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デュークと女子大生Ⅲ  作者: 若松ユウ
Ⅱ 後編
25/26

Y 白馬に乗った騎士さま【シエル】

Y 白馬に乗った騎士(ナイト)さま【シエル】


――暗い、狭い、恐ろしい。

「追っ手は撒いた、というより、自滅した」

 シエルの背後から、サーラが淡々とした口調で事務的に報告する。

「それって、どういうこと」

 シエルが歩きながら疑問を挟むと、サーラはハーッと溜め息をついてから言う。

「途中のパイプに詰まったんだ。シエルや私と違って、あの見張りは身体が大きいからな。まぁ、どうやっても潜り抜けられないと気付けば、そのうち諦めて引き返すだろう」

――なるほど。それなら、またしばらく安心だ。

「悪いことは出来ないね、サーラ」

 シエルが、緊張感の無いのほほんとした口調で言うと、サーラはクスッと笑い声をもらしながら言う。

「そうだな、因果応報だ。――んっ。シエル、ちょっと止まれ」

 サーラは立ち止まり、片耳を床につける。シエルも足を止め、不安そうに訊く。

「どうしたの、サーラ」

「シッ。静かに」

 狭い換気口の中で、二人はじっと身じろぎ一つせず、サーラは、ただただ床に片耳を付けて物音を探っている。すると、どこからかぶくぶくという水音が換気口内いっぱいに響き渡り、それは次第に轟々という流水音に変わっていく。

――えっ、何。何なの、この音は。

「やられた。そう来たか。――走れ、シエル」

 サーラは、口惜しそうに小声で言ったあと、シエルに向かって大声で叫ぶ。

「フエッ」

――わっ。何だよ、これ。急に足の下が、お水でいっぱいになった。

 咄嗟の出来事にシエルが慌てていると、サーラは至って冷静に呟き、シエルに向かって再度声を張り上げる。

「間に合わないか。――私に掴まれ、シエル。どこでも良いから、身体をしっかり握るんだ」

「あっ、わかった」

 サーラは、シエルに向かってフットボールやレスリングの選手さながらのタックルを仕掛け、その小さな身体を抱きとめようとし、シエルは、向かってきたサーラの身体に必死にしがみつく。そして二人は、みるみる水嵩が増える濁流に押し流されていった。

  *

「プアッ」

 シエルは大口を開けてダパッと水を吐き、目蓋を開く。すると、至近距離にサーラが居ることに気が付く。サーラは、シエルの顔の前から頭を離すと、額や前髪の水を手の甲で拭いつつ、安堵の表情を浮かべながら言う。

「よかった、生きてる」

――ここは、どこなんだろう。

 シエルは、両手をついてゆっくりと上体を起こし、河川敷の草原に寝かされていることに気付くと、不安げに語尾を上げながら、サーラに確認する。

「僕たち、逃げ切れたんだよね」

 サーラは、安心させるようにニッコリと微笑んで言う。

「あぁ、逃げ切ったとも。脱出、成功だ」

「やったね」

 シエルが屈託の無い笑顔をサーラに向けて喜ぶと、サーラはシエルの濡れた髪を片手でクシャクシャと撫で回す。そのとき、二人に向かって、蹄の音が近付いてくる。

「何の音かな」

 シエルは疑問符を浮かべながら、立ち上がって周囲を見渡し、音の正体を探ろうとする。

「これは、きっと。いや、でも。だとしたら誰が」

 サーラも立ち上がるり、すぐに腕を組んで考え始める。次第に蹄の音は大きくなり、やがて、夕陽を背中にして、ヨハナとニッシが駆けてくるのが確認できるようになる。

「わぁ、凄い。ニッシがヨハナに乗って、こっちに来るよ」

 シエルがサーラの濡れた服の裾を引っ張りながら興奮した様子で言うと、サーラは、信じられないものを見たといった様子で、ジッとニッシとヨハナを見据える。

「馬鹿な。ニッシが、あの気難し屋のヨハナを乗りこなすなんて」

 サーラが愕然としている横で、シエルは一人と一頭に向かって、大きく両手をブンブンと振って合図する。

――サーラが乗ってるところも格好良いけど、ニッシが乗ってるのは、もっと格好良いな。僕も早く大きくなって、お馬さんに乗れるようにならなくっちゃ。 


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