2章 hello,裏社会
「着いたぞ。降りろ」
一時間ほど車に揺られて着いた先は、埼玉県飯能市にある阿須運動公園だった。
何故こんな所に居るかというと、裏路地での戦いが終わった後、問答無用で身柄を保護され、拠点が近くにあるという此処に連れてこられたのだ。
「まだ少し歩くぞ」
「わかりました....」
この革ジャンの男は吉田 京乱というらしい。
先ほども殺される所を助けてもらったし、保護すると言っていたため、多分味方だろう。
と、いうより仮に味方ではなかったとしても、コートの男同様に、異能力のようなものを持っているため、逃げるに逃げられないのだ。
(そういえば、あの槍はどうしたんだろうか?)
一瞬、疑問に思い、車に置いてきたのかとも思ったが、男との戦闘のさい際に、穂先が枝分かれなどをしていたのを思い出し、あの槍も異能力なのだと考えた。
そんなことを考えながら、人も車もいない夜道を歩いていると、草木に囲まれた隠れ家的カフェに着いた。
「ここだ」
「え、ここ?」
「詳しいことは中に入ってからだ」
そう言いながら、closeと書かれた掛札を無視して店に入り、奥のキッチンへ行き、さらに店の奥に続く扉を開けた。
そこには長い廊下が続いていて、暗く先の扉が見えないほどだ。
「今、明かりをつけるから待ってろ」
そう言って京乱は廊下の明かりをつけた。
だがそこには、カフェから連想される木造の廊下などではなく、SFで出てくるコロニーのような廊下が広がっていた。
「な、なんだこれ....」
「気をつけろよ。この廊下には、うちの科学者が作った迎撃システムがあるから、下手に引っかかんないようにな」
「わかりまし....た?」
返事をしながら一歩踏み出すと、不意に廊下中に警報が響き渡った。
「あ、赤外線センサー切るの忘れてた」
「な....!?」
驚くのも束の間、すぐに不幸なアナウンスが聞こえてきた。
『侵入者 二名確認。迎撃システム作動。システムネーム「神罰」を起動します。放電まであと二十秒』
「まずい!!早く扉まで走るぞ!!」
「え、ちょっ」
「早くしろ!!」
理不尽な、元はと言えばあんたのミスだろうに。
『十七、十六、十五、十四........』
「止まるな!!足だけじゃなく、心肺も止めてーのか!!」
「ッ!クソっ!」
散々コートの男から逃げ回り、透の体力などはもうない。
今はもう気力だけで走っている状態だ。
『九、八、七、六........』
だがそんなことを機械が考慮してくれることもなく、タイムリミットは刻一刻と近づいている。
『三、二』
「扉だ!!入れ!!」
「――ッ!!」
『一』
「閉めろ!!」
バタン!!と、扉を閉めたすぐ後に、放電どころではない爆音が廊下から轟いてきた。
「――はぁ、危なかった」
京乱は床に腰を下ろし、安堵の息を吐いた。
「いやー、助かってよかったよかった」
確かに助かったのは嬉しいが素直に喜べない。何故なら........
「....そんなに睨むなよ。たしかに赤外線センサーを切り忘れたのは悪かったけど、結果として助かったんだし........」
「........」
「すまん...」
まぁ、釈然としないが、殺されそうな所を助けてもらったし、これで借りは消えたはずだ。
息を整えながら部屋を見回すと、廊下とは裏腹に、一般家庭のリビングのような見た目だった。
「意外と普通の家みたいなんだな.....」
「普通なのはここだけだぞ」
そう言いながら京乱は手を差し伸べてきた。
透は差し伸べてきた手を掴み、立ち上がろうとしたが、京乱の引く力が強かったのか、立とうとバランスを崩してしまった。
「うわっ!!」
「すまん、強く引きすぎた」
(少し足が浮いたぞ....ほんとに人間か?)
恐ろしくも驚きながら京乱のあとを付いて行くと、【研究室】と書かれたプレートの掛かった、厳つい鋼鉄の扉の部屋の前に着いた。
「な?普通なのはリビングだけだろ?」
「.......」
「ま、行くぞ」
声も出ない透を他所に、ぶ厚い鋼鉄の扉を開け部屋の中に入って行く。
それを追うように部屋に入ると、会議室のように広い薄暗い部屋の中には、大量のPCの部品から、何に使うかわからない不思議な形状の部品まで乱雑に散らかっている。
「おい、ひよこ。例の少年を保護してきたぞ」
「おかえり、京乱君。保護したのはいいけど、危うく君のミスで見事に殺しかけたね」
京乱が声を掛けた先にいたのは、ゲームでよくある、ぶかぶかのローブを着た、黒髪ロングの眼鏡をかけた女性だった。
「うるせー、生きて連れてきたんだから文句言うなよ」
「それは結果論だけど、まぁいいよ」
ひよこと呼ばれたその女性は椅子を回転させこっちを向き、微笑みながら言った。
「やぁ、こんばんわ。私は荒井 凛。この度君を保護する事になったこの組織の構成員の1人だ。よろしく頼むよ」