第21話 ディザスターモンスター
迷宮の攻略が始まってかなり時間が経った。
厄介なことに地下一階は全体が迷路のように複雑な構造になっており階下への道がなかなか見つからない。
「それにしても、何で誰も巡回してないんだ?」
既に地下一階の攻略を始めてから30分が経過している。それなのに盗賊の一人にも会わない。
何かがおかしい…。
「この程度の迷宮に過信しているのだろう。フロアを降りれば嫌でも会うはずだ」
この程度と言ってのけたバルクが再度【空間把握】を使用する。
迷宮と言えど壁越しに透視されれば迷うわけがない。
「少し進めば地下一階の攻略は終わるだろう。だが気をつけろ。奥に広い空間がある…何かいるのか?」
【空間把握】のスキルが適用されているため俺たちにも見える。
確かに地下への階段の前に今までのような複雑な構造の部屋は無く、ただ広い空間があるだけだった。
「でもどうやって向こうの部屋まで行く?見えてはいるが扉が開かない」
先ほど見えていた広い空間への道は石の大扉で固く閉ざされており開きそうに無い。
「何か仕掛けがあるんじゃない?」
アトリアが魔法用の杖で床をコツコツと叩きながら言う。確かにその可能性は高い。
でも何のヒントも無い状態じゃ厳しい気がする。
「さっき山の壁画みたいなのが壁に描かれてましたよ。それがヒントかは分かりませんが」
壁画か…仕掛けでは定番のパターンだな。
でも山だけじゃ何の意味も無い。
きっと他にも壁画があるはずだ。
「よし、壁画を探そう。このフロアをくまなく探すんだ」
その後、俺たちは東西で二手に分かれた。
俺とバルク、アトリアとシリウスで二人ずつだ。
◇◇◇
□チリジョウ サイカ・勇者バルク
俺たちが探索を始めてから一つ気づいたことがある。
それは盗賊だけで無く、モッカ山脈の魔物とも遭遇していないことだ。
元々、モッカ山脈自体がギルドでは危険区域として認定されてたはずなのにその理由である魔物を見かけてすらいない。
道中で人間の足跡と一緒に魔物の足跡も見たはずなのに、迷宮内で【魔物感知】を使用しても反応しない。
何が起こっているんだ?
「壁画というのは、もしやこれか?」
バルクが指し示す壁には確かに壁画が描いてあった。背景の壁と色が同じで見にくいが、どうやら城下町を表しているようだ。
「シリウスが言っていた “山” と、この “城下町” の壁画…何か引っかかるな」
「だが、これだけでは分かるまい。二人の探索を待つしかないだろう」
それもそうだ。だけどこのまま何もしない訳にもいかない。
人質の女の子は常に危険に晒されているんだ。
「とりあえずやれる事はやるぞ。この “城下町” の絵と “山” の絵が何を示しているのか考えるんだ」
◇◇◇
□アトリア・シリウス
彼女らが探索を始めてからかなり時間が経過している。
バルクと違い【空間把握】のスキルを持たない為、道に迷っているのだ。
「ここどこ?」
「知らないです」
残念なことに二人揃ってバルクのスキルに頼り切っていたのが仇となり、道を覚えていなかった。
「とりあえず左に行けばいいんじゃない?ほら、アレだよアレ」
アトリアは左手を大きく振って何かを表現する。
「左手の法則?」
「そう、それ」
明らかに使い方を間違っている彼女らは思考することを放棄して迷宮内を歩き回る。
曲がり角があれば左に曲がってを繰り返していた。
「ここさっきも来ませんでした?」
いつのまにか一周したのか先程の場所まで戻ってきていた。
「やっぱり左手の法則の使い方が…ん?これ壁画じゃない?」
グルグルと同じ場所を回っていた結果、殆ど運で壁画の場所を引き当てたらしい。
「何これ、魔物?なんか滅茶苦茶キモい形してる…」
「まさに異形ですね…」
そこには30メートル程の化物。
人間の顔と魔物の胴体、手足が合体した眼球が複数存在する魔物が描かれていた。
ソレは人々を捕食しては合体を繰り返すような描写のもと存在していた。
「と、とりあえず壁画は見つけたし二人のところに戻ろう」
その後、彼女らはまたもや時間をかけてサイカたちとの合流に成功した。
◇◇◇
「なるほどな… “異形の魔物” の壁画か」
帰ってきた二人から壁画の話を聞いたバルクは何かを思い出すようにしている。
「さっき俺たちは見つけた壁画は “城下町” を表してたんだ」
「でも結局、これって何を示してるの?」
するとバルクが答えを導き出せたのか、口を開く。
「…恐らくだが、これは王都フラスタとモッカ山脈を示しているのだろう」
王都フラスタ?何でここでそんな話が出てくる。モッカ山脈と関係があるのか?
「遥か昔、王都フラスタの周辺に突如として《ディザスターモンスター》が現れた。そいつがかつての王都を滅ぼしたらしい」
バルクはまるでおとぎ話のように悪夢を語る。その顔は重く、さっきまでとは様子が明らかに違う。
「その《ディザスターモンスター》って何なんだ?」
俺がそう聞くと、バルクは首を横に降る。
「正確なことは分かっていない。ただ、奴らはその名の通り一度現れるだけで王都が滅ぼされるほどの力を持つ」
王都が一つ滅びるレベルのヤバいやつなのか…どうやったらそんな奴に勝てるんだ?
「奴らは『災厄』として今の時代まで語り継がれている…」
バルクがそう言った途端、今まで固く閉ざされていた石の扉が重い音を立てながら開く。
「開いた…でも何で?」
「多分、『災厄』て言うのがキーワードだったんじゃないかな」
そう言うことか…だとしたらこの迷宮を作ったやつは何が目的でこんな仕掛けを作ったんだ。
「とにかく先に進もう、まだ地下一階なんだ。こんなペースじゃ…え?」
目の前には、広い空間の奥に佇む機械があった。
それは両手に大剣を構えており、鉄で出来た身体は何者の攻撃も弾き返しそうだった。
俺はすぐに【開眼】を使う。浮かび上がった文字にはステータスが表示されていた。
【鬼神兵 フォールズナイト】
系統…フロアボス。




