第14話 シリウス・ドーヴァ
シリウス・ドーヴァ。その小柄な少女は北の大陸を統べる魔王、ギリ・ドーヴァの娘である。
俺たちの前に現れた彼女の自己紹介は特異的で、いや特徴的で、また個性的であって、調子に乗っていた。
城内の鏡の間に声が響き渡る。
ギリ・ドーヴァの出現によって破壊された壁や天井が低い音を立てながら崩れかけている。
「おい、あまり大きい声を出すな!城が崩れるだろ!」
まぁ君に罪は無いんだけど、強いて言うなら君のお父さんね。
黒いドレスに身を纏った彼女はその場でまるで踊り子の如く華麗に舞ってみせる。
「それは私の責任ではなく父上の責任です。つまり私を責めるのは筋違い、なのでは?」
なんだコイツ…いちいち喋る時にポーズを決めなくちゃ落ち着かないのか。ウザすぎる。
「どうかねサイカ君。娘を連れて行ってくれないか?無論、この城の修理は我が軍にやらせるので心配はいらない。」
そんな風に俺に話しかけないでくれ。
ただでさえ協力してくれるってのにその態度じゃこっちが申し訳無い。
それにシリウスの同行を断る理由も無いしな。
だが、城の修理だけは確実にやってもらうが。
「わかった。シリウスを旅に連れて行くよ。アトリアもいるし何とかなるだろ。」
主に寝泊まりの点で、と言う意味だが。これ以上俺が女の子と一緒に寝るのは問題だ。
「ねえ、君って魔王の娘なんでしょ?どんなジョブに就いてるの?」
そうアトリアが尋ねるとシリウスは満面の笑みを浮かべた。
「よくぞ聞いてくれました!私のジョブは【呪術師】です!」
呪術師。ネクロマンサーかよ、魔王の娘だからもっと可憐なジョブかと思ったのに。
「呪術師って何が出来るの?」
「そうですねえ、代表的なものとしては対象の相手を問答無用で殺す即死系統の魔法ですかね。あ、もちろん他にも色々ありますよ!」
対象の相手を問答無用で殺すとか、尋常ならざる恐怖を覚えるのだが。
まかり間違って俺たちを殺すなよ?
「と、そろそろ行かないとな。ちょっと【はじまりのまち】で用事があるから。」
「そうですか、では行ってらっしゃいませ。魔王様」
「あ、あとギリさん。マジでちゃんと城の修復してね。じゃないとパーティ迎え撃つどころの話じゃないから。」
そう言うとギリ・ドーヴァは自身の胸を叩き
「大丈夫だ。我に任せておけ」
いや、どの口がそんなこと言ってんだ。壊したのあんただろ。
「《空間転移》はじまりのまち」
■■■
はじまりのまち▼
こんなに行ったり来たりしてると多少疲れも溜まってくるのだが、文句を言っていても仕方ない。
「用事って言ってたけど何かあったっけ?」
「ん?いや別に。ただ魔王なんてヤバい存在がずっと近くにいるとピリピリして嫌だったから逃げただけ」
「あの、仮にも主なんだから逃げるとか威厳のない事言わないで?」
さて、どうしたものか。これ以上【はじまりのまち】にいてもすることが無い。
と、そんな事を考えていると遠くでシリウスがなにやら注目されている。
「ふっはっはー!我の従僕にしてやってもいいぞ?」
町の子供たちに偉そうに宣言する。
はたから見たら遊んでる友達に見える。
「何このお姉ちゃん。自意識過剰じゃない?」
「ほんとほんと。私たちより年上なのに恥ずかしく無いのかな?」
「なんて事を言うんだこの人間どもは!私は魔王の娘だぞ!」
…どうやらこの町の子供たちは常識を持っている上に語彙力もあるらしい。どんな子供だよ。
「おいシリウス。いつまでも油売ってないで行くぞ。ごめんな君たち、このお姉ちゃん用事があるからそろそろ行かないとなんだ」
子供たちから半ば強引にシリウスを連れ出すが。
「別に僕たちそのお姉ちゃんと遊んでないし」
「むしろ邪魔してきたんだよ?あーあー」
…随分と辛辣な扱いだ。見てみろ、そのお姉ちゃんが泣きそうな顔してるぞ。
「お、お前ら!私は呪術師だぞ?その気になればお前らなんて、ちょちょいのちょいだ!」
「うわぁー!痛い上に呪術師だって!逃げろー」
「呪われるー!うわーん」
さっきまで泣きそうな顔だったシリウスは顔を真っ赤にして震えていた。
どこまでおちょくられるんだお前は。
「さ、さて。気を取り直して行動に移そう」
「黙って見てたけど、ここの子供たち凄いね」
おいやめろ。今気を取り直してって言ったろ。話を掘り返すな。
「でも行動に移すったって何するの?」
アトリアは顔を手で覆っているシリウスを慰めながら問う。
「そろそろ【はじまりのまち】を出ようと思ってな。馬車で次の町に行こうと思う」
前回魔王の幹部がこの町に来たのは明らかに偶然だからな。
基本的に危険もなさそうだし、離れてもいいだろう。
それに攻めてくるパーティの情報も調べておきたい。
次の町で情報収集でもするか。
「その次の町っていうのは?どこにあるの?」
ようやくシリウスも落ち着いてきて俺の話に集中する。
「次に向かう町はここから南に位置する、【王都フラスタ】だ!」




