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第9話 メイン攻略対象は自己アピールが過剰

「やぁ、偶然ですね、シエルさん。それにサブリナ」

「あら、リオン様。本日もご機嫌麗しゅう」

「……」


 白々しい挨拶を交わし合う、シエルとリオン。私を半ば無視して繰り広げられるやり取りに、私はそっと溜息を吐いた。

 シエルと会ったあの日以来、リオンはずっとこんな調子だ。私を相手にしていた時との露骨過ぎる態度の違いに、例え愛のない婚約者だとしても辟易してくる。


 偶然を装い、私とシエルの行く先々に現れる。それが現在のリオンの日課である。


 流れはこう。まずは私のクラスに複数名、協力者を作る。リオンはジェフリーと違って温和で人当たりがいいから、協力者には事欠かない。

 そして恐らくは私ともっと仲良くなりたいとでも言っているのだろう、彼ら彼女らに私とシエルの行動を調査させ、報告させる。後はそこに自分も訪れ、偶然という事にしシエルに自分をアピールする。ハッキリ言って回りくどい事この上ない。

 確かに常に言い寄られる立場だったリオンにとって、自ら異性に自分をアピールするというのはきっと初めての事だろう。試行錯誤したとしても、無理のない事のように思える。

 けどだからと言って、何をしてもいい訳ではなくて。前世の世界ではこういうのはストーカーといって、立派な犯罪行為らしい。この世界にはそんな概念ないけどね!

 ……それともゲーム内で主人公が行く先々で攻略対象と会う仕組みって、もしかしてこういう事なのかしら。え、待って。一気に恋愛ゲームが怖くなってきたんだけど。

 とにかく――シエルは基本、私を目視出来ない範囲には行かない。なのでリオンも、あくまでも探しているのは私という大義名分を得られている訳。


「シエルさん、今からお食事ですか? 私もご一緒しても構いませんか?」

「ううん……わたくしはあくまで使用人。わたくしの一存では決められませんわ。どうなさいますか、サブリナ様?」


 リオンからの食事の誘いを、シエルはわざとらしく悩む素振りを見せた後、私に笑顔で丸投げしてくる。直後に、リオンの目がすがるように私に向けられた。

 ほらきた。いつもこうなのだ。シエルはリオンに何かに誘われる度、必ず私に決定権を委ねてくる。

 それは暗に、「わたくしの一番はサブリナ様です」と主張するかのように。巻き込まれる方はいい迷惑なんですけど!


「……そうね。いいんじゃないかしら」

「ありがとうございます、サブリナ!」


 仕方無く溜息と共に私が頷くと、リオンは目に見えて解るほどパアッと目を輝かせた。リオンとの付き合いは十年ほどになるけど、こんな顔、子供の頃ですら見た事ないわよ。

 ……まぁ、正直に言えば、これで終わるなら別にいいの。今のリオンの様子はちょっと迷惑ではあるけど、微笑ましいと言ってもいいものだし。

 問題は……。


「これはこれは。今日も女の尻を追いかける事に熱心とは堕ちたものだな、兄上」


 ――来た。私にとって、本当の問題が。

 私とシエル、リオンが、一斉に声のした方を振り返る。そこには――。


「ジェフリー……!」

「やぁ、兄上。奇遇だな」


 現れたその青年――ジェフリーを、リオンがキッと睨み付ける。それに余裕たっぷりの笑みを返して、ジェフリーはズカズカとこっちに近付いてきた。


「シエル、こんな男よりも俺と食事をしないか? 面白い話もたっぷりと聞かせてやる」

「まぁ、ジェフリー様の?」

「シエルさん、このような不躾な誘いなど聞く必要はありません! ジェフリー、彼女には私が先に約束を取り付けたのですよ!」

「ハッ、知らないな。選ぶのは兄上ではなくシエルだろう? なぁシエル、俺の方がいいよな?」


 リオンを軽くあしらい、ジェフリーが強引にシエルの視線に割り込む。そんなジェフリーを見ても、シエルはいつもの天使の笑みを浮かべるばかり。

 ああ……また始まった。王子二人によるシエルの取り合いが。


 前世の記憶によれば、ジェフリーは双子でありながら自分より上に立つリオンにコンプレックスを抱いていた。彼の普段の尊大な振る舞いは、それを隠す為であるらしい。

 そんな気に食わない相手が、初めて特定の誰かに興味を示した。しかも、婚約しているのとは別の女に。

 もし自分が彼女を手に入れれば、それは即ちリオンに勝利したという事。そう思ってシエルに近付くようになるも、やがてシエルに本気になっていく……というのがジェフリールートの流れだったわね、確か。

 つまり今目の前では、リオンルートとジェフリールートが同時進行してるという事。ええ、現実ではこうなるわよね。攻略対象同士が主人公の取り合いをしないのはゲームだからだものね!


 ……本当に私は何でここにいるのかしら。二人にとって、私の存在は思い切り蚊帳の外。その辺のモブとおんなじなのに。

 私だって、さっさと退散したいわよ。それをしないのはシエルが心配だからと言うのもあるけど……何よりも!


「それはやはり、サブリナ様に決めて頂かなくては。サブリナ様、どうしましょう?」


 これ! シエルがジェフリーからの誘いまで、私に丸投げしてくるせい!

 そんなの、自分で決めたらいいじゃない! これは絶対、私の反応を楽しんでる!


「サブリナ、シエルに相応しいのは私ですよね!?」

「……おい、自分の婚約者を取られたくはないだろう」


 リオンは、無自覚な畜生発言で私に迫ってくる。ジェフリーは以前私に金的を喰らった事を根に持ってるのか、射殺さんばかりの勢いで睨んでくる。

 私は、一つ大きな溜息を吐いて――。


「……レディの目の前で堂々と喧嘩を始めるような野蛮な人達は、二人とも消えて頂戴」


 と、内心シエルが最も望んでいる言葉を今日も口にするのだった。

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