P お友だちのキッカケ【メイ】
P お友だちのキッカケ【メイ】
「メイちゃん、遊ぼう」
「駄目よ。メイちゃんは、私たちとお喋りするんだから」
ボールを持った男子児童や、女子児童のグループに囲まれ、メイは眉をハの字に下げながら、困ったように笑っている。
――ボール遊びは苦手だし、昨日の今日で、もうお話しすることがないんだけどな。あっ、そうだ。
メイは、教室の隅で机に突っ伏して寝ているセプトに視線を合わせると、片手を振りながら呼びかける。
「セプト。そんな硬い机に寝そべってないで、こっちにいらっしゃいよ」
セプトは、入眠時のジャーキングのようにピクッと身体を痙攣させるが、そのまま寝たフリを続ける。
――困った狸さんだわ。何がしたいのかしら。
メイは、輪から抜けてセプトに近付くと、両肩を持って引き起こす。すると、セプトは不機嫌そうにメイに言う。
「起こすなよ、メイ。昨日は、よく眠れなかったんだから」
「だからって、お昼寝ばっかりしてると、また夜に寝られなくなるわよ。だいたい、学校に来てから何か変よ、セプト。どうしちゃったの」
メイが怒りと気遣いを半々に言い返すと、セプトは、堰を切ったように溜め込んでいた感情を吐き出す。
「僕だって、好きでこんな真似してるんじゃない。外で遊びたいし、話もしたい。だけど、メイが楽しそうにしてる中に割って入ったら変だろう。だから、僕は我慢してるんだ」
――何だ、そういうことだったのね。余計なことはズケズケ言うくせに、肝心なことは、言葉が足りないんだから。本当、フィアの言う通りだわ。
「もぅ。そういうことなら、もっと早く言いなさいよ。――みんな、こっちに集まって」
メイが、遠巻きに二人を観察している人垣に向かって呼びかけると、わらわらと二人の周りに集まる。
「セプトったら、メイに遠慮して声を掛けそびれてたんですって」
メイが明るく言うと、数人の児童が三々五々の感想をもらす。
「なぁんだ。てっきり、一人が好きなのかと思ってた」
「メイちゃんのことを気遣うなんて、良いところがあるわね」
「そうかしら。臆病なだけじゃなくて」
「何でも良いじゃん。遊びに行こうぜ。登りやすい樹を知ってるんだ」
セプトは、どこか面映ゆそうにしながら言う。
「そうだなぁ。今日は晴れてるから、外で遊びたい、かな。質問会は、明日にするよ」
そうセプトが言うと、児童たちは、再び十人十色の感想をもらす。
「それじゃあ、ボール鬼をしよう」
「えーっ。木登りが良い」
「勝手に一人で登ってなさいよ」
「そうよ。私たちは、仲良くボール鬼してるから」
そこへ、メイも発言者として加わる。
「木登りは、メイが見ててあげるわ。だから、ボール鬼はセプトに任せるわ」
「任せろ。それじゃあ、校庭まで競争だ。よーい、ドン」
セプトが立ち上がり、先陣を切って走り出すと、あとに数人の児童が続き、メイもその後ろに続いて校庭へ出る。
――これにて一件落着、かしら。




