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武器に過去を込めて  作者: 岩切海部
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4章 トマトの蔕と幼馴染

「帰りも迎えに来るからな、あと慣れるまで走るなよ」

「え....?」

「じゃあな」

そう言うと京乱は車の窓を閉め、アクセルを踏んだ。

昨日言っていたように、制服等々のため、車で家まで送ってもらったが、走行中に

ーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

「えぇーー!?寮に引っ越す!?」

「あぁ、これは組織の決まりだ。俺もそこに住んでる」

突然の重大発表に驚きつつ、それをサラッと登校中に伝える京乱の神経の図太(ずぶと)さにイラつく。

「そういう問題じゃないだろ....あ、学校!学校から遠かったらまずいだろ!な?」

「残念だったな。寮はお前の学校の近くの斜蔵(ななくら)マンションだ」

斜蔵(ななくら)マンションって....あの十階建てのいかにも家賃が高そうな、あの?」

「そうだ。結構住み心地いいぞ」

人の気も知らないで悠長(ゆうちょう)に語る京乱に対する苛立(いらだ)ちも、ここまでくると感心するというか、(あき)れるというか。

(そんな事はどうでもいいんだよ...それより)

「もし引っ越すとして、じいちゃん達にはどう説明するんだよ」

そう透は親がいないだけで、孤児(こじ)ではないのだ。

保護者が認めなければ引っ越しなんて(もっ)ての(ほか)である。

「そこは大丈夫だ。安心して引っ越せ」

ここまで言われると止めても無駄なのだろうと思い、ほっとく事にした。

「ほら、着いたぞ」

―――――――――――

―――――――

(まぁ、他の構成員と一緒のマンションだと襲われる心配がないから助かるんだが....相部屋だったりしないよな?)

人付き合いの苦手な透にとっては引っ越すよりも、相部屋かどうかの方が死活問題だった。

葉桜の並木の真ん中を考え事をしながら登校する高校生。

普通なら、ここで後ろから活発なヒロインが背中を叩いてくるのだが

「時間ズラして正解だったな。流華どころか人っ子一人いないや」

この主人公はどうも自分からヒロインとのエンカウント率を下げてる節があるようだ。

「あ、今日日直だった」

急いで学校もといトマトの蔕へ向かおうとして走り出し、自分の身体の異変に気付いた。

「うおっ!?」

なんてことは無い。ただ走り出しただけだ。

しかし走り出した後が問題だったのだ。

「なんで、足が速くなって――うわっ!?」

何故か足の身体能力が自分では制御出来ないほど上昇していたのだ。

そのためバランスを崩して、顔から地面に追突し、鼻からは鼻血が出ている。

(確か京乱「慣れるまで走るな」とか言ってたけど、まさか....)

だいたい透の予想通りで、命を叫ぶ者になった効果は能力保有だけではなく、身体能力の向上という面もあるのだ。

ポケットティッシュで鼻を押さえながら、走るのを諦めて、透は学校へと歩きだす。

学校に着いてからは日誌を職員室に取りに行き、授業を受ける。

昼休みは人の来ない屋上で弁当を食べるのが日課だ。

いつもはコンビニで買って行くのだが、今日はMachineが持たせてくれた。

それ以外は何も変わらない。そう何も。変わらないのだ。

だから突然、思いっ切り扉が開け放たれて、幼馴染の流華(りゅうか)が登場しても、いつも通りこう言うのだ。

「いっつも言ってるけど俺は―――」

「今日なんで登校時間ズラしたのさ!わざわざ家まで行ったのに居なかったし!詳しく説明してもらうからね!」

「.......」

何事もいつも通りとは行かないようだ。

その後、祖父母宅に帰ったから遅くなったと必死に言い訳し

「ふーん...」

何か怪しがっていたようだったが納得してもらえたようだ。

「それはさておき、もうそろそろ友達の一人くらい作って欲しいんだけど」

何故か流華は、昔から人付き合いの苦手な透に、どうしても友達を作りたいようで仕方ないのだ。

「何度も言ってるけど、俺は人付き合いが苦手だし、一人の方が好きだから放っておいてくれ」

「嫌だ」

「なんでだよ...」

流華は子供の用に腰に手を当て、胸を張って拒否する。

「ま、友達作りは絶対やってもらうからね!」

そう言って流華は透の首に近い背中を叩き、屋上に気持ちいい破裂音を響かせた。

「痛っ!!——って、うおっ.....!また鼻血が....」

「どうしたの?」

再び出た鼻血を処置する透が気になり、振り向いた流華。だが

「馬鹿!!こっち見るな!!」

「え?血?....うっ....お゛ぇ゛ぇぇぇぇ!!」

血を見ると、とてつもない不快感と、胃を絞り上げられるような吐き気が流華を襲い、その場にかがみ込み、胃の中の昼食を吐き出してしまった。

「大丈夫か!?」

胃の中の物は全て出たが、吐き気は止まらず、出るとしても空気と胃液くらいしか出ない。一番苦しい吐き方だ。

「おぇ...うっ....はぁ...はぁ...うっ――」

これはあとで掃除だな。と思いつつも、時々(ときどき)水を飲ませたりして吐き気を和らげる。

「はぁ...はぁ...ごめんね」

「お前が昔から血が駄目なのは知ってるから大丈夫だ」

笹戸芽(ささとめ) 流華(りゅうか)。小学校からの幼馴染で、ショートカットで活発な性格をしているのだが、血が駄目で、鼻血でも吐いてしまうほど苦手なのだ。

そのせいで運動部には入れず、今は生徒会の補佐として活動しているようだ。

「大丈夫か?今雑巾(ぞうきん)とか貰って来るけど、フェンスによし掛かって待ってろよ」

「うん....ありがと....」

そう言うと透は、掃除道具を取りに校舎内に戻って行った。

「ふぅ...また迷惑かけちゃったな....」

(いつ見ても血には慣れないなぁ...どうにかしないと...)

そんな事を考えていると、一人の男の言葉が頭をよぎった。

【美味しそうになったら、いつか必ず骨までしゃぶりに行くからね】

「うっ..おぇぇ.....!」

その後、掃除道具を持って戻ってきた透が、掃除を終わった頃、昼休みが終わるチャイムが学校に鳴り響いた。


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