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第33話 ヒョウタとディアスの生きる道

「サブリナお嬢様、ディアス殿下がお見えになりました」

「は?」


 それから数日後。部屋でくつろいでるところに突然メイドからそう告げられて、私は思わず固まった。

 いやっ……いや、用があるのはいいけど、何でうちにまで来るのよ!? まさか、ヒョウタに限ってそれはないとは思うけど、王太子の地位を利用して何かしらの圧力をかけようって言うんじゃ……。


「……解ったわ。すぐに着替えて行くと伝えて頂戴」

「かしこまりました」


 メイドが下がったところで、長い溜息を吐く。……どうしてこう、心労が絶えないのかしら……。

 急いで来客用のドレスに着替え、客間に向かう。扉を開けると、正装に身を包んだヒョウタが軽く頭を下げた。


「すみません。突然お邪魔したりして」

「何の用? 決闘で負けた貴方が私と二人きりを望むのは、ルール違反じゃないかしら」

「安心して下さい。……これが最後ですから」


 敢えて厳しく接する私に、ヒョウタは眉を下げ苦笑する。そして「どうぞ」と、私にソファーに座るよう促した。

 私が座ると、ヒョウタも向かいのソファーに座った。流れる沈黙。けれどそれはすぐに、ヒョウタによって破られた。


「……今日は、貴女に謝りたくて来たんです」

「え?」


 ヒョウタの意外な言葉に、私は目を丸くする。そんな私にまた苦笑して、ヒョウタは話を続けた。


「僕は、ずっと逃げていました。ディアスとして、人生を歩む事から。何の責任もない、前世の、福山ふくやまヒョウタのままの自分でいたいって、ずっとそう思ってたんです」

「……」

「ゲームのシナリオに登場する頃になっても、それはずっと変わらなかった。そんな時……貴女と出会ったんです」

「……初めて会った、あの時ね」


 ヒョウタが小さく頷き、私が来る前にメイドに出されたらしい紅茶を飲む。それはヒョウタの心を、少し落ち着けたようだった。


「嬉しかったんです。僕の気持ちを解ってくれる人が、やっと現れたって。理解者が出来たって、そう思ったんです」

「……それは、貴方の思い込みよ」


 ヒョウタの主張を、私はバッサリと切り捨てる。事実、私はヒョウタが言うほど、ヒョウタに理解を示してた訳じゃなかった。

 けれど、予想とは違って、ヒョウタは穏やかな顔で肯定の頷きを返した。


「はい。結局僕はただ、サブリナさんに甘えていただけだったんです。今の中途半端な自分でいてもいいって、免罪符が欲しかっただけなんです。その事に、彼――シエルは、気付かせてくれました」

「……彼?」


 待って。今、聞き捨てならない単語を聞いたわ。

 シエルの事を、「彼」と呼ぶ。それって、つまり……。


「……すみません。保健室での会話、聞いてしまいました」

「!!」


 その言葉に、一気に血の気が引く。バレた……シエルの秘密が……!


「大丈夫です。誰にも言えない事を抱えてるのは、僕も同じ。この事は、誰にも言う気はありません」


 焦る私に、けれどヒョウタはやんわり首を横に振った。


「保健室での話を聞いて、ああ、僕は負けて当然だったなって思いました。自分を偽って生きているのは一緒なのに、僕と違って彼は、自分自身とも今の境遇とも、真っ直ぐ向き合おうとしている。だから貴女は彼を選んだし、僕は彼に勝てなかった」

「……ヒョウタ」

「その呼び名も今日限りです。……僕も少しずつですが、区切りをつけようと思います。過去ヒョウタに縋って生きるんじゃなく、現在ディアスと向き合う為に」


 そう言ったヒョウタは、どこか吹っ切れた顔をしていて。彼の言う事が、強がりなんかじゃない事を示していた。


「そう。……私も、それがいいと思うわ」

「はい。本当に、色々迷惑をおかけしました!」


 大きく頭を下げるヒョウタ――いえ、ディアスを見て私は思った。……きっと彼はもう、大丈夫だ。


「それじゃあ、話したい事は全部話しましたし、僕は帰ります。……あ、忘れてた、最後に一つだけ」


 立ち上がり、背を向けかけて、ディアスが一度振り返る。そして、酷く神妙な顔付きになった。


「どうしたの?」

「この部屋に来る途中で見かけたのですが……この屋敷、妙な輩が出入りしているようです。サブリナさんとシエルさんには関係ないと思いたいですが……どうかご用心を」

「え……?」


 突然の不穏な忠告に、私の背筋に一筋、冷たい汗が流れた。

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