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女の世界はドロドロしていると言うけれど

作者: 西田彩花

―女の世界はドロドロしている。

―女は足を引っ張り合う。


 幼い頃からそういうことをよく聞いて育った。私は女に生まれたけれど、特別「女だから」とか「男だから」ということは意識してこなかったつもりだ。男女間の友情はあり得るか否か、みたいな議論をよく見かけるけれど、同性だからとか異性だからとか、そういうのを意識しすぎなのではないかと思っていた。思春期頃から、セックスとしての性差が出てくる。これまではあまり変わらなかった体つきが変わってくる。男は声変わりをして、筋肉がつきやすくなる。女は胸が出てきて、脂肪がつきやすくなる。マジョリティが異性愛者あることを前提として話せば、男は女に恋をして、女は男に恋をする。そういった色恋沙汰が絡むと男女間の話はややこしくなって、三角関係みたいな出来事も起こりうる。だけど、男が女に惹かれる理由とか、女が男に惹かれる理由とかっていうのも、実はまだ私には分かっていない。二次成長で異なる成長を遂げた結果、男らしい体つきと女らしい体つきができあがった。無論、性器は生まれもって異なるものだが、性器を丸出しにして街中を歩くことなんて、この時代ではまずないだろう。ということは、服の上からでも分かる男らしさだとか女らしさだとかに惹かれているのだと思う。一目惚れというのは分かりやすい例で、その二次成長を含めた性差に惹かれているのではないか、と感じる。


 では、「女の世界はドロドロしている」だとか、「女は足を引っ張り合う」だとか言うのは何故なのだろう。多分、こういう言説は二次成長に起因しないと思う。女として育てられた、女として育ったという環境が関係あるのではないか。つまり、ジェンダーとしての性だ。


 レディファーストとよく言うけれど、別に私はそれをされて喜ぶ人間ではない。そういうのにこだわる男に会うと気にしなくて良いのにと思うし、そういうのにこだわる女に会うとどうして気にするのだろうと思う。体力とか筋力とかでは、大抵男の方が勝る。身長だって、男の方が平均値が高い。そういった面を考慮して力仕事を手伝ってくれたり高くにある物を取ってくれたりするのはありがたいな、と感じる。実際には私自身の筋力は男性の平均くらいあり、身長も高いのでそう困らないのだが。だけど、変に断ると嫌な顔をされるのは経験済みだ。それはさておき、二次成長で起こった変化を補い合うのは良いことではないかと思う。男の平均値くらいまで女の身長を伸ばそうと思っても、それは難しい話なのだから。まぁ、だからこそ長身の私が低身長の男を手伝っても良いと思うし、腰を痛めた男の力仕事を女が手伝っても良いとも思う。多分、変に断って嫌な顔をされるのは、男が「男然」とするように育てられ、育ってきたからなのだろう。肉体面での性差を助け合うという面ではレディファーストも良いと思う。もちろん、逆も然りである。


 さて、私も社会人としての経験を何年か積んだ。アパレル業界、マスコミ業界、美容業界、そして夜の世界。こうして列挙してみると、比較的女性率が高い業界を歩き回ったものだ。社内の人間や社外で関わる人間も、女性の方が多かった。マスコミ業界だけは男性率が高いと感じたが。

 新卒で入った会社では、百貨店内でハイブランドのアパレル販売をしていた。店のノルマはもちろん、個人ノルマもある。私が配属された店に男性社員はいなかったが、特に「ドロドロしている」「足を引っ張り合う」と感じたことはなかった。むしろ誰かが困っているときは助け合い、一緒に売り上げを伸ばしていこうという風潮だった。個人ノルマに対しての実績が良いと表彰されることもあるが、表彰されたからといって白い目で見られることもなかった。嬉し泣きをした日は、上司も一緒に泣いてくれた。

 夜の世界は、足を踏み入れるまでは怖いイメージがあった。キャバクラに入店したのにはワケがあったのだが、その理由はここでは置いておこう。実際に入店してみると、案外怖がることはなかった。みんなそれぞれの事情を抱えて働いているのだと思った。興味本位だとか、稼ぎたいからだとか、そういった理由の子も確かにいたけれど、別に互いを貶め合うとかそういった絵は見なかった。ほどなくしてナンバーワンになったけれど、それで嫌がらせをされることもなかったし、媚びを売られることもなかった。派閥はあったけれど、それに興味がなかった私は、どこにも属さず接客だけしていた。それでも露骨な嫌がらせを受けたことがない。陰口を言われていたのなら、気付かなかっただけなのだが。まぁでも、実害がなかったので気にならない。


 現在はフリーランスで美容ライターをしている。美容ライターのカテゴリは、美容業会とマスコミ業界を掛け合わせた感じのイメージでいる。だけど、マスコミ系の企業にいた頃のような男性率の高さは感じない。どちらかというと美容系のクライアントが主で、女性が多いように感じる。そして、「同業者」のくくりとして入れられるのは、マスコミ業界ではなく美容業会であることが多い。そうなってくると、横のつながりに女性が多くなってくる。女性を紹介されて、また女性を紹介されて…。また女性率の高い業界にいるな、とつくづく感じるものだ。

 ただし、アパレル系や夜の世界では感じなかったことを感じる。「ドロドロしている」のだ。先駆者が何かを成し遂げれば教祖のように崇め、讃える。信者が集うかのように取り囲み、賞賛する。一方スタート地点が同じだった誰かが何かを成し遂げれば嫉妬心を剥き出しにする。「おめでとう」と言って拍手をしておきながら、その人間の悪口を平気で吹き回す。心から「おめでとう」と言っている人がこの中にどのくらいいるのだろう、と疑心暗鬼になってしまうほどだ。百貨店内やキャバクラの店内にも美しい女がたくさんいた。美容業界もそうだ。ただし、不自然なのだ。百貨店で見たナチュラルな美しさやキャバクラで見たケバケバしい美しさではない。一言で言うと、「怖い」。整形している人が多いと感じる。整形に関しては、賛成も反対もしない。したい人はすれば良いと思っている。でも、整形し過ぎた顔は生気がない人形のようで、怖い。そこまでして美しさを追究するのか、と感じてしまうくらいだ。美容業会にいるからって、完璧に美しくある必要はない。顔の造形は生まれ持ったものである。美容業会に入りたいから美しく生んでくれ、と両親に頼める人間がいるのだろうか。ケアやメイクで自分なりの美しさを磨けば良い話だと思うのだけど、どうもそれではダメだと思う人が存在するようだ。整形で人生が明るくなるなら良いと思うのだけど、やり過ぎた不自然さが並ぶと人形屋敷にでも来ているような気分になる。美容業会で働く人間は美容業会で働く人間であって、モデルではないのだ。それなのに、謙遜しながら他人の容姿を褒め合う姿が滑稽だと感じるのである。


 大企業で出世争いをしている男は年中椅子取りゲームをしているようだなと思う。別に出世争いをしているのは男に限った話ではないのだが、この椅子取りゲームには、確かに男も参入しているのだ。数少ない役職を手に入れるため、媚びを売ったり平謝りしたりライバルを蹴落としたり。もちろんそうでない男もいる。助け合いの精神を大切にする企業もあるだろう。だけど、「ドロドロしている」のは女に限った話ではないのだ、ということを言いたい。


 アパレル企業やキャバクラでは、私が出世争いに参入することはなかった。それが「ドロドロしている」と感じなかった所以なのではないかと思う。一転フリーランスになった途端、「有名になりたい」「稼ぎたい」という思いを持ったフリーランスと関わることが増えた。社内で出世争いをしているわけではないが、この業界で出世争いが行われているらしい。積極的に参入したいとは思わないけれど、知名度は単価に関係してくるし、ある程度稼げないと生活が危ぶまれる。そんなこんなで、なんとなく、出世争いに参入しているような感じになる。教祖を崇める人間を見たり、賞賛した裏で貶している人間を見たりする。それに加えて、人形のように無表情な美しさをよく見るようになる。これらは、今までに感じたことがない怖さだった。


 「女の世界はドロドロしている」「女は足を引っ張り合う」。こんな言説が何処から出てきたのかは分からないし、あまり興味がないので由来を調べたいとも思わない。だけど、こんなのが通説になっている限り、「女然」として育てられる少女たちは、そういったジェンダー性を兼ね備えるようになるのかもしれない。私はそこに男女差はないと思う。「ドロドロしている」か、「足を引っ張り合うか」は、男女ともにその時置かれた環境に依るのではないか。だけど、そうして育てられたから、そうして育ったから口を揃えて言う。「女だからドロドロしている」「女だから足を引っ張り合っている」と。男の椅子取りゲームは棚に上げて。「女だから」仕方がないのだ。媚びを売っても、嫉妬心を剥き出しにしても、不自然な美しさを追究しても。どこにいても、確かにポストは少ないのかもしれない。でも、そのポストにどのような意味があるのだろう。「女だから」も「男だから」も関係なく、自然体で、自分なりの幸福を手に入れられる社会になれば、と切に願う。幸福度が高くなれば、きっと他人を気にしなくてよくなるだろう。「誰かと比較して不幸せ」「誰かと比較して幸せ」なんて、本当の幸せには近づけないだろうから。


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