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第12話 彼の地の魔王

■■■

???▼


薄暗き闇の中に紅き眼光を纏いし魔王がいた。


その姿を見た者はたちまち恐怖で震え上がり、気がついた頃には死んでいるだろう。


かの魔王が有する軍の魔物は数にして万を超えており、誰もその城へ足を踏み入れることは出来ない。


大陸全土は黒雲で包まれており地図には長らく記載されていない、それ故に人々はこの魔王の存在を知らないのだ。


「魔王様、ご報告があります。東に位置する大陸へ調査に赴いていた幹部のヴァドルが“逃げ帰ってきました”」


魔王が座する玉座の間に声が響き渡る。その声は重々しくどこか不安を感じさせる。


「…逃げ帰ってきた?どういう事だ、東の大陸は最弱冒険者の集まる地であろう。」


魔王が言葉を発した瞬間空気が振動する。


報告していた魔物はその威圧感で冷や汗をかく。


それもそのはず、魔王が言葉を発すること自体が恐怖そのものなのだ。


「そ、それがヴァドルの話によりますと冒険者ではなく魔王と名乗る者にやられたらしく。」


普段、決して玉座から離れない魔王が立ち上がり声を荒げる。


「なにぃ⁉︎東の大陸には既に魔王は居ないはず。その昔の大戦でとっくに滅びたはずだ!」


「調査によりますと、その者はどうやら転生者らしく新たに魔王城を復興しているみたいです。」


その言葉を聞き、魔王は焦るばかりか逆に高らかに不敵な笑い声を上げてこう言った。


「ふ、ふはははは!転生者だと?であればさぞレベルも低かろう。よし、今すぐその魔王城へ手紙を出せ!今宵、我自身が赴きその魔王とやらに会おうではないか。」


「りょ、了解しました。ではそのようにしておきます。」


その後、魔王の笑い声が魔物たちにとって最大の恐怖であったことは語るまでも無い。


■■■

はじまりのまち「宿屋」▼


…頭が痛い。絶対に昨日の宴会のせいだ。


勢いあまって参加したは良いけど、転生する前はただの高校生だったんだよなぁ。


そもそも酒の経験が無かったんだから二日酔いなんて誰が予想するか。


「そろそろ起きるか。アトリアも起こさないと。」


そう思い、ベッドから起き上がろうとしてあることに気づく。


違和感です。前と同じ違和感がします。


ふと隣を見るとアトリアが眠っていた。

しかもスライムの姿じゃなく少女の姿で。


「ん、むにゃ。すぴー」


まさか昨日の酒のせいで部屋を間違えたのかコイツ⁉︎


いや待て、俺が間違えた可能性もある。

一概にそんなこと言えないんじゃないか?


「…あ、おはようサイカ。」


「お、おはようございますアトリアさん…」


なにこの空気すげえ気まずいんですけど!アトリアは眠いのかジト目でこっち見てるし!


「なぁ、アトリア。もしかして俺昨夜お前になにかした?」


一番先に確認しておきたいのが俺の現状である。


まだ高校生の俺にとって夜のアレはなんか早い気がする!


「?別に何もしてなかったけど。サイカが酔いつぶれたから僕がここまで連れてきたんだよ。」


どうやら宿をとってくれたのはアトリアだったらしい。

昨日の記憶がほとんど無いから焦ったぜ。


「ねぇ、そんなことよりも早く魔王城に帰んないと。スモッグゴーストや死神さんに他の魔王のこと聞くんでしょ?」


そうだった。今の俺たちはヤバい状況に身を置いてるんだ。


一刻も早く対処しないと他の魔王に、最悪殺される。


「そ、そうだな。まずは魔王城に帰ろう!よし、となればさっさとチェックアウトだ。」


部屋を出て階段を降りる。いつもの宿屋なのでこの視点は見飽きたものだ。


「あらお目覚めですか?昨夜はお楽しみだったようで。」


…え?俺マジで何したの。さっきアトリアは何もしてなかったって言ったよな?


「では行ってらっしゃいませ。」


おばあさんの声を背に俺たちは玄関の扉を開ける。


眩しい朝日がまだ眠たい目に入って視神経を刺激する。


そして同時に俺の不安の限界すらも刺激して爆破してしまった。


「おいお前!さっき俺は何もしてなかったって言ったよな?おばあさんのセリフを聞いたか?“昨夜はお楽しみでしたね”ってふざけんな!絶対ナニカしたろ!」


今まで静かだった俺がいきなり大声を上げたので驚いたのかアトリアが肩をビクつかせてこちらを凝視する。


「な、何が!本当に僕に対しては何もしてないんだって!ただ強いて言えば昨日の夜にサイカを部屋に連れて行ったあと20分ぐらいずっと一人で笑ってたよ?」


笑ってた?俺が一人でか。


どうやら一線を超えなかったようなので一安心だが、それをおばあさんに聞かれてたとか完璧に俺がキチガイだと思われてんだろうな。


「もう、いちいち突っかからないでよね。

面倒くさいんだから。ほら帰ろ?」


アトリアが俺の袖を掴んで《空間転移》を促す。


「よし、《空間転移》魔王城」


果たしてスモッグゴーストや死神に聞いたところでどうにかなる問題とは思えないんだが、天文学的な可能性に賭けるしかない。


そうして俺たちは色々な問題を抱えながら魔王城へと帰還した。

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