01-09:○黒いお抱え衛兵[3]
第一話:「ルーキー」
section10「黒いお抱え衛兵」
(ジャネット)
「1機来たわ!!」
ジャネットの叫び声と共に、それまで密林の中で隠蔽待機中だったチームTomboyに、「Warning」を知らせるシグナルが点滅した。
彼女達が待機する地点から程近く、注意深くその動向を見守っていた最強の敵カーネルが、ようやく動きを見せ始めたのがこの時だ。
程なくして迸った緊張感に包まれる中で、ジャネットは抹茶色の癖毛をかきあげると、チームBlack'sのその後の行動に注意深く視線を向ける。
(ジャネット)
「・・・・・・あれっ?」
(セニフ)
「・・・1機・・・だけだね・・・。」
沸き立つやる気を一杯に、心の中に充満させて待ち伏せていた彼女達。
しかし、そんな彼女達の思いとは裏腹に、前後二手へと分裂を見せたチームBlack'sから、Tomboyへと宛がわれた贈り物は、たったの1機だった。
しかも、残りの2機に関しては、まったく戦闘態勢に移行する様子も無く、静かに北の方へと後退を始めるではないか。
(アリミア)
「完全になめられてるね。面白くないわ・・・。」
少しばかりドスの利いた低い声でアリミアが呟いた。
普段は物静かで、見た目の怖さとは対照的な優しさを持つ彼女も、正面切って見下される行為に対しては、面白くない感情を抱くようだ。
アリミアが、こんなにも感情的に「怒り」を表すことは非常に珍しいことで、通信機越しに言葉を伝え聞いたセニフでさえ、少しの悪寒を背中に感じてしまう。
身分不相応ながらも、彼女達としては、3対3の対等の条件を持って、このチームBlack'sに挑みたかったのであり、何も「女だから」「子供だから」と、相手の油断を誘い出して有利な戦況を望んだ訳ではない。
(セニフ)
「ジャネットは右回り!!アリミアはバックアップ!!行くよ!!」
まったく次なる作戦の指示さえも、飛ばす事のないアリミアに立ち代り、隊長でもないセニフの指示が飛んだ。
(ジャネット)
「アリミア。怒るのも良いけど、貴方らしくないわ。まずは目の前の一機を撃破することを考えましょう。バックアップ。任せるわね。」
コクピット前面に張り巡らされた、外界を映し出すTRPスクリーン越しに、眩いばかりに光を放つ2機のDQが、アリミアの目の前を勢い良く飛び出していく。
セニフを乗せたパングラードは左手方向、そして、ジャネットを乗せたラプセルは右手方向へ。
あまりの手際のよさを見せ付ける2人の行動に、少し驚いたような表情を見せたアリミアだったが、徐に狙撃用サーチゴーグルを装着すると、即座に通信マイクに指示を飛ばした。
(アリミア)
「セニフが先行!ジャネットが二番手!敵の攻撃を牽制しつつ、相手の動きを少しでも緩めさせて!相手はあのカーネルよ!出来る限り無茶は避けるように!」
(セニフ)
「了解!」
(ジャネット)
「了解!」
少し、私自身の方が飲まれていたのだろうか・・・。
アタッカーリーダーの私がしっかりしなくてどうするのよ・・・。
ふと、アリミアが、先ほど胸に抱いた怒りの源を探りながら思う。
右手を握り締めたまま胸へと押し当て、ゆっくりと目を瞑った彼女は、迫り来るカーネルという強敵に対して、新たな闘志を燃え上がらせるために、大きく一つ息を吐き出した。