ようこそ、華乃寮へ
イケメンがいた。それもすごいの。
よくいる「芸能人系」ではなく、どこかの御曹司を思わせるような「セレブ系」だ。
「初めまして。僕はこの寮の管理人をしている月影だよ。君たちは、坂谷君と真壁君かな」
声までかっこいいとは。
一体どんなチートだ。前世で神に色仕掛けでもしたか?
それに・・・
「えっと、初めまして。月影さん、でしたっけ。どうして俺たちのことを・・・」
「ん?ああ、そっか。ほら、僕ここの卒業生だし」
「・・・は?」
ここの、とはこの学園のことだろう。
俺たちは『スパイ科』だ。今は『情報処理科』と名乗っているが、それにしたって『特別科』はこの学園の秘密機構のはず。
おまけに、初見で名前を言い当てるなんてどう考えてもおかしい。こんな巨大な寮だ。俺たち以外の入寮者だって何十人といるだろう。
「いくらなんでも初見で言い当てるなんておかしい、って思った?」
「・・・鋭いですね」
「はは、ありがとう。まあ驚くのも無理ないよ。実は、毎年『特別科』の入学試験を受ける人は『探偵科』のOBが身辺調査するんだよ。僕は今回『スパイ科』の調査担当でね、それで君たちのことも知ってるってわけ」
「そう、だったんですね」
「びっくりした?」
驚かなかったと言えば嘘になる。
つまり、この人には俺たちが『スパイ科』であることが知られているというわけだ。
「まあ、そういうわけだからさ、これからよろしくね」
それはそれは、どうぞよろしくお願いしたい。
となりにいる美琴のリアクションがない。
見ると、完全に月影に見とれているようだ。
こんなにかわいい美琴が超イケメンの月影に見とれているシーンなんて、どこぞの少女漫画だという感じだ。
これもまた青春か。・・・いや、違うか。
「そうだ、先に寮の説明をしておくね。夕食は午後七時から九時の間に一階の食堂ね。お風呂は午後十一時まで。朝は五時から入れるから。朝食は朝の六時半から八時半までだからね。時間外は部屋にあるキッチンとかシャワーで何とかして。ちなみに女子が二階で男子が三階だから。特に立ち入り制限はしないけど、あんまり行き来してほしくはないかな」
「わかりました。美琴、行こうか」
俺は月影に礼を言い、見とれっぱなしの美琴を引きずって部屋に向かった。