女勇者と強すぎ魔王2
「このあと何する?オセロはユウキが弱すぎるからパスな」
「あんたほんと死になさいよ!!」
ユウキの放った斬撃を受け流しながらこのあとのことを尋ねたら死ねと言われた。
勇者にあるまじき言動だよねほんと。
「ん~、どうしようかな……この間は二人でババ抜きして死ぬほど面白くなかったしなぁ……かと言ってポーカーはユウキに理解できると思えないし……」
「あんたマジでぶっ殺す!!『光の裁き』!!」
最近、ユウキは魔法を交えた闘い方をするようになって以前より手強くなった。
いくら、才能やスキルが強くてもそれだけに力が片寄ってたら絶対に致命的な弱点が生まれてしまう。
ユウキにはそういうところがあったからこの成長は俺としても嬉しい限りだ。
「こらこら、若いお嬢さんがそんな汚い言葉を使ってはいけませんよっと……」
まぁだからといってそう簡単に殺られてあげるつもりはない。
なので、無詠唱で空間をねじ曲げて生み出した穴にユウキの魔法を根こそぎ吸いとらせて対処させてもらった。
「甘い!!『神斬竜殺』!!」
……ふむ、どうやら魔法は俺の目を逸らさせるだけの為に使われた物だったらしい。
その証拠に穴が消えたときにはすでに笑みを浮かべたユウキに目の前まで距離を詰められていた。
そして繰り出されるは竜すら一撃で屠るスキルのよる一撃。
さすがにこれをくらえば俺も無傷ではいられない。
なので……
「『強制旅行』」
迷うことなく俺の首に向かってくる聖剣の刃に軽く触れ俺はスキルを発動する。
すると聖剣は姿を消しその次の瞬間、カランと音を立て魔王である俺が来客を出迎えるここ『謁見の間』の入り口の扉の側に落ちた。
技が発動していたせいか床がえぐれて石がむき出しになってるけどまぁ気にしてはいけない。
…………また怒られるなこれ。
「まぁ、今日はこれで終わりだな」
ひとまず聖剣を失い丸腰になったユウキの首に手を当てそう告げる。
「あんた……ずるい……」
「魔王だからね。それよりこのあとどうする?先にご飯食べる?」
「……あんたね……」
頬をピクピクさせるユウキ。
「あ、そうだ!」
と思ったら急に何かを思いついたように不敵に笑みを浮かべるユウキ。
どうした?可愛いぞ?
「問題!!パンはパンでも食べられないパンってなーんだ!?」
「……何言ってんの?」
なんか言い始めた。
「何って……パンはパンでも――」
「いや、それは分かったから!!そうじゃなくてなんでそんなくそ使い古されたなぞなぞ急に出し始めたの?って聞いてんの!」
「なっ!?使い古されたって……じゃああんたは答え分かるの!?」
「まぁ……いくつか候補はあるけど……フライパンとか?」
「……正解」
ただでさえ大きくてこの世のどんな物よりも綺麗な暖かいオレンジ色の瞳を更に大きく見開き一瞬驚いたような様子を見せ、そのうえで次の瞬間にはムスッとした様子で俺を睨みつけながらポツリとそう言った。
どうにも正解されるとは思っていなかったらしい。
パンツって言ったら殴られそうだからとりあえず様子見で言ってみたけどあってるのな。
あ、でも親戚のおじさんが「パンツは食用と観賞用があるから半分は正解なんだよ」ってこのなぞなぞを俺が子供の頃に出した時言ってたな。
「いや、けどやっぱパンツは観賞用に限るよな」
「え?なに?ほんときもいんですけど……」
「お願いだから敬語はやめて!!今のは俺の失言だったと思うけどお願いだから敬語はやめて!!死んじゃう!俺の絹ごし豆腐メンタルが死んじゃう!!」
気を付けなければ……
不用意な発言一つで今まで積み上げてきた信頼関係がぱぁになるなんてのはよくあることだからな。
「……あんたの頭がおかしいのなんてわりと初めのころから知ってたから今更そこまで何も思わないけど……」
おかしいな……
俺とユウキの間にはどうにも信頼関係という物はあまり成り立っていなかったらしい。
俺はいつデレてくれても万事受付体制なのに。
「それにしても急にどうしたのさ?あんなさるでも解けそうななぞなぞ出して」
「なっ、さるって……私はさるよりは賢いわよ!!」
「ん?んーー、あー、もしかしてだけど人間の間でなぞなぞがちょっとしたブームとか?」
なるほど、それならユウキのわけの分からない行動にも納得がいくってもんだ。
たぶんだけど村の子供とかになぞなぞ出されて答えられなかったんだろな……
ユウキって控えめに言っても『凄い愛らしい脳筋バカ』だから。
「ちなみにユウキはなんて答えて間違えたの?」
「間違えたのは確定!?あんたほんとぶっ飛ばすわよ!!」
それができないから俺はピンピンしているわけなんだがそれは言わない方が良いだろう。
これ以上城の修理箇所を増やすとワンチャン下克上される恐れがあるし。
「ごめんごめん。それでなんて答えたの?」
「……メロンパン」
雪のように真っ白で美しい肌をほんの少し朱色に染め小さくユウキはそう呟いた。
……可愛いな。もう一回やろ。
「え?ごめん、聞こえなかったなんて?」
「だから……その……メロンパン……」
「え?ごめん、もう一回」
「……あんたわざとでしょ?」
「ごめんなさい!ちょっとした出来心だったんです!だからその拳を収めて!」
調子に乗りすぎたらしい。
目のハイライトを消して右の拳を左手で包み込み迫ってくるユウキは俺の謝罪に対して目のハイライトを消したまま可愛らしい笑みを浮かべることで返答した。
いかんな。このままでは殴られてしまう……
……いや、でも捉え方によってはご褒美みたいなものか。
「ヘイッ!プリーズ!!」
ドン引きされた。
「……それでさ……なんでメロンパン?」
俺は満身創痍(メンタルが)の状態でユウキに尋ねる。
「だって……」
答えるユウキの声もなぜか疲れている。
「あれメロン入ってないじゃん!」
「さる以下……」
その考え方だとたい焼きもアウトだからな……
というか別にメロン入ってないからって食べ物じゃないわけでもないからね。
「失礼ね!じゃああんたが出してみなさいよ!」
「別にいいけど……それじゃあ……」
今日はなぞなぞか。
とはいえ……あんまり難しいとたぶん答えられないよな……
「上がることはあっても下がることがないものなーんだ?」
まぁこれくらいなら何とかなる……かな?
けど、あのなぞなぞを間違えるレベルだからな……
「……あんたへの嫌悪感??」
「酷くない!?」
あんまりである。
「合ってるでしょ?」
「間違ってるよ!仮に合ってたとしてもそんななぞなぞ出さないよ!!」
ちなみに答えは『年齢』である。
良い子は間違えても「お前への嫌悪感」とか言ったらだめだぞ!
「はいはい、分かってるから。当てられて悔しいのは分かったから早く次いきなさいよ」
「む、まぁいいけど……」
なんか釈然としないな……
「それじゃあ……赤黒黒黒黒黒青、これなーんだ?」
これはけっこうよく知られたなぞなぞだな。
案外初見だときついか?
「……赤が私で青があんた?」
「ちょっと待って。なんでそんな執拗に距離置こうとするの?」
おかしいよ……娯楽のはずなのに胸が痛い……
「黒はあんたと私の距離感ね」
「微妙に遠いな!!」
全く見えないくらい離れてるわけでもないのが現実味帯びてて怖いわ。
「もういいから早く次!」
「えー」
めちゃくちゃだな……
「うーん……あ、じゃあさ」
「……なによ?」
「勝負をしよう!」
「勝負?」
首を傾げるユウキ。
「うん、次のなぞなぞの答えを俺はこの紙に書く。もしユウキが正解したら俺はユウキの言うことをなんでも一つ聞こう。けど、もしユウキが間違えたらその時は俺の頼みを一つ聞いてもらう。どうかな?」
「……面白いわね……良いわよ!やってやろうじゃない!!」
よし来た!
「じゃあだすぞ?あるところに三つのドアがありました。一つ目のドアの先には燃え盛る炎が、二つ目のドアの先には一年間全く食事をとっていない怪物が、そして三つ目のドアの先には一年間全く食事をとっていない猛獣がいます。どうしてもこの三つのドアの内から一つを選んで先へと進まなければいけません。さて、どのドアを選べば助かることができるでしょう?」
以前に本に載ってたなぞなぞをユウキにも分かりやすくしたんだけどかなり難しいよね。
クククッ、ユウキには到底解けまい。
勝負は俺の勝ちだな!
ちなみに答えは――
「……ねえ」
「ん?どうかした?」
「これ別に私どれ選んでも余裕で生き残れるんだけど」
「…………そだね」
出す相手間違えた感が凄い!
あれ?というか勝負俺の負けなのかこれ?
『君は敵から逃げていて目の前に三つのドアがあった。一つ目のドアの先には燃え盛る炎が、二つ目のドアの先には一年間全く食事をとっていない怪物が、そして三つ目のドアの先には一年間全く食事をとっていない猛獣がいる。どうしてもこの三つのドアの内から一つを選んで先へと進まなければいけない。さて、どのドアを選べば助かることができるだろうか?』
※『君』は勇者、魔王、またはそれに類ずるものではないとします。
毎月の初日にあげるかもしれないです。
息抜きに書いてる奴なのでもしかしたらもう書かないこともあるかもですが。