E あると思うな親と金【フィア】
E あると思うな親と金【フィア】
「貯金を取り崩してばかりも居られないから、チビ二人を学校に預けたあと、こうして仕事を探しに来た訳だけど」
「外国籍可になってるのは、肉体労働や単純労働ばかりね」
カウンターテーブルの上に求人票を並べながら、グレイとフィアは揃って大きな溜め息をつく。
「ビュエ諸島での就労経験が無いからな。やれやれ。人間であることに違いは無いのに、どうして細分化して僅かな差異で区別するんだろうな。――イテッ」
グレイが沈んだ表情で再びフーッと溜め息をつくと、フィアはグレイの脇腹にひじ鉄砲を一発食らわせてから言う。
「辛気臭い顔をしないでちょうだい。こっちまで気落ちするじゃない」
「現状に則した、素直な反応だろうが。そっちこそ、空元気は後々反動が来ることを知らない訳では無いだろう」
そう言って、グレイとフィアはしばらく睨み合っていたが、やがて顔を背け、再び求人票を検め始める。
――働いてみる前から諦めの雰囲気を作らないで欲しい。ひょっとしたら、掘り出し物があるかもしれないのに。
フィアは、鵜の目鷹の目で求人票を見比べていたが、やがてその中の一枚を取り上げ、まじまじと凝視する。グレイは、その様子に気付かないのか、パラパラと面白く無さそうに求人票をめくっている。
――単価は安いけど、歩合制だから、数をこなせば稼げそう。この手の仕事は慣れてることもある。とりあえず、希望を出してみよう。
フィアは片手に求人票を持ったまま、職業組合と書かれた受付に向かう。フィアがカウンターの前に立つと、半白頭の眠そうな目をした職員は、書類にペンで文字を記す手を止めて頭を上げると、片手で丸椅子を指差しながら感情のこもっていない声で言う。
「そちらに、お掛けください」
「はい。それで、こちらに応募しようと思うのですが」
フィアは職員に指差された椅子に座りながら、手にしている求人票をカウンターに置いて言った。職員は、それを斜め読みすると、求人票を一回転させて文字をフィアが読めるように向けると、事務的に質問する。フィアも、それに事務的に応じる。
「使用者、服飾組合。労務内容、裁縫など。雇用体系、歩合制。以上で、お間違いありませんね」
「はい。よろしくお願いします」
フィアが答えたあと、職員はペンとインク壺を求人票の横に置き、空白になっている欄を指差しながら言う。
「それでは、こちらに署名願います」
フィアはペンを手に取ると、筆先の金属部分をインクに浸し、手早く文字を綴る。
――身分証明、本人確認、各種届出。旅に出ると決めてから、あちこちで署名を求められるようになったものだ。
フィアがペンを置くと、職員は一旦その上に砂を撒き、少し経ってから求人票を持ち上げて屑籠に砂を捨てると、至極あっさりとフィアに言う。
「以上で、登録完了です。お疲れさまでした」
それだけ言うと、職員は用が済んだだろうと言わんばかりに顔を伏せ、求人票を自分が読める向きに回し、欄外に文字を書き始める。
フィアは、黙って立ち上がると、求人票に背を向け、カウンターに両肘を乗せて天を仰いでいるグレイのもとに向かう。
――呆れた。飽きっぽいにも程がある。