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デュークと女子大生Ⅲ  作者: 若松ユウ
Ⅱ 後編
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R 新たな出会いと茜空【フィア】

R 新たな出会いと茜空【フィア】


――早く仕事に慣れようと張り切りすぎたせいか、もうクタクタ。明日からは、もう少しペース配分を考えよう。

「はい、今日の分の給料だよ」

「ありがとうございます」

 丈の長いチュニックの上にピナフォア・エプロンを付けた恰幅の良い女が、フィアに数枚の紙幣と銀貨を渡す。フィアは、それを両手で押しいただくと、エプロンのポケットに仕舞う。そのあと、帰り支度をしようとしたフィアに向かって、女は何かを思い出したように言う。

「あっ、そうそう。たしか、フィアと言ったね」

 フィアは、足を止めて言う。

「はい、フィアです」

――よかった。ちゃんと名前を覚えられてる。

 気持ちの良いフィアの返事に気をよくしたのか、女は満足気に頷きながら言う。

「その歳で、初日から基準量(ノルマ)を達成するとは思わなかったよ。しかも、縫製も丁寧だ」

「お褒めにあずかり、恐縮です」

 フィアが恭しく言うと、女は更に続ける。

「こんなことを言うのは、変な話だけどさ。大した給料にならないことなんだから、もっと雑な仕事で構わないよ。明日からは、手を抜いて良いからね」

――しかも、きちんと仕事ぶりを把握してる。

 フィアが感心していると、女はエプロンを両手で軽くパンパンと払いながら立ち上がり、フィアの背中を平手でドンと押しながら言う。

「きっと、高貴な血が流れてるんだろうね。何があったかは聞かないけど、困ったことがあったら、遠慮なく女工長である私に言いなさい。力になるから」

「はい。よろしくお願いします。おつかれさまです」

「はい、ご苦労さま。気をつけて帰りな」

 フィアは女に一礼し、その場をあとにする。

  *

――なかなか、悪くない職場だわ。肉体労働だから、当然、疲れは溜まるけど、この疲れは、存外、気分の悪いものじゃない。

 中央を賑やかに人々が行き交い、両端に商店が軒を連ねる活気ある大通りを歩きながら、フィアは考え事をしている。

――セプトは、うまく学校に馴染めたかな。メイには、お風呂に入っているときに、それとなく言っておいたけど。まぁ、帰ったら分かることね。今頃、お腹を空かせて待ってるでしょう。今晩、何にしようかな。

 フィアは、店頭に並ぶチーズや青果物を見歩きながら、頭の中で献立を考える。

――グレイは、瓜系が苦手。メイは、苦味の強いものが嫌いで、セプトは、酸っぱいものが駄目。メイとセプトは子供だから大目に見るとしても、グレイの好き嫌いは、速やかに直さないとね。

 フィアは、南瓜をピラミッド状に積んでいる商店の前で立ち止まり、店主に声を掛けようとして、思い留まり、再び歩き出す。

――グレイも、新しい職場で苦労しているだろうから、今日だけは勘弁してあげよう。

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