表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

自己紹介はスマートに


どうやら、今日はこれで終了のようだ。

これから明日、明後日の二日間はホームルームが続き、本格的に授業が始まるのはそのあとかららしい。

周りを見ると、すでに何人かは教室を出ていた。

さて、帰るか。

配られた資料をバッグにしまっていると、プラスチック製のカードが目に入った。さっき水原から配られた学生証だ。

『国立特別技術者養成学園 情報処理科[坂谷 優人]』

顔写真と肩書き。それに性別と生年月日のみのシンプルなカードだ。ICチップが埋め込まれているが、どこで使うのだろう。

ま、そのうちわかるか。

「ねえ」

不意にどこからか声がした。何だ、奇襲か。スパイ科なのに殺し合いが始まるっていうのか。

きょろきょろと周囲を見渡すが声の主は見当たらない。

聞き間違いだろうか?

学生証を財布にしまおうと思いバッグを漁っていると、再び声が聞こえた。

「ねえってば!こっち、目の前だよ!」

はっとして顔を上げた。どうやら前の席の人が話しかけてきたようだ。

「あ、ああ、すまん。ぼーっとしていた」

「いや、こっちこそごめんね。急に話しかけたりして」

へへ、と困ったように笑っている。

肩につかないくらいのストレートヘアとぱっちりした二重。色白で小顔なのも相まってまるで小動物のようだ。

なんだよ俺、入学初日からツイてるじゃねえか。

「俺は坂谷優人。これから三年間よろしくな」

そう言って手元の学生証を相手に見せる。

初対面はとにかく挨拶が大事だ。ここは気取らず、けどチャラくならないよう気遣ってみる。

ってか、こんな可愛い女子とお近づきになれるとかどんなラブコメだよ。ありがとう、神様!

「えっと、さかたに君かあ。難しい名前だね」

呼びにくいらしく、少し舌ったらずな感じになっている。

「そうだな。友達からは『さかやん』って呼ばれてたし、あんまりちゃんと苗字で呼ばれることはなかったかもな」

「その呼び方いいね。そう呼んでもいい?」

「もちろん」

よし、まずまずの滑り出しだ。

相手も俺に習って自己紹介をしてくれるらしく、わざわざ学生証まで出してくれた。

「えっと、真壁美琴です。よろしくね」

そう言ってはにかんだ。

…かわいい。

美琴ちゃんって呼んでもいいだろうか。いやでもここは真壁さんと呼んで「下の名前でいいよ」と言ってもらうのを待つべきか。

そんなことを考えていると、不意に見せてくれた学生証が目に入った。

『国立特別技術者養成学園 情報処理科[真壁 美琴]』

いたって普通の学生証だ。

ただ一箇所を除いては。

「ねえ、ここさ…」

しかし、開くドアの音に遮られてしまった。

「あれ、まだ残ってたの?」

見ると担任の水原が心配そうにこちらを見ている。

慌てて周囲を見渡すと、どうやら俺たち以外はすでに教室を出たようだ。

「ああ、すいません。すぐ帰ります」

「慌てなくていいよ。ふふ、さっそく仲良くなってくれたみたいで嬉しいよ」

水原は嬉しそうに目を細めている。

俺は学生証を財布にしまい、そのままバッグに放り込んだ。

「さかやん、準備できた?」

「おう、大丈夫だ」

では失礼します、と水原に声をかけて俺たちは教室を出た。

背中から水原の声が飛んだ。

「お疲れ様。明日からよろしくね。坂谷君、それに真壁君」

その言葉に、俺はさっき見たものが正しかったのだと再確認させられた。これだけかわいくて、小動物のような真壁美琴の学生証。その、性別の欄。


そう、真壁美琴は男だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ