表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デュークと女子大生Ⅲ  作者: 若松ユウ
Ⅰ 前編
13/26

M 冬来たれども春は来じ【キサラギ】

M 冬来たれども春は来じ【キサラギ】


――骨折り損のくたびれ儲けとは、まさにこのことだ。

「ユスタ民主連邦。主要産業は、石炭の採掘と材木の伐採。その国内消費と国外輸出は半々で、戦後の主な輸出先はエンリ公国。四方を森に囲まれている盆地で、昼夜や季節による寒暖差が激しい」

 サーラがメモを読み上げると、キサラギが感想を言う。

「地理的には、京都や奈良に近いのかな。底冷えと油照り」

「そうね。日が昇ると暑いくらいなのに、日が陰ってくると冷え込むわね。上着を持ってきて正解だった」

 ヤヨイは、テーブルの上に広げた地図を見ながら言った。キサラギも、同じ地図を見ながら言う。

「一日中あちこち聞き込み調査をしたのに、足が棒になっただけで、まるで手応えが無かったな」

 そう言うと、キサラギは箇条書きの上にバツ印がたくさん書き込めれたメモを、テーブルの上に投げ捨てる。ヤヨイは、キサラギが投げたメモを拾いながら言う。

「少なくとも、この近くには居ないみたいね。また明日、今度は少し遠くまで足を伸ばして調べることにしましょう」

「マジか。この調子で続けたら、明日の午後には一歩も歩けなくなるぞ」

 キサラギは、拳で片脚を叩きながら言った。ヤヨイは、呆れながらやれやれといった様子で言う。

「だらしないな。それでも男か」

「性別は関係ない。俺は、身体を動かすことに向いてないんだって、ニッシの家で痛いほど実感させられたところだ。どっかの体力お化けとは違う。――ガッ」

 ヤヨイが靴の踵でキサラギの靴の爪先を踏みつけると、キサラギは前屈みになり、踏まれた足を抱えて靴を脱ぎ、次いで靴下も脱いで仔細を検めながら言う。

「骨が折れたらどうする。この世界に、レントゲンは無いんだぞ」

 非難を口にするキサラギに対して、ヤヨイは平然と言う。

「オーバーね。せいぜい、爪が割れる程度よ」

――それでも、当事者にとっては大惨事だからな、馬鹿力め。少しは、お淑やかになれ、メスゴリラ。

 心の中で毒付きつつ、キサラギは靴下を穿き、そして靴を履くと、身体を起こしながら言う。

「虱潰しにローラー作戦しても悪くないけど、人手が足りないし、効率が悪すぎる」

「まぁ、そうね。地道にやるにしても、ちょっと時間がかかりすぎるか。あっ、そうだ。いい方法がある」

 ヤヨイが握り拳を手の平の上に乗せるようにポンと叩きながら言うと、キサラギは露骨に顔を顰める。

――嫌な予感がする。

「ねぇ、キサラギ。あんた、シワス叔父さんの顔は、ちゃんと覚えてるわよね」

 ヤヨイは、腰を浮かせようとしたキサラギの手を、逃がすまいとガッチリと掴みながら言った。

――予感、的中。あと今更だけど、ヤヨイは、俺の身体に触れることに対して、何の抵抗も無いんだな。もう大学生だろうに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ