第17話 誘拐事件
【王都フラスタ】『冒険者ギルド』
屋台のオッサンに紹介された通り俺たちは王都のギルドに訪れた。
「デカイな…」
そこのギルドは“はじまりのまち”の冒険者ギルドとは比べ物にならないくらいサイズが大きかった。
流石は王都のギルドだ。きっと世界各地から冒険者がやってくるのだろう。
中は酒場も併設されていたが、なんというかホテルのロビーみたいな感じだった。雰囲気からものが違う。
見かける冒険者も荒くれ者のイメージとはかけ離れ、騎士みたいな奴ばかりだ。
「クエストカウンターはあそこか」
掲示板には無数の依頼書が貼り出されており、難易度も全体的に高い。
今の俺たちでギリギリやっていけるかどうかってところだ。
「あ、これじゃ無いですか?さっきの “ジラト盗賊団” とかいう愚か者どものクエストは」
どうやらシリウスが愚か者どものクエストを見つけてくれたらしい。
さてと、問題はクエストの難易度だが…
「…ダメだ難易度が高すぎる。今挑んだら多分、俺ら死ぬぞ」
ここまで省いてきたが、実は俺とアトリアはまあまあレベルも上がっており、スキルもいくつか覚えている。
もっともシリウスはまだ何を使えるか分からないのだが。
「それにしても何でこのクエスト誰にも攻略されてないんだ?依頼日がもう半年以上前になってるんだが」
難易度が高いとは言え、王都で活躍する冒険者ならば余裕とは行かなくとも準備さえ整えればクエストクリアくらい出来ると思う。
「聞いてみたほうが早いかな。すみません、ちょっと良いですか?」
俺はクエストカウンターにいるお姉さんに話を聞いてみる。
どうやらこっちの聞きたいことが何となく分かっていたらしく。
「あぁ。やめておいた方が良いですよ。ジラト盗賊団は各地に分散してますからね。それこそジラト盗賊団の討伐に成功しても他の盗賊団が復讐に来ます」
やられたらやり返す。しかも集団で、そいつを殺すまで。
理不尽極まりない、対策がされてないのも不可解だ。
「なんか今の俺たちじゃクリア出来なさそうだし、適当にその辺でレベル上げでもするか」
「おっけー」
「腕がなりますね!」
そんな訳で、俺たちはクエストカウンターのお姉さんに礼を言ったあとギルドから出た。
街中を抜けて正門から外に出ようかと元来た道に戻る。
俺たちが正門の広場に到着すると、先程とは打って変わって人が集まっていた。
「なんだなんだ?さっきとはえらい変わり様だな」
正門の外からキャラバンと思しき馬車が入ってくる。その馬車には見たこともないマークが印字されていた。
「…あれ、勇者のマークじゃないですかね?」
「は?勇者って…え!」
馬車が広場の中央に止まり、中の行商人が出てくる。
「勇者様がご到着なされたぞー!」
その言葉を聞いた人々が歓声を上げ、一瞬にして正門辺りは人の海になった。
「…やれやれ。何故行く先々の民衆はこうも煩いのだ」
立派な鎧に兜、盾は装備しておらず腰に高貴そうな長剣。さらにはイケメンですぐ様女性陣に囲まれている。
…間違いない、勇者だ。
「おい、勇者って何でみんなイケメンなんだよ。ズルくないか?生まれた瞬間からチート能力持ってんじゃねえよ」
「勇者ってアレでしょ?勝手に人の家に入り込んでタンスから物を強奪するっていう」
アトリアが当たり前だろと言わんばかりにこちらを見て、自慢げに答える。
ある意味間違ってないけど、それは言っちゃいけない事じゃないのか?
「私、本で読みましたよ!お父様の書斎にあった文書では魔物を意味も無く虐殺する破壊者だって」
なんか俺たちが正義の味方である勇者を非難している図に見える。
…見方によってはそうかもしれないけど実際どっちが正義で悪なのか。魔王サイドの俺たちにとっては敵なんだろうけど。
そんなことを3人で話し合っていると、勇者の元に一人の男性が走り込んで来る。
「ゆ、勇者様!お助けください、私の娘がジラト盗賊団に誘拐されました!」
それは先程ギルドで見かけた依頼書にも書いてあった集団の名だった。
殺人も誘拐も厭わない危険な集団、ジラト盗賊団。




