第6話 魔王軍一匹目のモンスター
■■■
魔王城▼
俺は【はじまりの平原】からスキル《空間転移》でスライムと一緒に魔王城に戻った。
俺が【はじまりのまち】に行く前よりも綺麗な気がする。どうやらスモッグゴーストが城内の清掃を行ったばかりらしい。
「ただいま〜。モンスター捕まえてきたぞー。」
「え、僕捕まったの⁉︎てか君本当に冒険者なの?当たり前のようにこんな所にワープするし。」
スライムが慌てふためいて騒いでいる。
うるさいなぁ、言う事聞くって言ったろ。あんまりスモッグゴーストに迷惑かけたく無いんだが。
そんな事を考えていると玉座の間の扉が開き、廊下からスモッグゴーストが入ってきた。
「あっ!魔王様、お帰りなさいませ。ん?隣にいるのはスライムですか?やけに大きいですね。」
スモッグゴーストがスライムの周りをクルクルと回りながら興味深そうに観察している。
「あぁ、魔王軍の一員にしようと思って連れてきた。」
「...ねぇ今の話聞いて分かったけど、君本当に魔王なの?君まだレベル2でしょ?」
スライムが疑心暗鬼の目でこちらを見てくる。レベル低くても魔王ですよ、何か悪いんですか?
「魔王様レベル2になったんですか!随分と早いですねえ。ジョブはどうなさったので?」
スライムの話を聞き、レベルの上がる速度に驚いたのか興味津々に聞いてくる。
「驚くなよ。冒険者だ!」
……魔王城の空気が静まり返った。
もとより人数が少ないので静かだったが。
「ぶっ!君よく冒険者で自慢げに言えるね。ある意味才能だと思うよ。“魔・王・様?”キャー!」
うぜぇ。何だこのスライム。
もう一回空から落っことしてやろうか。
「まぁ、冒険者はレベルが上がりやすいですし
良いと思いますよ。」
スモッグゴーストはスライムと違って優しいなぁ。
だが一つ疑問がある。
「冒険者でレベルが上がったら
魔王としてもレベルが上がるのか?」
そう、俺は冒険者レベルが2になったのは分かっているが魔王としてレベルが上がったかどうかは知らない。
「その点については大丈夫です。『魔王』というジョブはいくつかのジョブとリンク出来るので『冒険者』でレベルアップすれば『魔王』としてもレベルアップします。」
俺はホッとして胸をなで下ろす。
良かった〜、冒険者としてレベル上がっても魔王として上がらないんじゃ意味無いもんな。それこそ復興どころじゃなくなってしまう。
そうだ、復興で思い出した。
「なぁスモッグゴースト。この連れてきたスライムを魔王軍に編成しても良いか?」
「スライムですか、良いと思いますよ。魔王様が連れてきたモンスターであれば信頼できますし。」
スモッグゴーストはあっさりと承諾してくれた。
しかし俺の事を過大評価してないだろうか?俺はまだそこまで尊敬される様な事はしてないんだけどな。
「スライム、お前もそれで良いか?」
「僕は構わないけど。魔王軍に編成されるってことは君...じゃなかった、魔王様?の部下になるんだよね。」
「まぁそうなるな。でも俺はお前も、これから魔王軍に編成するモンスターも道具みたいに使いたく無い。だからあくまでもお前の意志を尊重する気でいる。俺の仲間になってくれるか?」
そう言うと、スライムは少しだけだが体をプルプルと震わせて
「...うん。良いよ、魔王様。僕が“仲間”になってあげる。
これは僕の意志だからね。」
と言った。
「ところで魔王様。
ちょっと来て欲しい所があるんですけど良いですか?」
スモッグゴーストが俺のジャージの袖を引っ張って促す。
「いいけど、スライムお前も来るか?」
「僕も行く!
一人でこんな大きな場所に取り残されたく無いもん。」
「そうですか、では行きましょう。
と言っても城内の施設へ、ですけどね。」
俺たちは玉座の間を後にしてスモッグゴーストについて行った。
「それにしても大きいね、このお城。
広い割には僕らしか居ないけど。」
「魔王城ですからね〜。
その内モンスターも増えて行きますよ。」
そんな雑談を交わしながら歩いてると
「着きましたよ。ここが私の作った“鏡の間”です。」
鏡の間?というか一人で作ったのか凄いな。
扉を開けると中は綺麗に清掃されていて、壁には巨大な鏡が設置されている。その他にも赤い絨毯など魔王城に相応しい装飾が施されていた。
「それでここはどんな部屋なんだ?」
「そうですね。簡単に言えばあの世と連絡することが出来ます。」
あの世、死神がいた場所か。でも何でそんな部屋を作ったんだ?
「転生者の中には勇者になる人もいますからね。死神さんに情報を提供して頂けないかな〜と思いまして。」
俺がいない内にこんな事までやってくれてたのか。本当にスモッグゴーストは頼りになる。
「まぁでも今はお仕事中の様ですね。もう遅いですし今日は城で休んで行かれては?」
「そうだな、宿で泊まる金も無いし今日は城で休むよ。」
そうして俺たちは鏡の間を出て
城内のベッドがある部屋まで行く。
何気にこの部屋に入るのは初めてだ。というか魔王城のほとんどの部屋に入ったことが無いが。
「よーし、明日も【はじまりのまち】でクエストを受ける予定だからもう寝るぞー。」
「はーい。」
(まぁ私は行けませんけど。)
「は〜い。」
俺は部屋の中にあった蝋燭の火を消してベッドに潜る。それからしばらくして俺の意識は途絶えた。
「...魔王様は寝ちゃったみたいだね。ねぇスモッグゴーストさん、あなたは何で魔王様に仕えてるの?」
「先代魔王様から頼まれたから、でしょうか。しかし頼まれていなくとも仕えていたと思いますよ。魔王様はお優しい方ですから。」
「そうだね、僕も優しいと思うよ。“仲間”って言われて僕、とても嬉しかったんだ。だからさ魔王様の役に立てるように頑張るよ。」
「良い心がけです。ふふっ。」
暗闇の中、魔王を除く二人は静かに笑い合った。




