scene.2 ミルクティー
屈託の無い笑顔で、俺に会いに来たと言った青年は、固まってしまった俺の目を覗き込んで
「大丈夫っすか?」
と言った。その声に、ハッと我に返る。
「……ぁ、えと、今日は平日なのになんでここに……」
慌てて言葉を繋ぐ。
「……?あぁ、やだなぁ先輩、今は夏休みっすよ」
答えた愁の言葉で、今が夏休みであることを思い出した。
……あぁ、そうだった。今やっている研究が終わらなそうだったから、夏休みも学校に来ていたんだった。……それに、家にいてもすることもない。遊びにいく予定なんかないし、一日中ゲームをしてても、一日中寝てても、変に疲れるだけだ。
……そうか、今は夏休みなんだった。
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「───へぇ、綺麗なところっすね。いつもここでお昼ご飯とか食べてるんすか?」
今、俺たちは大学の敷地内にある喫茶店に来ている。話をするなら涼しいところが良いと思って、比較的良く利用しているここに愁を案内した。
「いや、いつもは向こうの方にある食堂で適当に日替わりのランチセットを頼んで食べてる。あっちの方が自分で栄養バランスとか考えなくて良いし。」
かいた汗が引いていくのを感じながら、さっきの愁の質問に答える。俺が食堂ではなくここを選んだのには、もう一つのきちんとした理由があった。人と落ち着いて話をするならここの方が良いと思ったのだ。……特に、愁とは。
「ミルクティー、今も変わらず好きなんすね。僕はいまだに苦手っす」
注文したものを待っている間に、へらっと笑いながらそんなことを言う。
「まぁ……」
「あの頃も、毎日のように飲んでましたもんね」
「あぁ、そうだったな」
そして沈黙が続いた。俺は頬杖をついて、喫茶店の窓の外に目をやりキャンパスを歩く人々を眺めた。
やって来た店員が、頼んだミルクティーとメロンソーダをテーブルに置いた。
「それで、何しにここに来たんだ?」
俺は、目の前に置かれたミルクティーを一口飲んで、口を開いた。口の中に広がるミルクティーの味は甘いはずなのに、少し苦い。
「さっきも言ったじゃないすか、先輩に会いに来たって」
「いや、そうじゃなくて……何のために、会いに来たんだ……?」
愁の笑顔が少し翳った。その表情を見て、また過去の記憶がフラッシュバックしそうになる。それを必死に抑えながら、俺は愁に尋ねた。
「──……どうしたんだ?」
しかし閉ざされた口は、なかなか開こうとしない。店内に流れる緩やかなクラシック音楽と、周りにいる他の客の話し声がやけに大きく聞こえた。
愁は、メロンソーダが入ったカップのストローを持って一口飲んだ後、くるくると掻き混ぜた。
カラン、と氷の崩れる音が響いた。
愁は暫く逡巡してから、重い口をなんとか開きゆっくりと話し始めた。さっきとは違った、必死に繕った笑顔で。
「実は──……。」
彼の口から放たれたのは、あまりにも受け入れられない、いや、受け入れたくない事実だった。