A 真相は森の中【ヤヨイ】
A 真相は森の中【ヤヨイ】
――国境地帯は、トンネルのように暗い森が続いている。ランプの炎だけが明るく灯り、幻想的に揺らめいている。
「この気温でコートを着てて、暑くないのかな」
「ひょっとしたら、中に何も着ていないのかもしれない」
「やめてよ、キサラギ。他人を安易に変態扱いするものじゃないわ」
「冗談だ。異世界にまで露出狂が居てたまるか」
区分座席車の一部屋で、ヤヨイとキサラギが横並びに座り、ヒソヒソと声を潜めて話している。二人の向かいには、ラサルと名乗る栗毛で色眼鏡をかけた人物が、腕を組んで座ったまま、船を漕いでいる。
「戦前ってことは、十五歳以上ってことなのかな」
「真に受けるなよ、ヤヨイ。中二病の妄言かもしれないだろう」
――それも、そうね。エンリ公国の人間は、みんな大人びているものね。サーラもニッシも、現代の日本人の感覚からすれば、とてもティーンに見えない。シエルは、歳相応に可愛かったけど。
「一人称は僕と言ってたから男の子、だよね」
「わからないぞ。そういう脳内設定を楽しんでる僕っ娘である可能性も、否定できない。声変わり前と思わせて、実は女なのかもしれない」
「何よ、それ。それこそ、中二病設定じゃない」
「だって、考えてもみろよ。この世界にも男装の麗人の例がある以上、否定できないじゃないか」
――サーラのことを念頭に置いてるのね。でも、仮にラサルが女性だとしても、腑に落ちない点は残る。
「それじゃあ、サビクという公名も、出鱈目だっていうの」
「わからない。そういう親が居たんだけれども、何らかの事情で爵位を剥奪されたとも考えられる」
「何らかの事情って、何よ」
「知らないって。だけど、ありえないとは言い切れないぞ」
――まぁね。仕草の優雅さや、身に付けている服飾品を見ている限り、育ちは良さそう。
「いずれにせよ、本人に聞いてみない限り、謎は残るわね」
「すんなり教えてくれると思うか」
「思わない。むしろ、更に謎めいたことを言って、からかって来そうな予感がする」
「だよな。それより、これからのことを考えようぜ」
「そうね。旅の目的は、シワスと名乗る謎の人物が、叔父さん本人かどうか確かめるためだもの。ラサルのことは、ひとまず横に置いておくことにしましょう。――わっ、眩しい」
そう言うとヤヨイは、片手で額に傘を作り、もう片方の手で薄手のカーテンを閉めた。