5章 敵は同類
放課後、玄関に向かおうとしたら、廊下で女子が何やら騒いでいた。
「見た!?校門の前にすっごいイケメンがいるんだけど!」
「え!そうなの!?どんなタイプの!?」
(京乱が迎えに来るとか言ってたけど違うよな?)
少し不安に思いながらも女子の話に、聞き耳を立てていた。
「黒縁メガネ掛けてて、すっごい優男みたいな感じのイケメン!!」
「あー、そういうタイプかー。私どっかって言ったら、少しチャラい方が好きなんだよねぇ」
(京乱...じゃないみたいだな)
京乱はどちらかというと、見た目がチャラいのだが生粋の硬派。と、いう感じのイケメンで、ほとんどの確率で優男には見られないはずだ。
少し気になったので帰る際にチラッと見てみようと思い靴を履き替え、校門の方に歩いていくと、
「こんにちは、今帰りですか?」
そこには予想外の人物が待ち構えていた。
「なっ、お前は..!?」
「昨日振りですね。元気ですか?」
今朝持たされた護身用の、腰に隠してあるテーザー銃のグリップを握り、いつでも引き抜いて撃てるような姿勢を取った。
「酷いなぁ、そんなに過敏に反応しなくてもいいじゃないですか」
「殺されそうになった相手にか?」
男の言葉に皮肉で返して、男の装備を観察して武器の有無を確認する。
(昨日みたいに種の入ったカップは持ってない様だけど...)
靴などにも細工を施していたので、また細工をしてる可能性を疑い警戒を緩めない。
「安心してください。今日は種は持ってきてませんし、一般人は巻き込まないのが暗黙の了解なんです。ほら、周りからも少し注目されてますし...」
気が付くと、緊迫した空気になっていて、周りから少し注目されているようだ。
主にこの男目当ての女子が騒ぎ始めたようだ。
仕方ないので、グリップから手を離し、姿勢を緩めたが警戒は怠らないように目を離さないようにする。
「そうです、武器は置きましょう。今日は少し話をしに来ただけですから」
「話?」
「はい、と言っても私自身の話ですけどね」
透は、この男の言ってる事がよく理解出来なかった。
殺されかけて、昨日の今日で自分の事を話に来る、この男の企んでいる事がまったく想像がつかないのだ。
自分の事を話す事でこの男が得るメリットが、まったくないのだ。
「あ、勘違いしないで下さいね。これは何か企んでいるとかじゃなくて、殺し合うからには対等にいたいという、私のエゴですから」
ますますわからない。普通殺し合いはどちらかが不利だったとしても、対等なものでは無いのか?そんな思考が頭をぐるぐる回っている。
「私は[Capsize]の雨宮 慧。まぁ、茨の男とでも呼んで下さい」
自己紹介をしながら、コートの男もとい雨宮 慧はいきなり右手を差し出してきた。
「—―ッ!」
「そんなに警戒しないでください。ただの握手ですよ」
すると、雨宮の後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「信用するわけねーだろ。そのまま両手を挙げろ」
「京乱!?」
「保護者登場ですか...」
「誰が保護者だ!」
後ろから脅された雨宮は、手を挙げながら肩をすくめる。
「暗黙の了解もありますし、ここじゃ手出しなんてしませんよ」
「じゃあ失せろ」
「酷いなぁ。ま、敵なら仕方ないか。それじゃあ、また死線で会いましょう」
そういうと男は乗ってきたと思われる車に乗り込みその場から去っていった。
「こっちも一回拠点に行くぞ」
そう言って学校を離れ、数分後。
(ここ斜蔵マンションだよな?)
拠点に行くと言っていた京乱が連れてきたのは、今朝の話題に出た引っ越し先のマンションだった。
疑問に思うも、なんの迷いもなく中に入る京乱、追いかけるようにマンションに入り、ついて行くうちに非常階段の扉の前で京乱」が立ち止まった。
「着いたぞ」
「いや、ここ非常階段でしょ....」
「いいから何も言わずに入ってみろよ」
言われるがままに扉をくぐると、そこには拠点の唯一普通なリビングに出た。
「........こういう展開か....」
「転移能力の応用だとかで、ここと拠点は繋がってんだよ。それより、早く会議室に行くぞ」
呆気に取られていると、簡潔な説明と会議室への催促が飛んできて、速足で京乱の後を追っかけて会議室へ急ぐ。
「吉田 京乱、宮座 透、現着したぞ」
「遅いよ京乱君」
『お帰りなさいませ』
会議室に飛び込んでいくと、一番遅かったらしく用意された席は透たちの席以外埋まっていた。
席は四つ用意されていて、荒井とMachinaは立っている。他の二つの席には、茶髪でウェーブのかかったセミロングの女性とスポーツ刈りの白衣にTシャツ短パンの筋肉質な大男が座っていた。
「遅かったじゃねーか京乱」
「すまん、おやっさん」
おやっさんと呼ばれた男は立ち上がって透を見ると
「話は聞いてる、今回[Ⅾ]に入ったんだってな。俺は鶯沢 禅太郎。この組織の医療スタッフをやっている。あっちのツンツンした嬢ちゃんは石井 美也琵だ。よろしくな」
「宮座 透です。よろしくお願いします」
禅太郎が手を差し出してきたので握手をし、石井の方を見たが興味がなさそうに珈琲を飲んでいる。
「ところでなんで二人は遅くなったんだい?」
「それなんだが、昨日透を襲った[Capsize]の構成員が接触してきた。勧誘じゃなかったが何か企んでると思った方がいい」
そして、校門の前で会った雨宮 慧についての報告から会議が始まり、終わり直前に敵組織の説明が始まった。
「さぁ、お待ちかねの敵組織、[Capsize]についてだよ」
張り切っている荒井、他の三人はそれぞれ他の報告書に目を通していた。
「まずは基本的な情報だけど、[Capsize]は私たちと同じ命を叫ぶ者で構成されたテロ組織で、最終目的は不明だけど、竹島蒸発事件や嵐山炎上事件も公式には発表されてないけど、この組織のテロ活動なんだよ」
「え、竹島蒸発事件って水爆実験が原因だったんじゃ...」
「政府がテロ組織の仕業だなんて、そんな危険な情報流すわけないでしょ」
確かに荒井の言ったように、テロ組織の仕業だと情報を流したとして、国全体が混乱するのは目に見えている。
それを防ぐために情報を規制しわざわざ対策組織を作ったのだ。
「まぁ簡単に言うと色々危険な組織って事だよ」
(簡単にし過ぎだと思うけど....)
「ただね、そのテロ組織の構成員が命を叫ぶ者という事は、彼らも運命の被害者だということを忘れないようにね」
そう呟く荒井の顔はどこか悲しそうだった。