D スマートな新しい先生【ミナ】
D スマートな新しい先生【ミナ】
――今日からは、お腹が大きくなったお団子先生に代わって、新しい先生がやってくることになってます。あっ、お団子先生というのは、髪を後ろ頭で真ん丸にひっつめているから、みんなでこっそり呼んでるだけで、本当の名前ではないです。
「どんな先生かな、ミナ」
隣の席に座るカンナが、ミナに寄りながら興奮した様子で話しかけると、ミナも同じような調子でカンナに話す。
「どんな先生だろうね、カンナ。私は、優しい先生だと良いわ」
教室を見渡せば、彼女たちの他にも十数名の児童が着席していて、髪や瞳の色も、背格好や服装もバラバラで、二人のように近くの席の仲間と話をする児童もあれば、本を読んだり、スレートの石盤に蝋石で落書きをしている児童もいる。
「ええぇ。私は、面白い先生が良い」
――お団子先生は、忘れ物をしたり、お行儀の悪いことをすると、すぐお説教しますし、お話が長くて退屈なんです。
児童たちがザワザワと賑やかにしているところへ、ガラガラと引き戸を開け、二人の男が入室する。一人は、頭が前半分ほど禿げ上がり、くたびれた三つ揃いを着用した四十がらみで、もう一人は、パリッとしたシャツを着た、まだ幼いあどけなさの残る十代後半と思しき人物である。若い男は、三つ揃いの男のあとに続き、三つ揃いの男が教壇の上手に立つと、中央で立ち止まり、児童たちに向けて爽やかな微笑みを送る。
「若い先生みたいね、ミナ」
カンナが話しかけたとき、ミナはうっとりとした表情で若い男を見ていた。ミナが反応しないので、カンナはミナの肩を揺する。すると、ミナはサッと表情を戻してカンナに言う。
「あっ、ごめん。何の話」
小首を傾げてミナが言うと、カンナは口を尖らせながら不満そうに言う。
「もう、ミナ。ちゃんと聞いててよ」
教室のざわめきを静めるように、三つ揃いの男は拳を口に当てて軽く咳払いを一つもらしてから、ひどく仰々しいもったいぶった口調で言う。
「ウォッホン。本日より、目下、出産休暇中の先生に代わって、こちらの先生に担任を受け持ってもらうことになった。まだ、教師としての経験は浅いが、彼の人柄の良さは、校長である私が太鼓判を押すところである」
校長が弁舌を揮っている中で、児童たちは、うんざりとした表情で聞き流し、小声でヒソヒソと話し始める。ミナとカンナも例外ではない。
「また始まったね。校長先生の自慢話」
「ねっ。さっさと新しい先生を紹介すれば良いのにね」
校長は、痰を切るように喉を鳴らすと、声量を大きくして話を続ける。
「あぁ、何となれば、聞くところによると、彼は首都にある有名な上級学校を優秀な成績で卒業した人物であり、彼を指導した教授は、国内では著名な研究者である。えぇ、今回の赴任にあたって、私もその教授から、彼の学校内での評判について聞いており、返ってきた答えによれば、彼は品行方正な好青年であるという。しかるに、諸君も安心して彼を頼って貰いたい。と、私は切に願うところである」
そうして欠伸が出そうなほど長口上を述べると、校長は若い男の肩を叩きながら、次のようにひとこと言って、教室をあとにする。
「それでは、あとは任せましたぞ」
「はい。お任せください」
若い男は、そう涼やかな声で校長に答えると、白墨を手に取りながら、児童たちに話しかける。
「それじゃあ、授業を始める前に、自己紹介をするね」
そう言って、若い男は、黒板にスラスラと美麗な文字を書き連ねる。
――どうたんだろう。何だか、ドキドキしてきた。