お守り
意識が遠のいていく。
誰かが叫んでいる。でも、聞こえない。
聞こえない。聞こえない。聞こえない。聞こえない。聞こえない。聞こえない。聞こえない。
何も、聞こえない。
「これあげる。大切にしろよ亮」
幼なじみの藍坂蘭[あいさからん]が、袋を差し出してきた。
「何だよコレ」
「いいから貰っとけ」
袋を受け取った少年・橘亮[たちばなりょう]は不思議そうに中を見ようとした。
「あっ、だめだよ。まだ開けちゃだめ」
「何で」
「何ででも」
不満そうに袋をかばんにしまう。
「開けるのは明日。明日に開けて」
「あぁ」
しぶしぶ納得して帰りの支度をし終わった橘は、教室を出た。
「何が入っているのかな」
「開けるなって言っているでしょ。明日よ、明日の朝」
「はーい」
こうしていつもと変わらない日常が終わった。
永遠に・・・・・・・・・
翌日の朝。
「さて、何が入っているのかな」
袋の中身を開けた。
「なんだコレ?」
袋の中には、一つの『お守り』が入っていた。
「何でこんなのが入っているんだ」
不思議に思っていると、学校に行く時間が迫ってきた。
「やべ、行かなきゃ」
何でこんな物が入っているのかは、藍坂に聞けば分かるだろうしな。今は、遅刻をしないように走るだけだ。
見渡りの悪い交差点。
学校に向かって急いでいると・・・
前方からトラックが・・・・
「痛い。痛い。痛い。痛い」
トラックに轢かれた『藍坂蘭』が、何度も、何度も「痛い」と言っていた。
「痛い。痛い。痛い」
誰にも聞こえない小さなこえで。
「誰か来てくれ」
誰かが叫んでいる。
誰かが私を見ながら叫んでいる。
『橘亮』が私を見ながら、にっこり笑いながら叫んでいる。
「な、何で」
「3年前、俺の彼女に何をやったか考えてみろ」
昨日。
「開けるのは明日。明日に開けて」
「あぁ」
橘は、席から立った。
「そうだ。これ、俺から」
「何コレ」
袋を渡された藍坂は、中を見ようとした。
「だめ。開けるのは、俺のと一緒の時間に」
「朝に開けろって。ん〜、いいわよ。朝ね」
「残念だったね」
橘は、言った。
藍坂は死んだ。
笑いながら。
その日の帰り道。
「やっと、やっと殺した」
見渡しの悪い交差点。
トラックが・・・・・・・
聞こえない。聞こえない。聞こえない。聞こえない。
何にも聞こえない。
橘亮は死んだ。
3年前。
「あなた、邪魔なの。亮には必要ない。」
刺した。橘の彼女を刺した。藍坂が・・・・・・・
「私が死んだら、あなたも一緒に死ぬの」
願いが叶うお守り。願えば何でも叶う。
幼なじみを殺すのも。自分が死んだら愛する人も死ぬのも。
全て叶う。
それが語り継がれたのは、その5年後、10年後、いつの日かも分からず語り継がれる。
呪いのお守りとして・・・・・・・・