。キャンサーとのライフラインを切断するぞ。」
(セニフ)
「うん。」
サーチシステム・・・異常なし。
パラレルシミュレーションチェック・・・開始。
(サフォーク)
「・・・。」
この時サフォークの投げかけた言葉は、勿論セニフに向けられたものではない。
しかし、やはりと言うべきか、先ほどから気の無い返事を繰り返していたセニフは、耳元から流れて来た音声に対して無条件に同じ反応を示したのだ。
過去二年間に渡り、チームTomboyの仲間として戦ってきた二人は、お互いにお互いをチームメイト以上の言葉で言い表す事の出来ない、薄っぺらな関係しか構築する事ができなかったのだが、それでもこの時、余りに奇妙な雰囲気を醸し出すセニフの事を、彼も少しは気にかけたのだろう。
ふとサフォークは、緑色の長い髪の毛を掻き揚げながら、軽く溜め息を付いて見せると、そんな彼女に向かって、ちょっとした悪戯を兼ねた、からかいの言葉を投げつけてみた。
(サフォーク)
「なぁセニフ。今回の作戦が終わったら、お前の知り合いで誰か綺麗な女性を紹介してくれよ。」
(セニフ)
「やだよ。」
(サフォーク)
「じゃあ、数年後のお前でも良いぜ。」
(セニフ)
「もっとやだよ。」
何もこんな時ばかり、普通に返事を返さなくても・・・。
先に習ってセニフの上の空な返事を期待した彼の目論見は、即座にそれを拒絶して見せた彼女の反応の前に、儚くも簡単に消え去ってしまう事になるのだが、それでも彼は大型トレーラーの荷台の上に横たわる、トゥマルクの姿を見上げて少し口元を緩めて見せると、静かな口調でセニフに語りかけた。
(サフォーク)
「へっへ。少し安心したぜ。俺はまたてっきり、お前の意識が遠く離れた北の大地にあるんじゃ無いかと思ってな。アリミアの話は俺も聞いてるが、今のお前にはそんな余裕はないだろ?まずは目の前に与えられた仕事を、きちんとこなさなきゃな。」
(セニフ)
「そんな事言ったって。心配なものは心配なんだもの。サフォークはアリミアの事、心配じゃないの?」
(サフォーク)
「そりゃまあ。心配じゃないって言ったら嘘になるかも知れないが、それでも幾ら俺達が心配したからって、奴が無事に帰ってくる保証はないだろ?」
(セニフ)
「そっか・・・。サフォークって、案外冷たい人間だったんだね。」
(サフォーク)
「まあ、悪く言われんのは、まさにその通りだから仕方ねぇが、でも、お前が今すべき事は、アリミアを心配してやる事じゃない。そこん所は解っているよな?」
(セニフ)
「解ってる!解ってるけど・・・。解ってるけどさ・・・。」
(サフォーク)
「じゃあさ。少し考え方を変えて、前向きにこう考えてみたらどうだ?アリミアを救出に向かった奴等が、幾ら有能な人間達だとしてもだ。オクラホマ都市の防衛機能全てを相手に回して、難なく目的を果せる程、世の中甘くないだろ?」
(セニフ)
「・・・・・・・・・うん。」
(サフォーク)
「と、すればだ。奴等の負荷を少しでも軽減させる為に、共和国軍の本隊には、出来る限り早くオクラホマ都市へと、到達して貰わなければならない訳だ。」
(セニフ)
「・・・・・・うん。」
(サフォーク)
「本隊がオクラホマ都市へと進攻する過程で、一番の障害と成り得るのが、パレロワイヤルミサイル基地だ。となると、ネニファイン部隊がどれだけ早く、この基地を制圧できるかが、大きなポイントとなって来る。確かにお前が直接アリミアを助けに行く事は出来ないが、それでもお前一人の力だけで、アリミアを助け出すことはできないだろ?」
(セニフ)
「・・・うん。」
(サフォーク)
「だったら他の人間達の手を借りるしか無いよな。折角うちの隊長がアリミアを助け出す為の作戦を、あれこれ思案して捻り出してくれたんだ。皆の力を合わせて、アリミアを救い出そうって言ってくれてるんだぜ。それを利用しない手は無いと思うがな。」
(セニフ)
「うん。」
(サフォーク)
「今回の作戦でお前が頑張れば頑張るほど、それだけパレ・ロワイヤルミサイル基地攻略と言う目標が近づく。そしてそれは、オクラホマ攻略部隊の為にもなるし、最終的には、アリミアを助ける事が出来る可能性を高める事にもなる。今はあれこれ余計な心配をするより、目の前の作戦をどうこなすか、どう自分が戦うかが、お前にとっては重要な事だと思うぞ。」
確かにサフォークの言う通り。
幾ら私がアリミアの事を心配したからと言って、アリミアが無事に帰ってくる保証は無い。
幾ら私がオクラホマ都市へと乗り込む決意したところで、何も出来ないただの小娘一人に、困難な状況を打開する力なんて無い。
逆にかえって足手まといになるだけだ。
こんな私に唯一出来る事とは。
アリミアを救出する作戦を成功させる為に出来る事とは。
トゥアム共和国軍の作戦を成功させる為に出来る事とは。
セニフはふと、開いたままのコクピットハッチの向こうに広がる綺麗な夜空を見上げながら、着込んだパイロットスーツのジッパーを首から胸元まで引き下ろすと、内ポケットに忍ばせていた二つの小さな紅いヘアピンを取り出した。
そして、真っ暗な闇夜に光輝く星の元にそれを翳して、下唇を強く噛み締めると、再び両目を瞑って強い願いを心の中で呟いたのだ。
私は、アリミアに会いたい・・・。
私は、アリミアに会って、話がしたい・・・。
本当に色々。何でも。自分の想いの全てをぶつけて話をしたい。
アリミアはずっと、それを待ってたんだ。
アリミアはずっと、それを願っていたんだ。
アリミアの事をとやかく言う前に、まずはアリミアの事を知らなきゃならなかったのに。
我儘な私は、全然アリミアの言う言葉に耳を傾けず、ただ必死に、必死になって逃げ回ってただけ。
拭い去れない忌まわしき過去は変わらない。
でも、アリミアが私の事を助けてくれた事実も変わらない。
ブラックポイントの時も。ランベルク地下基地の時も。
アリミアはいつも、私の事を想ってくれていたんだ。
こんな私の為に・・・。こんな自分勝手な私の為に・・・。
パラレルシミュレーションチェック・・・完了。
(セニフ)
「そだね。そうだよね。」
やがて、トゥマルクの戦闘準備作業が全て完了した事を告げるグリーシグナルが、セニフの表情を強く照らし出すと、彼女は左手に持った紅いヘアピンを、ギュッと強く握り締めた。
(セニフ)
「いっつもちゃらんぽらんなサフォークに言われて納得するのは、少し癪だけど、たまにはまともな事も言うんだね。」
(サフォーク)
「なぁに。別働隊に駆りだされたシルの代わりに、少し奴の真似事をしてみただけよ。どうだ?俺の口ぶり奴に似てただろ?」
(セニフ)
「あっはは。全然似てない。全く似てない。」
セニフは軽い笑い声をコクピット内に響かせ、何処か少し吹っ切れた様子で小さく息を吐き出すと、すぐさま手に持つヘアピンを内ポケットの中へと仕舞い込んだ。
そして、シートの直ぐ後ろにぶら下げてあったヘルメットを手に取り、中に入っていた真っ白なグローブを両手に嵌めた後で、コクピットハッチを閉じる赤いスイッチを軽快に弾き飛ばした。
(カース)
「ネニファイン部隊司令部から各機パイロットへ。パレ・ロワイヤルミサイル基地攻略作戦開始まで0010。各自作戦準備を進めながら聞くように。現在の所、諜報部からの続報はまだ無いが、この情報は入手出来次第、信号弾を使用し各機にデータを送信する。作戦開始時点のプランはAタイプとなるが、もし作戦プラン変更指示が出た場合、即座に新たな作戦プランを順守する事。ファーストアタッカー部隊4小隊は、ネニファイン部隊仮駐屯地αから西方40kmils地点βまで、FTPフィールド展開隠蔽モードで前進。その後、指定時間到達まで同ポイントで待機する事。現在ナルタリア湖周辺部には、高濃度フィールド防壁が存在している事が確認されている為、司令部への情報伝達においては、各小隊長の判断で信号弾を使用する事を許可する。セカンドアタッカー部隊2小隊は、第一種戦闘体制を維持したまま、次の私の指示を待つように。」
私に出来る事。
それは、目の前のパレ・ロワイヤルミサイル基地攻略作戦に全力を尽くす事。
出来るだけ早く、障害となる敵部隊を排除殲滅する事。
どんなに私の手が汚れようと関係ない。
どんなに私の心が汚れようと関係ない。
私はアリミアの為に戦うんだ。
(サフォーク)
「なぁ。セニフ。この作戦が終わったら、皆で一緒に飲みに行こう。昔みたいに皆で楽しく騒ごうぜ。だからちゃんと生きて戻って来いよ。」
(セニフ)
「うん。」
再びサフォークの言葉に頷いて見せたセニフの口調に、もはや先ほどのような迷いは感じられない。
セニフは胸の内ポケットの中に収めた紅いヘアピンを、パイロットスーツの上から、そっと両手で優しく包み込むと、やがて外界とを遮断するコクピットハッチが閉じきると同時に、満天の星空を浮かび上がらせたTRPスクリーンを見つめる。
そして、遥か北の空に輝く星に向かって、心の中に強く抱いた切なる願いを、小さく呟いたのだった。
(セニフ)
「神様・・・。どうか神様・・・。アリミアを守って・・・。」
黒く淀んだ闇の世界に、微かに輝く光の温もりに希望を抱いて。
彼女はゆっくりとヘルメットを被ると、やがてスタートエリアへと召集を促すシグナルに合わせて、トゥマルクの機体動力部を大きく吹き上がらせた。
EC397年6月16日深夜。
静けさと冷たさに包み込まれた自然の大地が静かに眠りに落ちる頃、もはや解れ様も無く複雑に絡み合った陰謀の渦が、激しい殺戮の業火を求めて目覚めた亡者達の手によって抉じ開けられる。
それは燦燦と光り輝く眩い未来への道筋なのか。
それとも、暗黒の闇に閉ざされた悲しき絶望への末路なのか。
その終局となる答えを必死に手繰り寄せようとする、人々の思いを察するかのようにして。
パレ・ロワイヤルミサイル基地攻略作戦が開始された。