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ナインテイカー  作者: キミト
第三章 『極剣』
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第六話  決戦会議

「さて。まずは、皆を此処に集めた訳だけど」


 そう言って、学園長は話を切り出した。


「実は、何者かがこの島……九天島を狙ってる、って情報が、ちょっとした筋から入ったんだよね。勿論、それだけなら警察なり自衛隊なりに任せるんだけど。どうも今回の『敵』は、それで済む相手じゃなさそうなんだ」

「私達が出なきゃなんない程ー?」

「うん。どうもそうみたい」


 神妙な顔で頷く学園長に、レストが同意するように頷く。


「まあ、そうだろうね。あれは、そこいらのテイカーに任せておける相手では無いだろうさ」

「んう? レストは何か知っているのか?」

「ああ。実は先日、首謀者らしき男に襲撃を受けた」

「……何ですと!?」


 がたり、学園長が立ち上がり、驚きを露にする。

 その様を冷静に見詰め、レストは先日の襲撃について話し出す。


「二日前、会議の連絡を受けた日の夜だ。気分良く学園内を歩いていたら、突然胡散臭い紳士に話し掛けられてね。そのまま少し、やりあった」

「……それはもしかして、茶色の帽子とコートを身に着けた男か?」

「ああ、そうだよ。もしかして練夜くんの所にも来たのかい?」

「……来た。が、俺の場合は話しただけで、直ぐに去って行ったが」


 どうやらあの男、誰にでも喧嘩を売っている訳ではないらしい。

 と、はいはーいと元気の良い声と共に、女性二人が手を挙げる。


「私の所にも来たよー。美味しいものを上げるから、暫くこの世界から出て行ってくれー、とか言ってたかな。あ、当然断ったよ? 正直凄く迷ったけど」

「私の所にもそれらしき奴が来たぞ。研究に忙しかったので、適当にあしらっておいたがな!」


 仲良くポテトを摘まむ七海と西加の発言に、学園長の驚きが更に大きくなる。

 どうやらあの男――モーゲルラッハは、ナインテイカーの下を次々に訪れ、交渉を持ちかけていたらしい。

 最も彼自身が言っていた通り、断られてばかりのようだが。


「う~ん。しかしそうなると、ナインテイカー全員に交渉を持ち掛けている、って事かな。君はどう? 久遠君」

「ん~……」


 学園長の呼びかけに応え、漸く、眠りっぱなしだった少年が目を覚ます。

 話の流れなどまるで無視して、顔を上げた久遠は大きく背伸び。更に暢気に欠伸までしてから、しぱしぱと目を瞬かせ。


「う~ん。僕の所には、そんな人は来てないなぁ」


 それだけ言って、また突っ伏して寝息を立ててしまう。

 けれどこの場に居る者達は誰も、呆れはすれど叱ったり突っ込んだりする事はなかった。

 理由は単純だ。それが出来る相手では無い、それだけの話。

 納得したように、七海が頷く。


「そりゃそっかー。流石の敵さんも、くっちーにちょっかいを掛けるのは怖いみたいだね」

「久遠は馬鹿強いからな。どうなっているのか、一度解剖させて欲しいものだ、はっはー!」


 八之瀬久遠という少年は、決して横暴な人間では無い。

 だが、些か気分屋でマイペースな所があった。特に(本人にとって)下らない理由で眠りを邪魔される事を、非常に嫌う。

 もしモーゲルラッハが眠っている彼に対し、他と同じ様な交渉を持ちかけたなら。きっと彼は不機嫌になり、今頃モーゲルラッハは学園最強との戦闘を強いられていただろう。


(そしてそうなっていればきっと、あの悪魔は一秒と持たずに死んでいる)


 レストは彼我の実力差を冷静に分析し、そう結論を出した。

 決して、モーゲルラッハを侮っているのでは無い。奴の実力は、直接対峙した己が一番良く知っている。

 だがそれを鑑みて尚、『瞬殺』という結論が出る程。八之瀬久遠という人間の実力は圧倒的なのだ。


(私とて『魔導戦将』だ『ナインテイカー』だと言われているが……彼には、到底及ばない)


 レストは自分の実力を正しく把握している。

 そして同時に、相手の実力を測れない程馬鹿でもない。

 だから分かる。自分ではあの何時も眠たげな少年に、一パーセントの勝ち目も無い、と。


 少なくとも、今は。


(まあ、焦ることは無い。時間はたっぷりとある、じりじりと追いついていけば良い話。そもそも、私の目標は彼に勝つ事ではないしね)


 とはいえ、負けているよりは勝っている方が良い。

 そう思う程度には、レストにもプライドというものは備わっていた。或いはこれも、目標とする『彼』との関わりを経て得たものかもしれないが。


「それで。そろそろ本題に戻ろうか、学園長」

「ん、そうだね。首謀者自ら交渉に来たのは驚いたけど、皆断ったみたいだし問題は無いかな。学園に侵入されたのは問題だけど」

「やっぱりあの茶色帽が、首謀者なのー?」


 おそらく、と前置きしてから、学園長は答えた。


「そうだと思う。仕入れた情報通りなら、主犯格は四人。君達の見た初老の男性に、穏やかそうなシスターに、頭のおかしそうな青年に、小さな女の子。その中でもお爺さんに関しては、一番積極的に動いているみたいで、比較的情報が多かったんだよね」


 その情報の中に、容姿についてもあったのだろう。

 あんな特徴的な見た目をした人間、そうそう現代には居ないのだから、間違いの可能性は限りなく低い。ほぼ確定だろう。


「ふーん、そうなんだ。でさ、相手の目的は何なの? いや、この島を狙っているってのは聞いたけどさ、何で狙うの? 単なる愉快犯?」

「いや、違うよ。……まだ百パーセント確定ではないけれど。彼等の目的は、この島にある『封印』を解くことだよ。多分」


 学園長の言葉に、一瞬で場の空気が変質する。

 この島にある『封印』。それは決して、軽んじて良い存在ではなかった。


「封印って、あれ? あの、島の中央にある……」

「なる程。あれだけの手合いが、リスクを犯してまで求める訳だ」

「……本当ならば、危険だな。阻止する必要がある」

「おいおい、穏やかじゃないぞっ。これはちと、まずいんじゃないか」


 四者四様の返しを受け、学園長は大きく頷いた後、


「そう。わざわざこの島を作ってまで、強固に固めた封印。開けては成らぬ、パンドラの箱」


 そこに封印されている者は、表だけを見れば神にも近い。

 今の世界を作った、最大の功労者にして、実力者。

 だがその本質は、決して善とは限らない。故に解き放たれてはならない。それが、それこそが――


「アーテンホクス・ベラ・テイカーの、封印だ」


 皆が静かに、眉を顰めた。


 ~~~~~~


 会議が終わった頃には、太陽はすっかり沈み掛けていた。

 バラバラに去って行く皆を見送り、レストは何とはなしに空を見上げる。


(久遠君は相変わらず眠っていて、協力してくれるかは分からない。他の者達も、それぞれの気質や事情から参戦は望み薄か。となるとこちらの戦力は私、練夜くん、七海くん、博士、の四人)


 そして、敵の主犯格も四人。

 最も、隠れた協力者が居るという可能性も十分あるが。


(何にせよ、現状数の上では互角か。となるとやはり、雑魚の相手は皆に任せるしかなさそうかな)


 学園長の情報によれば、モーゲルラッハの部下であろう悪魔達の暗躍が、各所で目撃されているらしい。

 やはり、四人だけで攻めてくるつもりは無いのだろう。島を、そして封印を守るのならば、皆の力が必要だ。


「あまり楽観視出来る状況では無いが。しかし、彼女等の成長という点では好都合なのもまた、事実」


 最悪、援軍を呼ぶことも考えておくべきか――。

 策を練りながら、レストは歩き出す。

 彼は決して悪側の人間ではない。むしろそこいらの人々よりもよっぽど、善性の高い人間である。

 ただそこに、ほんのちょっぴり自分の欲望が混ざるだけなのだ。そしてそれが、多くの人間には理解され難い、それだけなのだ。


「余計な邪魔は入れたくない。上手く、立ち回らなければな」


 小さく笑って。レストは、寮へと帰っていった。


 ~~~~~~


 同日、某所。


「いやはや。結局交渉は全敗でしたよ、困ったものです」


 一昔前の探偵染みた格好をした男、モーゲルラッハがやれやれと首を振る。

 途端、正面の席に腰掛ける派手な容姿の青年が、甲高い嘲笑の声を上げた。


「そりゃじーさまの交渉術がへぼだったんじゃねぇの? 人を殺してばっかりいるから、人と話すのが下手糞になっちまったってかぁ? きゃきゃきゃきゃきゃ!」

「……うるさいです。あなたのこえは、みみにひびきます」

「お、そりゃ悪かったなちびっ子。けどこりゃ止めらんねぇんだわ、癖なんだわ。きゃきゃきゃきゃきゃ!」

「…………」


 むすっとした表情で、少女は席を立つと部屋から出て行く。

 あーらら、と青年が軽薄な声を出した。


「嫌われちまったぜ。何も困りゃしないけどな!」

「いやはや、貴方は困らなくとも、私は困るのですよ。止めろとは言いませんが、少しは控えてくださるとありがたいのですが」

「じーさまにまで言われちゃたまんねぇな。しゃーねぇ、少しは気をつけるか。きゃきゃ!」


 ちょっとだけ短くなった笑い声に、モーゲルラッハは頭を痛めた。

 そういう事ではないのだが、これ以上は言っても無駄だろう。せめてもう一人、味方が居れば良いのだが。


「……? どうかしましたか、モーゲルラッハさん」

「いやはや、何も」


 そのもう一人、美しいシスターは、実に平然とした様子で微笑んでいる。

 どうも彼女には、あの男の笑い声が不快では無いらしい。全く持って理解し難い事だ。


「いやはや、とにかく。彼女には後から伝えますので、そろそろ肝心の話に移りましょう」


 場を仕切りなおすように、モーゲルラッハは手を叩く。

 パンパン、と乾いた音がして、二人の注目を集めると彼は切り出した。


「私の軍団の準備が整いました。これで何時でも、九天島に戦争を仕掛けることが出来そうです」

「ナインテイカーはどうすんだ? まさか全員無視、何て言わねーよなぁ?」

「勿論ですとも。好都合と言うべきか、私の調べた通りならば、現状立ちはだかると思われるナインテイカーは四人です。丁度、私達と同じですな」

「なる程。私達がそれ等と一対一で戦い、足止めをしている間に、モーゲルラッハさんの配下の悪魔達が封印を目指す。という訳ですね」

「ええ、その通りです。シンプルですが、逆に良いでしょう。中途半端に策謀を駆使した所で、付け入る隙を与えるだけですからな」


 違いない、と青年が肩を竦める。同意するように、シスターも首を縦に振った。

 二人の賛同を確認してから、モーゲルラッハ。


「では、時期も見て……決戦は七日後。八月十一日に、行いましょう」


 二人が頷き。悪魔が、笑った。

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