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第22話 バルクの覚悟

サイカの【開眼】によって表示されたステータスには【鬼神兵 フォールズナイト】というネームと共に〈フロアボス〉と書かれていた。


この『ジラトの迷宮』地下一階を守護するボスモンスターである。


『GIGI…GAGAGAGAGA!!!』


鉄で出来た巨大な機械が猛突進してサイカたち目掛けて大剣を振り下ろす。


「来い…【ドラグディア】!」


先頭にいたバルクの腰に携えた剣が光り輝く。


その光は【フォールズナイト】を怯ませ、大剣の軌道が僅かにずれた。


ドラグディアと呼ばれた剣は光の粒子となり、その形状を変化させる。


徐々に光の粒子は一つの塊となり、先程までの形と異なって剣の柄に宝玉の様なものが嵌っていた。

その宝玉は青色の光を帯びている。


「属性変換術【ドラグディア】…この剣の名前と言ってもいいだろう」


瞬間、バルクの剣が【フォールズナイト】の首をカウンターで斬り込む。


だが、その斬撃は首にダメージは与えたものの致命打には繋がらない。


「このままだと地下二階に進めないぞ!」


ここはまだ『ジラトの迷宮』地下一階。全階層で4フロアあるため、急がなければ人質の命は無い。


「先に行け、こいつは私が殺る」


バルクが空いた左手で先を促す。


「…分かった、必ず救い出してみせる!」


サイカは少しだけ立ち止まりたい思いを無理矢理押し殺して次のフロアへの階段に向かって走る。


「ちょ、ちょっと良いの?バルクを置いて行って」


アトリアとシリウスが不安そうな顔をしてサイカを見上げる。


だがそこには、いつもの様に巫山戯たサイカはいなかった。


その顔には焦りと怒りが見て取れ、視線の先には次のフロアに進むための階段しか無い。


「どのみち、あの機械を止められるのはバルクだけだ。なら俺たちは人質救出を第一に行動すべきだ。行くぞ!」


現在のサイカたちの戦力で太刀打ちできる相手ではない事は、先程の【フォールズナイト】による突進の速さで分かるだろう。


現状を打破することができるのはバルクただ一人である。


「…行ったか。さて、これから私と貴様で殺し合うのだが。その前に一つ良いか?何故先に行ったサイカたちを見逃した」


【フォールズナイト】はその鉄の中から異音を響かせてバルクの疑問に答える。


『ISAMASIKI MONO KOROSU…』


勇ましき者を殺す。そう機械音声で答えて、両の手にある大剣を再度構え直す。


「やはりな。ただの〈フロアボス〉ではなく元より私を殺すために設定されていたのだろう…残党が」


バルクが王都に到着する前に倒した盗賊の内に生き残りがいた。だから勇者である自身を殺すために前もって用意されていたのだとバルクは直感した。


「そうなると私はここで確実に足止めを食らうことが決まっていたわけだ。サイカたちと別れさせた上で」


バルクの予想が正しければ、サイカたちは次のフロアで待ち受けるボスと戦闘する事になる。


勇者がいなければ勝てるだろうという算段らしい。


「 “私たち” を甘く見るなよ?せいぜい断末魔でこの場を盛り上げてくれ。()()()()()()()!」


◇◇◇

□チリジョウ サイカ『ジラトの迷宮』地下二階


俺たちは階段を降りて地下二階に突入した。辺りは地下一階と異なって複雑な構造ではない。


壁には点々と松明で明かりが灯されているだけだ。


「…上のことはバルクに任せよう。今はとにかく下に降りる階段を見つけるんだ」


見渡す限り、曲がり角も少ない。案外早く見つけられるかもな。


ただ、ここも何か仕掛けがあってもおかしくは無い。〈フロアボス〉との戦闘は避けられないか…


「ねぇサイカ、ここに来てから誰かに見られてる気がする…」


アトリアが俺の服の袖を引っ張って少し怯えている。シリウスはそれを聞いて警戒態勢に入った。


「俺は何も感じないが…用心はしておこう」


スライムであるアトリアは何かと危険を察知する能力に長けているのかもしれない。野生だったし。


「…それにしても寒いですねここ。隙間風?」


壁の作り自体は地下一階と大差無いが、よく見てみると所々に小さな穴が開いている。


「地下に空洞?何か部屋があるのか?」


壁をノックするように叩いてみる。コツコツと奥に空洞があることが分かる音が鳴る。



「やっぱり何かあるの?」


「分からない。…ん?この穴から覗けるんじゃないか?」



近くに指が一本入りそうなくらいの穴が開いていた。どうやら向こうの空洞と繋がっているらしい。


俺は早速覗いて見ることにした。


「……人形?」


奥には部屋があり、小さなテーブルの上にはランタンが置いてあった。


そしてその横には椅子に腰かけた不気味な人形。

大きさは人と同じくらいだろうか?


『人形じゃないよ、人間だよ』


甲高い声が地下二階の全体に響き渡り、椅子に座っていた人形が動き出す。


「なっ⁉︎」


瞬間、人形の姿が消える。

そして床を走り回る足音が鳴り響く。


『アハハハハハ‼︎ 消えちゃう消えちゃう。みーんな消えちゃう!ここで全員、行方不明になるんだ!』


隙間風と共に奴の声が届いてくる。

それは恐怖を象徴しているかの様だった。


「「えっ?」」


後ろでアトリアとシリウスが同時に声を上げる。俺が後ろを見てみると二人は宙に浮いていた。


『まずは二人!壁の奥へご案内〜!』


不快な声が二人を連れ去って地下二階には俺だけが残された。

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