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第3話 ゴミ掃除

「えっ?ていうかちょっ…ぶふっ…!!お前ら見ろよ!今日のコイツ、クソダサマントマンじゃん!うひゃひゃひゃひゃ!!」



 品性のかけらも感じさせない素行でパーティーメンバー共々俺の姿を指差して爆笑している。



(煩いな、好きでこんな格好してるんじゃないんだよ。)



 と、内心悪態を吐くも言い返せない。

 先日コイツにいたぶられた記憶がフラッシュバックし思わず腰が引ける。



「あー、やべーわ。急に能無しがギャグセン磨いてきたから腹いてぇわ…ん?」



 一頻り笑い終えたヴィンスは俺の傍に立つ存在に気付き思わず目を丸くした。



「おい、ちょいまち。誰あの銀髪の激マブちゃん?」

「なんか噂じゃアルトのメイドらしいっすよ。」

「は、マジ?信じらんねーんだけど。」

「めちゃ上玉っすね。」



 メンバーとリィンの外見についてあーだこーだ話し合っている。無理もない、リィンは影のある美人使用人にしか見えない。

 顔の右側を覆う眼帯がミステリアスさを演出していて余計に魅力的に映るだろう。


 だが値踏みされている当の本人は分かっているのか分かっていないのか、キョトンとした様子だ。

 逆にその顔がヴィンスの嗜虐心を煽ったようで舌舐めずりしながら欲にまみれた言葉を投げかけてくる。



「いーねぇ、その顔。お高くとまっててグチャグチャに泣かせてやりてぇよ。」

「…。」

「言葉も出せずにビビっちまったかぁ?今ならやさーしくベッドの上でレクチャーしてやってもいいんだぜぇ?」

「…おや。」

「あ?」



 身動き一つしなかったリィンがようやっと何かに気付いたように反応した。



「失礼、余りにも言語が汚すぎて人間だとは思いませんでした。」

「あぁん?」

「猿の言語かと思い思考が停止していましたが、まさか人間だったとは。」

「…あ”?。」



 個人的には嘘か本当か判断に困るリィンの煽りにヴィンスの顔は真っ赤になった。

 鼻息は荒く、歯ぎしりの音がここまで聞こえる。


 プライドの高いヤツのことだ、ここまでコケにされたことはないだろう。



「…おい、やれ。」

「「「え?」」」

「いいからこのアマに身の程を教えてやれつってんだよ!!」

「「「お、おう!」」」



 ギルドの至る所から悲鳴が上がると同時にヴィンスのパーティーメンバーがリィンに躍りかかった。

 マズい、ヤツらもヴィンス程ではないが腕利きだ!



「リィン!」

「ご安心を、我が主(マスター)



 思わず声を上げたが俺の心配をよそにこちらを振り向きつつ、リィンは男の一人をヒラリとかわした。



「くそがぁぁ!」

「おらあぁ!」



 殴りかかる男の勢いをそのままに放り投げ、タックルを仕掛けてくる男を踏み台にしてリィンは地面に降り立った。


 すると、しなやかな所作でスカートの裾を広げこう言った。



「ゴミの処理はメイドの仕事でございますので、しばしお時間を頂きます。」




 ◇




「…凄いな。」



 数秒後、ギルドの床に屈強な男が3人山のように折り重なって積み上げられていた。

 喧嘩と呼べる代物だったのかすら定かでないほど、一瞬の出来事


 まるで踊っているかのように攻撃を躱し、死角からの攻撃にも上手く合わせて一発で昏倒させていた。

 もし、遺物としてのパワーをフル稼働させていたらもっと一方的な虐殺劇になっていたかもしれない。



我が主(マスター)、片付きまして御座います。」

「あ、あぁ。凄いね…リィン。」



 そう言いながら俺に傅くリィンの衣服は一矢の乱れもない、アイロンをかけたそのままのパリッとした質感のまま。

 冒険者3人を相手にしてこの余裕、げに恐ろしい実力だ。


 リィンの隠された実力に舌を巻いていると周りの野次馬が騒めいた。

 顔を上げると頭に血管が浮かんだヴィンスの姿があった。



「お前ら…随分コケにしてくれたなぁ"…?!」



 その手には抜き身のロングソードが握られていた。

 マズい…ヴィンスの奴キレやがった。


 ギルド内でのイザコザで発生した暴力沙汰は警告で済むが、武器を使っての殺傷となると刑罰の対象になる。

 それを分かっていないヴィンスではないだろうが…顔を見るからに完全にトんでいる。



「お、落ち着けヴィンス!」

「さすがにそれはやべぇって!」

「誰か早く支部長呼んできて!」



 野次馬も流石に空気が変わったことに慌てふためき騒ぎ立てるが



「うるせぇ!!!」



 ヴィンスの一括で場は水を打ったように静まり返った。



「能無し野郎とメイド如きにここまでされてよぉ…ぶっ殺さずにいられるかってんだよ… なぁ?!」



 ヴィンスの身体が隆起し、室内だというのに漏れ出した魔力で風が吹き荒れる。

 本気だ、身体強化の魔法まで使いやがった。

 本気で奴を怒らせないようにいつも諦めてきたのに…



(殺されるッ…!)



 目が耳が肌が危険を察知し警鐘を鳴らしている。

 目の前の男が間違いなく俺を殺そうとしているという確信。

 恐怖が身体を精神を塗り潰そうとしたその時、声が響いた。



我が主(マスター)。」

「こ、こんな時になに?」

「それは武者震いというものですね。」

「…は?」



 気付けば握りしめた手が、辛うじて立っている足が震えていた…がそうじゃない!



「いや、これはちがっ…」

「あの程度の猿ならば私が、と思いましたが流石我が主(マスター)、怨敵との幕引きはご自身でなされるということですね。」



 え、何言ってるのこの子。

 死ぬかもしれない恐怖に駆られて震えてるのに武者震いとか戦闘種族じゃないんだから。



「いや、あのねこれは――」

「確かに我が主(マスター)の力ならばあの猿に遅れを取るはずもございません。」

「力って何を言って…」



 そこまで言った所で気がついた。

 俺の背中に背負った鞄のような金属の塊

 ソレは俺を救ってくれた鋼の鎧

 数日前まで俺が持っていなかった魔法でもない新たな力。



「…いけるかな?」

「いけますとも、我が主(マスター)。」

「…そっか。」



 リィンの言葉に押され心が前を向くが、まだ身体が恐怖に当てられてか重苦しい。



 フッと一呼吸



 そしてそっと(おとがい)に掌を当てコキリと首を鳴らす。


 すると身体にべったりと巻きついた恐怖と緊張が乾いた音と共に少し抜けたような気がした。



 …うん。

 まだ恐怖は拭いきれていないがさっきほどじゃない。

 震えも若干あるけど、これはきっと…武者震い。



「あ"ん"?」



 心を整えつつ、ゆっくりと猛り狂うヴィンスに向き合う。

 一歩踏み出した俺を見てヴィンスは思わず眉を顰めた。



「おい能無しィ…、何の冗談だ?」



 今まで歯牙にもかけなかった雑魚が目の前に立ちふさがったんだ、そりゃ不思議だろう。

 いつも蔑んでいた存在が真っ向から向き合っているんだ、訳が分からないだろう。

 俺だって不思議でならないぐらいなんだから。


 でも、あれほどに強いリィンがそういうんだ、俺にも出来るんだろう。

 欠片ほども無い俺の勇気を、背中を押してくれたんだったらやってみようと思うんだ。



「あー、実はなヴィンス。俺前からずーっと聞きたかった事があるんだ。」

「あ?」

「いっつもお前の口からクソみたいな匂いがするんだけど…本当にクソでも食ってるのか?」

「よし分かったぶっ殺す。」



 はは、言ってやったぞ。

 これでもう引けない、やるしかない。

 再び吹き上がる魔力の風に身震いするが、きっと…今の俺ならやれる。



「ご武運を、我が主(マスター)。」



 吹き荒れる風の音の中確かに届いたリィンの声。

 振り返らずに頷き、拳を握って叫んだ。





「行くぞヴィンス…【着装】!!」


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