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第24話 道化師ペドロリーノ

◇◇◇

□チリジョウ サイカ 『ジラトの迷宮』地下二階


アトリアとシリウスが壁の奥に消えていった。


十中八九、さっきの人形の仕業だ。


どうやって二人を救いだせばいい?


壁をすり抜ける事は出来ないし、バルクの様に透視するスキルがある訳でもない。


「くそっ!出て来い人形!」


先程から叫んではいるが、アトリアとシリウスの声は一切帰ってこない。


最悪のことも想定したが、あいつらが死ぬとは思えない。変なところでずる賢いからな。


『お二人さんは今頃、木箱の中で震えてるよ!後でボクがあの汚らしいジラトに売りつけてやるさ!」


壁の向こうから聞こえてくる声の主は、人の神経を逆撫でする様な甲高い声の人形だ。


今のヤツの言動から察するに、どうやら本当に人身売買だのなんだのヤバい事をしてるらしいな。


あのジラト盗賊団は。


「そろそろ名前くらい言え馬鹿人形!」


『ばっ、馬鹿だと?ふん…良いだろう。〈フロアボス〉として示しがつかないからね』


瞬間、俺の背後でスポットライトに照らされた人形が現れた。


ライトが点灯を繰り返すたびに人形の位置が移り変わっていく。


『ボクの名前はペドロリーノ。ジラトの迷宮地下二階の〈フロアボス〉にして闇の道化師だ』



◇◇◇

□アトリア&シリウス ジラトの迷宮地下二階


「出せー!」


床に無造作に投げ捨てられてある木箱がガタゴトと蠢く。


中には先程、ペドロリーノに捕まったアトリアとシリウスがいた。


「この木箱けっこう頑丈ですね。なかなかっ、壊れません!」


シリウスが内側から木箱を殴りつける。


だが木箱が頑丈なのかそれともシリウスが非力なのか、木箱はビクともしない。


「ふっふっふ。殴っても壊れないなら燃やせばいいじゃない♪」


暗く狭い木箱の中だが、シリウスにはアトリアが不敵な笑みを浮かべているのがしっかりと見えていた。


「〈エレメンタルファイヤ〉」


魔法の詠唱と共にアトリアの指先に淡い光が灯る。


「えっと、加減はしてね...?」


指先をクルクルと回して木箱の側面に近づける。


「大丈夫、怪我はしないと思うよ」


木箱の側面が勢いよく弾け飛ぶ。割れた木片は炎を帯びながらゆっくりと燃えていく。


「加減って知ってるのか疑いたくなる...」


「出れたんだから良いじゃん、あはは!」


迷宮の壁に作られた空間はペドロリーノが過ごす為なのか意外と広く作られている。


近くには休憩用であろう小さなテーブルと椅子が置かれている。


テーブルの上には紅茶と魔導書。

先ほどまで魔法の習得を試みていたのだろう。


「けほっけほっ。で、あの馬鹿道化師はどこ?」


「見た感じいないけど...サイカと戦ってるんじゃ?」


確かにサイカは僕たちの主人だけど、戦闘出来たっけ?


「やばい。サイカがボコられる!」


木箱に閉じ込められていたので、ここが地下二階のどこなのか見当も付かない。


どうにかして道化師を呼び出したいが、壁を壊す方法も今の2人には無いのだ。


「そうだ、全力で叫ぶから後に続いて下さい!」


シリウスはそう言うと大きく息を吸い込み、全力で叫ぶ。


「道化師ィ!早く来ないとこの魔導書を灰にしますよ!」


しばらくすると遠くから小さく『やめろ!』と聞こえてくる。どうやら相当重要な物らしい。



◇◇◇

さっきまで話していたペドロリーノとか言う道化師が壁の奥に消えていった。


恐らくだがアトリアとシリウスの所へ行ったのだろう。


「2人には悪いが、先に行かせて貰うぜ。道化師は頼んだ!」


どうせ今から壁の奥へ行く方法を考えても仕方ない。


バルクが言っていた通り、まずは子供の保護が第一だ。


俺は未だ発見できていない階段を探して地下二階をひたすら回る。


構造は簡単だった為、地下一階ほど時間はかからなかったが何しろ距離が長い。


階段まで道は同じだが曲がりくねっているので直線距離が長い。恐らくはペドロリーノの戦闘スタイルなのだろう。


どんな攻撃をするかは分からんが。


「ここが次の階段か。待ってろ、必ず助ける!」


そうして俺は再び階段を下りて次のフロアへ向かった。



◇◇◇

階段を下りた先は今までのような迷宮ではなく、光源が多彩に使用された空間だった。


壁には何て言う植物かは分からないが緑色に発光したコケが生えている。


迷宮区ではボロボロだった壁が綺麗になっており、中央には噴水が設置されている。


神秘的な光景だった。


…鉈を携えた大男が待ち構えていなければ。


「遅かったじゃねえか。聞いてるぜあの道化師から」


遠距離で会話ができるスキルでもあるのか?

情報伝達力を侮っていた。


「誘拐した子供は何処にいる?」


俺はここに来る前に新調していた武器、即ち片手剣を構える。


と言っても冒険者だから剣士系統のスキルが使えるわけでも無いが。


だからといって、俺に魔法適性は皆無だからなぁ。

そう考えると片手剣は妥当かもしれない、流石に素手はキツイものがある。


「ガキは地下4階の牢屋に閉じ込めてある。だがな、今までの迷宮と同じように行くと思うなよ?」


大男は腰にぶら下げてあった鍵を指先で回しながら挑発する。


「牢屋の鍵は俺が持ってる。聞けばお前はパーティの中で一番貧弱らしいなぁ?」


どうやら正真正銘のボス戦らしい。


こいつを倒せば鍵をドロップする、王道RPGっぽい要素出てきたなー。


「この俺を倒すことが出来れば地下のガキを救い出せるぜ?さぁかかって来いよ!」


こうして俺はモッカ山脈に来て初の戦闘を開始した。

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