ストーカーと恐怖
いつからだろう…。
僕の郵便受けにプレゼントとおぼしき物が入るようになったのは…。
僕には彼女なんかいないし、告られたこともない。
「またかぁ〜。誰だよ、一体。」
目の前には食べ物が入った袋がぶら下がっている。
中を覗くと手作りらしいものが入っているのがわかった。
気味が悪くて食べられず、そのままゴミ箱行きだ。
「誰か分かればなんとかなるが、これじゃあな。なんともならないし。いったい誰だろう…。」
気にはなるが探しようがない。
手紙には【あなたを見ています。】とだけ書かれていた。好きとかでなく見てますだけでは好意を持っているのかさえ怪しい。
玄関の郵便受けを変えてみることにした。
小さなものしか入らないように細工したのだ。大きなものは入らないように。
すると案の定食べ物は入らないと諦めたのかピタリと止んだ。
ホッとした。
気味が悪くて仕方がなかったからだ。
しかし、今度は分厚い封筒が入ってきた。
中身は何か確かめる気にはなかなかならなかったが、そのままにしてはおけないと意を決して封を開けた。すると出てきたのは大量の写真だった。
30枚は超えていたであろう…隠し撮りされていた。
不気味さが増し、僕は警察に相談することに決めた。
警察ははじめ相手にしてはくれなかったが、この大量の写真を見て考えを変えたようだ。
すぐに動いてくれるそうだ。
安心した。
だが、なかなか捜査は進展しないようで何の連絡もない。
一ヶ月が経った。
相変わらずポストには僕の隠し撮りされた写真が入ってくる。
どこから見てるんだろう…。
僕にピントを合わせている為周りはぼけている。なので場所の特定はできていない。
警察は何をしているのか…苛立ちが募る。
僕は出かける時には周りを見るようになった。
キョロキョロしてると挙動不審に見られることはわかっていたがやめられない。
「どこだぁ〜?どいつが僕なんかにあんな物送りつけて来るんだ〜?」
全くわからないことの恐怖。
男が女かもわからなかった。
文面はパソコンで作ったものらしく筆跡はわからないからだ。
だが、ある日捜査に進展があったようで警察から連絡が。
一人の男が浮上したと。
男があんな弁当を作るものなのか疑問ではあったが、警察も必死に捜査してくれているのだから疑ってはダメだ。そう自分に言い聞かせる。
別件で任意で引っ張り、取り調べを始めた。
男は学校の後輩だった…。
どうやら僕に憧れのようなものを感じて影でコソコソとつけ回していたらしい。
全然気づかなかった。
だが、写真に関しては知らないの一点張りだった。
何度も何度も問い詰められてもそこだけは変わらなかった。
これ以上引っ張っては置けず、結局は返す事に。
しかし、彼が署に連行されている間も写真はポストに投函されていたので彼ではないとわかっただけでも良しとしなければ。
じゃあ、いったい誰が?
わからないことに対しての恐怖はまだ終わらない。それでも諦めずに僕は警察に通い続けた。
「署内では見知った人はいない。そう、大丈夫だ?じゃない!どこかにいるはずなんだ。何処に?もしかしてここにも来てるかも…。」
両手に汗をかいていた。
人が多いところは避けなければ。
見られてもわからない。
そう思い路地裏に入った。
そしたら背後から足音が聞こえた。
カツ、コツ。
胸がドキドキしながらも後ろを振り返ったが誰もいない。さっと隠れたのかもと思い、少し戻ったがやはり誰もいない。
聞き間違いだったのか?そんなはずは…。
緊張は頂点に達し、僕はその場から走り出した。すると足音は付いてくる。
「なんでついてくるんだよ。僕に何がしたいんだよ。」
僕はただひたすら走った。
自宅まで走ってきた為肩で息をしている。
「ハァー、ハァー、ハァー。」
ひたいに浮かぶ汗を拭い玄関に向かう。
気になったのでポストを見るがまだ何も入っていない。
と、思ったら底の方に小さな紙切れが入っていた。
【あなたを捕まえる。
つーかまえーた。クスクス。】
緊張で中に入れない。
家の中に入ったら誰かいるんじゃないかと思ってしまった。玄関〜は電気はついていない。部屋の明かりは〜ついていない。じゃあいないのか?本当に?不安が募る。
ドアノブに鍵をさして鍵を開け中へ入る。すぐに電気をつけたが人の気配はない。
特に何か変わったところはなかった…と思ったが、部屋の中心の机の上に写真がばらまかれていた。
そこには署内にいた時の僕の顔が写っていた。
明らかについてきている。
ついさっきまでの僕が写っているのだ。
不気味でしかない。
僕はハンカチで写真を包みなるべく指紋が残らないように手にして自宅を飛び出した。
車を飛ばし、慌てて署へと駆け込んだ。
最初にメモを見せ、それから写真を差し出した。刑事さんもびっくりしていた。何せ署内で堂々と写真を撮っていたからだ。あの時はちょうど団体客が来てて皆写真を撮っていたので全く気づかなかったのだ。
やられた〜という顔をして僕の方を見た顔はなんとも言えない表情をしていた。
「どうしたらいいですか?刑事さん。」
「ああ〜もう、あの団体客の中にいたのか?年配の人が多かったからなぁ〜。でも待てよ?そんな中に一人だけ若そうな人がいなかったか?」
同僚に質問していた刑事がこう答えた。
「俺っちは気づきませんでしたね〜。」「いや、確かにいたぞ!若いのに関心があるのか〜なんて思ったりしてたからな。」「警部本当にそうですか?」「あっ、当たり前だ。何を言って…モゴモゴ。」
となるとその人物が怪しいことになる。
特徴は刑事さんが見ていたので問題ないはず。警部さんという方は犯人は女性だと証言した。
長い髪、スレンダーな足を隠す長いズボン。何より香水の匂いがしたそうだ。
その香水は後に女性が使うものであることがわかる。
甘い香りがしたからだ。
僕を尾行する日々が始まった。
僕はあまり出歩かない。
学校がある日はやむおえずだが、休みの日は家でゴロゴロするのが日課だ。
その様子も何処からか写真が取られていた。
角度から近くにあるマンションじゃないかということになり、みはる日が始まった。僕は緊張しながらもなるべく普段通りに過ごした。
そんなある日、刑事さんが走っているのを見た。その先を見ると誰か走っている。
帽子を深くかぶり肩にはショルダーバックが。首からはカメラがぶら下がっていた。
慌てていたせいか周りを見ずに走っている。そんな彼女の目の前に車が走ってきた。
「あ、危ない!!」
そういったが遅かった。
彼女は車にはねられその場で息を引き取った。
後味が悪い事件である。
その後の夜、何かにうなされてハッと目が覚めた僕の顔の目の前に死んだ彼女が現れた。彼女は顔を血で真っ赤にしながら耳元でこうささやいた。
「つーかまえーた。」