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第32話 改められた、二人の誓い

 決闘が終わり。私とシエルは揃って、怪我の治療の為に保健室に連行された。

 私は掠り傷程度で済んだけど、シエルはほぼ全身青痣だらけという有様で。シエルは無理をするな、私は立場を考えろと、二人で保険医の先生にお叱りを受けた。

 そして今、先生は用事があって席を外し、私とシエルは保健室に二人きりになった訳だけど……。


「……」


 ……この通り、何故かシエルは、さっきから一言も口を聞いてくれない。何を話しかけても、無視を決め込むばかりだ。

 そんなに、決闘を邪魔されたのが気に入らないの? だって、ああしなきゃ、シエルがますますボロボロになってただけじゃない!


「……言っておくけど、私は自分が悪い事した、なんて思ってないわよ」


 私は押し黙るシエルに、毅然とそう告げた。自分が間違ってた、なんて、私は絶対に思わない。

 だって――。


「大切なものを守りたい、と思うのは、当たり前でしょう?」

「……」


 そうよ。私、やっと気付いたの。

 恋なのかは解らない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 でも、間違いなく。今の私にとって一番大切な存在は、シエルなの。


「……サブリナの事を、怒ってる訳じゃない」


 少しの間を置いて。やっと、シエルが口を開いた。


「じゃあ、何で返事をしてくれなかったの?」

「これは僕自身の問題だ。放って置いてくれ」

「放って置けないわ。……私はいつも通りに、シエルと過ごしたいの」


 強い言葉で距離を取ろうとするシエルに、負けじと詰め寄る。シエルは不服そうに眉を潜めていたけど、やがて観念したように、深い溜息を吐いた。


「……簡単に言えば、醜い自己嫌悪だよ」

「自己嫌悪?」

「当然だろ。好きな女の子を守ろうと思ったのに、逆に守られたんだ。……いくら僕が女より女らしいからって、流石にへこむさ」


 そう拗ねたように言うシエルを、思わずマジマジと見つめてしまう。……絶対に決闘をすると言い張った事と言い、シエルがこんなに男としてのプライドにこだわるとは思わなかった……。


「……何、その顔」

「いや……何か、意外だなって……」

「……言っておくけど、君のせいだよ、サブリナ」


 考えが顔に出てしまったらしい。更に機嫌を損ねたような表情で、シエルがそんな事を言った。


「私の?」

「君と再会してからだよ。こんなにも、男としての自分を意識するようになったのは」

「え……?」


 言いながら、少し赤くなるシエルの顔。それを見て、私の胸は小さく高鳴ってしまう。

 だ……だって、しょうがないじゃない! 私と会って、男になろうとしてる、なんて、そんな風に言われたら……。


 ……ん、あれ? 今の言葉、ちょっと違和感があったような……?


「……もっと、強くなりたいな」


 不意に浮かんだ疑問を掻き消すように。ぽつり、シエルが呟いた。


「今までは、願ってはいても、どこか漠然としてたんだ。けど今、僕はハッキリと思うよ。男に戻りたい。男に戻って、君に相応しい男になりたい」

「シエル……」

「いつまでもこのぬるま湯に浸っていたいけど、それじゃ駄目なんだ。僕は僕の務めを果たす。だから今までのようには、君といられなくなるけど……」


 シエルの手が、そっと、私の頬に触れる。陶磁器のように白く整った掌は、見た目に反して、とても暖かかった。


「必ず、男に戻るから。その時は、堂々と、君を貰いに行く。……約束だ」

「……ええ。待ってる」


 その小柄な手に自分の手を重ね合わせ、私もまた、笑った。

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