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デュークと女子大生Ⅲ  作者: 若松ユウ
Ⅱ 後編
17/26

Q 恋と呼ぶには幼い何か【ミナ】

Q 恋と呼ぶには幼い何か【ミナ】


――珍しいこともあるものだ。

「うぅん」

「どうしたの、カンナ。二桁の足し算」

 プリントを前に、ペンの尻でこめかみを搔きながら悩んでいるカンナに、ミナは語尾を上げながら声を掛けた。すると、カンナは机の上にペンを置き、頬を膨らませながら言う。

「違うわ、国語よ」

 ミナは、空欄になっている問題を見ながら言う。

「そこの答えは、騎士(ナイト)よ」

「馬鹿にしないで。綴りが思い出せないの」

 カンナが拳でポコポコと机を叩きながら言うと、ミナは床に向かって転がっていくペンを手に取り、インク壺に浸してプリントに書こうとし、ハタと手を止めて言う。

――ひょっとすると、これはチャンスなのではないでしょうか。きっとチャンスに違いありません。

「ねぇ、カンナ」

「なぁに、ミナ。書くなら、早く書いてよ」

 カンナは、ミナに向かって偉そうに言う。

――教わってるんだから、せめて下手に出なさい。

 ミナは、口の端をヒクつかせ、無理に笑顔を取り繕いながら、猫撫で声で提案する。

「ここは、先生に訊いてみたほうが良いんじゃないかな」

「えぇーっ。面倒くさい」

 カンナは、唇を尖らせながら文句を付けたが、ミナはペンを置き、サッとプリントを取り上げて言う。

「いいから、聞きに行くわよ」

「あっ。待ってよ、ミナ」

 ミナがパタパタと廊下へ向かうと、慌ててカンナも追い駆ける。

  *

――職員室に行くと、先生はいました。でも、先生は一人ではありませんでした。

「先生。カンナが、ここの綴りがわからないって言ってます」

 ミナは、プリントの該当箇所を指差しながら見せながら言う。すると、若い男は片手を上げて隣に立つ若い女との話を切り上げ、身体を九十度回転させてミナたちのほうを向き、優しく問い掛ける。若い女は、幼い二人を微笑ましそうに見ながら立ち去る。

「続きは、またあとで。――どこが分からないのかな」

 カンナが、プリントの同じ箇所を示しながら質問する。

「ここ。騎士(ナイト)って、どう書くの」

 若い男は、二人の手からプリントを引き抜くと、インク壺に刺したままのペンを取り上げ、スラスラと書いてみせる。

「こういう綴りだよ。間違えやすいから、気を付けようね」

――ウーン。どっちの手にも、指輪は嵌ってないなぁ。

 若い男はプリントを束の上に置くと、二人に向かって再度、問い掛ける。

「他に、何か先生に聞きたいことはあるかな」

 そう言われると、カンナはミナのほうを向く。

――えぇい。お勉強と関係ないけど、ハッキリ聞いてしまいましょう。

 ミナは、どこか緊張気味に言う。

「あのっ。さっきの綺麗な人は、誰ですか」

 若い男は、一瞬、虚を突かれたように沈黙したが、すぐに微笑みながら言う。

「んっ。あぁ。彼女は、先生の奥さんだよ」

「あっ、先生って、結婚してるんだね。でも、指輪してないね」

「エヘヘ。まだまだ、徒弟(インターン)の身だからね。研究に使う本とか、実験に必要な材料を揃えなくちゃいけなくて、なかなか買えないままなんだ」

「先生。それじゃあ、奥さんが可哀想よ」

 カンナが朗らかに会話する横で、ミナは顔を伏せ、わなわなと震え、居ても立ってもいられないとばかりに駆け出し、職員室を飛び出す。

――聞きたくなかった。聞くんじゃなかった。


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