疑問
一人になり、どんどん暗くなっていく窓の外を見ながらぼんやりと考えた。
俺はそもそもどこがおかしいのだろう?
熱はない、頭はぼんやりしているが普通に会話が出来ている、なのに全身が重く動かない。
彼女…、美冬さんは、ファミレスで急に具合悪そうにし出して気を失ったと言っていた。
いくら看護師だからといって、自宅(?)に連れてくるだろうか?
改めて顔を動かせる範囲で部屋を見渡すと、8畳ほどあるのではと思われる広めの部屋で、ベッドはシングルではなくセミダブルくらいだ。
大きめの白いレースのカーテンがかかった窓に頭を向けていて、その隣にシンプルな机があり、先程俺に飲ませてくれたストロー付きのミネラルウォーターのボトルが置いてあるだけだ。
その近くには美冬さんが座っていた小さなイス。
ちょっと頑張って顔を上げ足元の方を見ると、肘置き付きの木製のイスもあった。
暗くて良く見えないが、重そうで頑丈そうだ。
そのイスは何もない壁の方を向いていて、テレビがある訳でもないのに…と不思議に思った。
それ以外は何もない。
壁も真っ白で、飾りなども何もないようだ。
生活感のない部屋、人気のない部屋、そんな感じだ。
窓を見る限り、木の上の方が見えるので1階ではなさそうなのだが、ここはどんな部屋もしくは家なんだろうと思った。
…それにしても…、何の音もしない。
静かすぎる。
人の歩く音や声、生活音や車の音、鳥のさえずりさえも聞こえない。
美冬さんはどこに行ったんだろう?
こんなに静かだと、本当に彼女がいたのかどうかさえ疑問に思えてきて、どんどん暗くなる上に身体は動く気配もなく、不安になってきた。
それに、さっき勢い良くミネラルウォーターを飲んだからか、トイレに行きたくなってきてたのだ。
トイレの我慢も、静けさの我慢も限界で、そっと声を出してみた。
「あ、あの〜…、み、美冬さん?」
ドアは閉まっていて、彼女がどこにいるかもわからないのに、か細い声しか出なかった。
相当ビビっているようだ、その時。
カチャリ…
「はい、呼びましたか?」
そこには真っ黒で細く小さなシルエットが浮かんで見えた。
顔は見えない。
だが、今日最後の夕日に照らされた口元だけが、不気味ににぃーっと横に広がっていた。