1章 good-by ⅾaily
みんな、銃って知ってるかな?雷管を起爆剤とした推薬の炸裂で鉛玉を飛ばす武器なんだけど、殺傷力がすごく高いんだよねぇ。
なんでこんな話をしてるかって?それはね……今俺が銃を持った男に追われてるからだよ!
「逃げても無駄ですよ」
「ひぃぃ!」
なんでこんな事になったかというとそれは少し前に遡る。
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季節は夏......に近い春。
高校に進学した宮座 透は学校が終わると、まるで、ここにもう要はないという様に急ぎ早に帰路に着いた。
それもその筈、あまり人と関わる事を好まない透にとって学校とは、授業さえ終わればトマトの蔕程度の価値しかないのだ。
途中、家から三十分程のスーパーで買い出しをして家に帰る。
「ただいま」
レジ袋を片手に持ち玄関に入るが返事はない。
透の両親は、透が物心つく前に他界したため、中学までは祖父母の家に住んでいたのだが、高校からはアパートで1人暮らしを始めた。
洗濯物を取り入れ、TVを観ながら畳んだり、夕飯を作ったりと、キチンとしてるようでダラダラした時間を過ごしていた。
午後八時、風呂に入ろうとしてシャンプーを買い忘れた事に気がついた。
「まだスーパーやってるよな」
パーカーを来て徒歩でスーパーに向かう。
シャンプーを無事購入した透は、一緒に買った缶コーヒーを飲みながら人気のない帰り道を歩く。
(なんかいつにも増して人気がないような...ま、いいか)
そんな事を思いながら近道の路地裏に入ろうとすると、突然後ろから声をかけられた。
「あの、宮座 透さんですか?」
振り返ると、黒いコートを着た眼鏡の男が、申し訳なさそうな笑顔でこちらを見ていた。
「はい、そうですけど...あなたは?」
「いえいえ、名乗る程の者じゃございません。あなたに少し用があってですね...」
そういうと男は懐に手を入れて何かをこちらに突き出した。
「...え?銃?」
「すいませんが死んで下さい」
男は躊躇なく撃鉄を倒し、引き金を引いた。
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「はぁ....はぁ....なんなんだよ....!」
悪態をつきながらも長い裏路地を駆ける。
後ろから迫りくる確実な死の恐怖から逃れるために、全力で、震える足を無理矢理動かして駆ける。
だが男も獲物を逃がすわけもなく、蛇のようにしつこく追いかける。
「鬼ごっこも終わりにしましょう」
男は懐からもう一丁の銃を取り出し発砲。ご丁寧にレーザーポインター付きだ。
カシュッ、という子気味良い音を立てて、透に向けて放たれた弾は、直線を描き、透の背中に命中した。
ちょうど心臓の裏側、致命傷だ。だがその弾が透を殺すことはなかった。
「痛っ!なんだエアガンか!?」
「縛れ」
男が一言唱えると、エアガンの弾——種が急速に成長し、丈夫な蔦が雁字搦めに透を拘束した。
バランスを崩した透は、顔から地面に転び、男に尻を向けた状態で唸っている。
「塞げ」
男は更に二発、ビルの二階にも及ぶ茨の壁を創り出し、透の逃げ道を塞いだ。
男は透の胸元を掴み、額に銃口を当てて言った。
「なんであなた、抹殺の対象になってるんですか?」
「えっ」
男は殺す理由を自分に聞いてきた。あろうことかその抹殺対象の自分に。
「こっちが聞きたいんですけど....」
「んー、知らないか。ま、いいでしょう。殺せば同じなんだし、最後に遺言くらい聞いてあげますよ」
引き金に指をかけ微笑む男、茨で塞がれた道、身体に絡みつく蔦、為すすべはなく覚悟を決め、大きく深呼吸をして言う。
「じゃあ――」
「お前が死ね」
突然、後ろから声が聞こえ、それとほぼ同時に茨の壁が吹き飛び、深紅の横薙ぎが男を襲う。
上半身を咄嗟に仰け反らした男は、そのまま後方に後方倒立回転で距離をとっている。
目線を後ろにやると、そこには革ジャンを着た深紅の槍を持った男がいた。
(味方....なのか?)
突如として乱入してきた深紅の槍を持つ革ジャンの男は、手早く透に巻き付いた蔦を切ると、立ち上がり槍を構えた。
すると、距離をとっていた男が叫声を上げた。
「また....また、あなた達ですか![Ⅾ]!!」
「悪いが、こいつは保護させてもらう。取り返したきゃ掛かってこい」
「そうですか....なら、遠慮なく!!」
男は腰のベルトに付いている、いくつかのカップのうちの一つに手を入れ、種を取り出し、革ジャンの男に向かって投げた。
「棘よ、穿て」
種は棘の矢と化し革ジャンの男に襲い掛かる。だが、それを革ジャンの男は槍を旋回させ弾く。
「チッ!」
再び男が種を取り出そうとすると、革ジャンの男は槍を男に向かって投げた。
男は躱そうとするが、槍は木のように枝分かれし、ドリルのように回転しながら男に迫る。
躱すのは無理だと瞬時に判断し、壁を蹴り、革ジャンの男に突っ込む。
手にはいつの間にか生成された棘のレイピアを持っていて、それを革ジャンの男の顔を目掛けて突き出す。だが、革ジャンの男は首を捻りこれを避け、男の腕を掴み、もう片方の手で糸を引くような動作をした。
すると、先程投げた槍が、何かに引っ張られるかのように持ち主の所へ飛んできた。
その進行方向には腕を掴まれた男、逃げ場はない。
「伸びろ」
男が唱えると、靴に細工をしていたようで、靴底から竹が伸びた。
革ジャンの男を飛び越え、襲い掛かった先は....透だった。
そう、男の目的は最初から変わらない。乱入者が入ろうが避けて透を殺せばそれで男の勝ちなのだ。
「しまった!」
振り返り男を追おうとするが
「茨達よ、塞げ」
男は二重の茨の壁を生成し、追撃を許さない。
男と透の距離約六メートル。男の攻撃範囲まで、あと五メートル。
(どうする!!このままじゃ殺される!!)
男の攻撃範囲まで、あと四メートル。
(とりあえず逃げねーと!!)
立とうとするが、足が震え、固まり、力が入らない。
男の攻撃範囲まで、あと三メートル。
「クソっ!!動け!動けよ!!」
足を殴り、無理矢理動かそうとするが、足は動かない。
男の攻撃範囲まで、あと二メートル。
『今回だけ助けてあげようか?』
ふと、そんな声が聞こえた。
迷っている暇はない。この際、生きるためならどんな手段だって使わなければ残るのは死のみ。
男の攻撃範囲まで、あと一メートル。
「頼んだーー!!!」
祈る、頼る、叫ぶ。どこの誰かもわからない声の主に向かって。
男の攻撃範囲に到達。男のレイピアの刀身が透の胸に襲い掛かる。
「死ねーー!!!」
そんな怒号に重ねるように、また声が聞こえた。
『頼まれたよ。遺産能力「羅城閉門」発動』
すると、透の目の前に手盾くらいの大きさの門が現れ、目に見えない障壁のようなものでレイピアが透の胸に突き立てらるのを食い止めた。
「なっ!?」
男は驚いたが、距離を置くことはなく、更に穿刺の連撃を息つく暇もない程の速さで繰り出した。
「―――ッ!」
攻撃を一点に集め門を破ろうとしたが、障壁は硬く、攻撃を受けた場所からただ波紋を広げるだけだった。
「クッ!硬い!」
破れないと判断するや否や、距離を置こうと後ろに退こうとするが
『無駄だよ。遺産能力「羅城開門」発動』
追い打ちを掛けるように閉じていた門が開き、中から大量の錫杖が矢の様に男に飛来する。
「茨よ、盾となれ!」
すかさず茨の壁を生成し錫杖を防ぐが、男は大事なことを忘れている。
「俺のこと忘れてんじゃねーよ!」
「ッ!?纏え!」
いつの間にか茨の壁を破った、革ジャンの男の深紅の横薙ぎが、またも男を襲うが、今度は避けられない。
横一文字――男の胸から、槍と同じ色の鮮血が飛び散り、コンクリートの地面を斑点模様に仕立て上げる。
「チッ、浅かったか」
「そうでもありませんよ....即席で蔦の胸当てを作りましたけど薄すぎました」
壁に手をつき、胸の傷を押さえながら男は言う。
「そうか....なら止めだ」
槍を構え、心臓に向かって鋭い一撃を放つが
「伸びろ」
靴の細工を再度起動させ上に跳び上がる。だが、先程より高く、さらに高く跳び上がる。
「今日はこれで退かせてもらいます。これでも命は惜しいので」
そう言い残すと男は夜空の黒に消えていった。
「助かった....のか?」
ふと安堵の声を漏らし、体から力が抜けていく感覚を感じながら仰向けに倒れた。
突然、殺されそうになり、挙句の果てに異能超人戦闘に巻き込まれるなど、倒れたまま寝てしまいたいほどだ。
だが、残ったもう一人の異能超人はそれを許さない。
「立て」
「え?」
「現時刻をもって、お前の身柄を保護する。異論反論は認めん。来い」
「えっ、ちょっ」
透は首根っこを掴まれ、ズルズルと革ジャンの男に引きずられていく。
その行き先が裏路地ではなく、裏社会なのはもはや確認するまでもないだろう。