第27話 死の軍団
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◽︎チリジョウ サイカ『ジラトの迷宮』地下三階
迷宮の最深部で幽閉された少女、ハルシャを救出し二人で急いで脱出を試みている最中なのだが。
「よぉ、舐めた真似してくれんじゃねえか。もう逃しはしねえぞ?」
地下四階から駆け上がった先にはボロボロに崩れた瓦礫の上に悠々と立つジラトがいた。
その右手には今までどこに行ったんだろうと思っていた鉈が握られている。
…何でこいつ攻撃してくるときに鉈捨てて拳で掛かってきたの?
「そこのガキは王都のなかでは、良家に住んでやがるお偉いさんよ。ここで取り逃したら折角の金づるが無駄になっちまう」
ハルシャは俺の背中に隠れている。
そりゃ相手があの筋肉なら誰だって怖がるよ。
俺も怖いもん。
「じゃあどうする?ここで俺を殺すか、それとも俺も金づるとして幽閉するか?」
「…いいや、お前は殺す。俺を怒らせた上に幽閉したところで貧弱冒険者に金があるとは思えん」
無駄なところでムカつく奴だな。
一応100万ティアは持ってるんだぞ。
「さぁ、今度こそ終いだ!おらああ!!」
ジラトは巨大な瓦礫を片手で持ち上げ地下二階に繋がる唯一の階段を完全に塞いだ。
「これで逃げも隠れも出来ねえぜ?確実にテメエを始末するまでこのフロアは封鎖する!」
「笑わせんな筋肉ダルマ。最初からこっちは逃げるつもりなんて無えよ!【ネオフォビア】!」
スキルの詠唱と共に瓦礫で埋め尽くされた地面から無数の骸骨が湧く。
その容姿は、甲冑を着た人骨。両の手に片手剣と盾を併用している、さながら兵士である。
最終的にこの場に出た〈骸骨兵士〉の総数は50人前後。全てが俺の命令一つで動く部下となった。
「!おい貧弱冒険者。テメエ人間じゃねえな?アンデッドの使役は国の司祭長でも不可能とされてるはずだ」
その司祭長とやらがどんだけ凄いのかは分からないけど、とにかく人間には無理な芸当なのだろう。
と言っても魔王としてのスキルを使ったのは今回が初めてなんだけど。
【空間転移】は魔王じゃなくても出来るし。
「どうかな?想像に任せるよ、俺もお前みたいな筋肉ダルマが他にも居ると思うとゾッとする」
骸骨兵士達は皆一様に俺の命令を待っている。
彼ら自身もジラトに恨みがある故に直ぐにでも戦いたいのだろう。
「骸骨兵士、半数に分かれて左右からジラトを総叩きにするぞ!その内、5名の兵士はハルシャを全力で守れ!」
俺の命令により、全骸骨兵士の目が光る。
そして命令内容に従うように行動し始めた。
「たかだかアンデッド。しかも骸骨となればその脆さは歴然!すぐに全滅させてやるよ!」
ジラトは自身を中心に鉈を振り回して左右から斬りかかろうとする骸骨兵士をなぎ倒して行く。
まるで無双ゲーみたいになってるが、一応骸骨兵士は人間の兵士と変わらないくらいの強さは持ってるはずだ。
甲冑着てるし。
…つまりは一般兵が戦っても簡単に負けてしまうと。
やっぱり王都での噂は本当だったのか、編成部隊が全滅っていう。
「ガイコツさん達が…やられちゃう」
5体の骸骨兵士に守られながらハルシャが悲痛に叫ぶ。
その声には純粋な兵士達への心配と己の非力さを恨むような意思が感じられた。
ジラトへ決死の特攻を続ける骸骨兵士の内、数体がハルシャの目の前で砕け散る。
「このままじゃマズイな。多分骸骨兵士は復活できるだろうけど、無制限に使えるわけじゃ無い」
サイカの習得したスキル【ネオフォビア】は使用後にクールタイムがあるため短期間に何度も使えない。
その上、使用時に制限が存在する。
死体や浄化されてない遺骨など魂が定着している物質を魔力として取り込む必要があるのだ。
「そろそろこの骸骨共を捻り潰すのも飽きてきたなぁ。どれ、親玉を潰せば話が早えんじゃねえか!?」
ジラトは鉈を振り回していた手を休め、左右の骸骨兵士を押しのけてサイカ目掛けて全力で突進する。
「クッソ!絶対に死んでたまるかぁぁ!」
サイカは片手剣を眼前で構えてジラトの攻撃を受けようとする。
「甘い!そんな脆そうな剣で俺の攻撃が止められるかよぉ!」
構えていた剣は鉈の切り上げによって、いとも簡単に頭上まで跳ね上がる。
刹那、ジラトの拳がサイカの腹部にめり込む。
そして勢いよくサイカは壁まで吹き飛ばされ、鈍い音を立てて崩れ落ちる。
「かっ…は!…冗談じゃねえぞ…!」
「お兄ちゃん!」
ハルシャは自身を守っている骸骨兵士達に押さえつけられながら必死にサイカに駆け寄ろうとする。
「ガキはそこで黙って見てな。お前を助けに来てくれた小僧が死ぬ瞬間をな!」
ジラトは鉈を高く掲げて倒れ伏すサイカに渾身の力で振り下ろす。
その時。
『ドガガアァァァン!!』
サイカ達の真上の天井が爆音と共に崩れ、瓦礫が降ってくる。
その瓦礫から骸骨兵士達はハルシャを守るように寄せ集まって壁を作る。
「何だ、何が起きた!?」
この異常事態に動揺したのは例外なくジラトを含めたこの場の全員であった。
『KAKAKAKAKAKAKA!!!』
天井から突如として現れたのは地下二階でアトリアとシリウスが交戦していたバイツプラントであった。
「おい何やられてんだバイツプラント!さっさとその小娘を始末しろ!」
地下二階の〈フロアボス〉道化師ペドロリーノの命令を受け体制を整えるバイツプラントだが、即座に天井から魔法による攻撃を受ける。
「…アトリアを返せ。単細胞!」
攻撃の主は怒りに囚われ、その瞳を真紅に染めた少女。
シリウス・ドーヴァだった。




