表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

第18話 モッカ山脈の盗賊

誘拐。俺の元いた日本では、すぐ様大事になる刑事事件だ。


しかもタチの悪いことに、誘拐犯の殆どが身代金目当てだ。


しかしジラト盗賊団は殺人すら躊躇しないはずだ。


そんな奴らなら誘拐なんてせずとも直接襲撃に来るのでは無いだろうか?



「ジラト盗賊団だと…?そいつらならここに来る道中で潰したが」



勇者はサラッと驚愕の事実を告げる。瞬間、一斉に民衆からは感嘆の声が聞こえてきたがそれはおかしい。


本当にジラト盗賊団を壊滅させたのであれば誘拐なんて話は出てこない。



「そう言えばさっきギルドのお姉さんが “ジラト盗賊団は各地に分散してる” とか言ってなかったっけ?」



アトリアの言う通り、その可能性も捨てきれない。


だが今回に限っては恐らくだがその心配は無いと思う。


あの勇者はここに来る道中で潰したと言っていた。


それが意味するのは、誘拐を行った人物が復讐を兼ねての犯行に及んだということだ。


各地に分散しているとは言え、流石にこんな短期間で情報が行き届くとは思えない。


生き残りがいたのか、あるいは別の場所から指示を出していた人物がいたのか。



「でも、勇者様!私が家に帰ると荒らされた部屋の中に一枚だけ置き手紙の様なものが…」



勇者はその紙切れを読むと少し思案した様子で答える。



「すぐにギルドで冒険者を募れ。無論私も同行する気だ」



男性はその言葉を聞き、普通ならギルドでクエストの依頼をする筈だが、その顔は曇っていた。



「…ここ半年ジラト盗賊団の討伐クエストが出ているのですが未だに受注する冒険者がいないのです。それを考えると、冒険者は...」



この王都の事情を知っているのかは分からないが、それでもある程度は予想のついたらしい勇者は少し険しい顔をした。



「俺が引き受けよう」



それを見ていた俺は咄嗟にそんな言葉を言っていた。


分かっている。今のレベルで俺が太刀打ちできるとは思えない。


だけど、ここはゲームでは無い。


ステータスやジョブのレベルなどゲームみたいなところもあるが、人は死ぬ。


蘇生魔法が存在するかもしれないが死の恐怖は無くならないだろう。


ならばそれを防ぐべきだ。



「君がか?見たところ王都の冒険者では無いようだが」


「そんなの今は関係無いだろ。それよりも一刻も早く助けに行くべきだ」


「…分かった。それでは君に来てもらうことにしよう。構わないな?」



男性はジラト盗賊団のアジトが記載された地図を渡して


「ええ、有り難いです。どうか娘をお願いします…」


勇者は手渡された地図をバッグにしまうと俺の方をジッと見る。



「先に自己紹介といこうか。私は王国所属、勇者バルクだ」


「俺は冒険者のサイカ。それと、パーティメンバーのアトリアとシリウスだ」



完全に俺の独断で巻き込まれた二人は少し不機嫌そうだ。


「ジョブはなにを取っている?」


「俺はただの“冒険者”」


「僕は“ウィザード”」


「私は“呪術師”」


前半は普通だが明らかに最後の呪術師はおかしい。


なんかもう、魔王側の人間ってバレそうな気がする。



「ふむ、冒険者以外は戦力になりそうだな。これからよろしく頼む」



心に刺さったぞ、今の言葉…でも事実だから言い返せない自分が情けない。



「では少しだけ時間をくれ。王都に到着したばかりなのでな。準備をする」


「分かった。俺たちも準備しておくから正門で集まろう」



一度勇者…バルクと別れ、俺たちはギルドへと戻った。


中はさっきとは違い勇者を迎えるためかスタッフ以外の人間はいない。


「なーに勝手に決めてるんですか?」


まず最初にシリウスが物申す。


「死にに行くのかぁ…」


次にアトリアから悲壮感漂う独り言が。


「悪かったって。でも放って置けないだろ?」


理由はどうあれ、クエストが自分たちに見合ってないと知っている二人に謝罪する。



「いや、まぁ助けに行くのは構わないんだけどさ。僕らがわざわざ勇者に近づく必要あるの?危険しかなさそうなんだけど」



アトリアはモンスターである立場を隠しながらここまで来ているのだ。不安になるのも無理はないだろう。


「ただの偶然だ。俺だって勇者と一緒とか怖いよ」


それでも、ただ人が死ぬのを黙って見てるほど俺は臆病じゃない。必ず盗賊団に誘拐された子供を救い出す。


「でも私たち全員モンスターみたいなものなので、バレるんじゃないんですか?」


「その時はその時だ」


「不安を煽るような回答やめて…」


▪️▪️▪️

ギルドである程度の準備を整えて王都の正門へ向かう。


流石に先ほどまでの人集りは無いが、依頼主の男性は見送りに来ていた。


「皆さまどうかお気をつけて」


男性は商人に頼んでいた馬車を正門へと誘導する。

道中はこれで移動するらしい。


「必ずやジラト盗賊団に誘拐された子供を救出します」


準備を終えたらしいバルクが馬車に乗り込む。

それに続くように俺たちも乗る。


「来た時に乗った馬車より大きいね」


「快適な空間ですね〜」


どうやらアトリアとシリウスは気に入ったらしい。


「あ、サイカさん。これをお持ちになってください」


なんだろう。お守りか何かか?


「それは妻が作ったものです。旅の道中はそれを身につけていてください」


「あぁ分かったよ。ありがとう」


ふと横を見るとバルクが地図を眺めている。

地図には王都周辺の地形が描かれており、右の山脈付近に赤いバツ印がされている。



「ここより北東部にあるモッカ山脈の洞窟に奴等のアジトがあるらしい。準備はいいか?」


「いつでも行ける。必ず、救い出そう」



こうして王都フラスタに来て初のクエストが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ