第2話
竜。それは、伝説上の生き物とされ、空を飛び、炎を吐き出す、最強の生命体。
あくまで、空想の世界にだけ存在すると思っていた。
そんな生き物が、今目の前にいる。上から俺を見下ろしている。
えっ?女の人は?両親は?そんな疑問も、竜と一度目が合うと吹き飛んでしまった。怖い。怖い。怖い。逃げ出したいのに、体が動かない。あっ、赤ちゃんだから仕方ないか。いやいや、そんなわけない!逃げないと死ぬ!ヤバい!ヤバい!ヤバいって!
声をあげようにも、ヒューヒューと息が抜けるだけだ。冷や汗が体から溢れ出て、心臓の鼓動が速さを増してゆく。
「やっと目が覚めたか」
ヒャウ?!
びっくりした!いきなり喋りかけられた。食べられるんじゃないのか?!心臓がバクバクいって破裂しそうだ。この世界でも、言語理解能力はあるようなので、恐る恐る震える声で話しかける。
「あの…あなたは竜ですよね?」
ちょっと待った俺-!緊張しすぎて何直球の質問投げかけてんだよ!そこは、もっと良い質問あっただろうが!あー、これ終わったわー。自己最速転生記録的更新しちゃった-。はっ、いかん。びびり過ぎて思考がおかしくなっている。冷静に。冷静に。でも、やっぱり怖い!
「おお!喋れるとはな!驚いたぞ!」
あ、れ?怒ってない。何で?
「あ?え?えーと…」
「ああ、すまないな。質問に答えよう。いかにも!我は古代からこの一帯を治めている竜だ!名を、ガラルという。呼び捨てで構わぬ。敬語も要らぬぞ。人は我の事を、爆炎竜と呼ぶ。お前の名は何というのだ?」
あれ?案外普通じゃないか。良かった。良かった。気持ちを落ち着かせて、冷静にいこう。
「名前は、まだないんだ。」
「そうなのか?まあ良い。名は、何にしたいのだ?」
「あ、うーん、特にないなぁ。」
「ふむ。では、お主に我からラウルという名を授けよう。そこへ、片膝を立てて座るが良い。」
なんかいきなり名前つけて貰っちゃったよ。質問とかもしたかったけど、取り敢えず言うとおりにしよう。最初、赤ちゃんなのに動けるのか心配だったけど、大丈夫だった。
「少し痛いが我慢しろ。」
「え?痛いの?」
「ああ。まあ大丈夫だ。」
「なら、良いんだけど…」
「では、‘古代竜ガラルの権限において、其方にラウルという新しき名を授けよう’◆◆◆◆◆“竜の名付け”」
両手を広げたかと思うと、ガラルはいきなり呪文のようなものを唱えた。すると、俺の周りに光が満ちてゆき、一気に霧散したかと思うと、
ドクンッ!
心臓が大きく跳ねる。突如、身体全体に激痛が走りだした。叫び声をあげながら、床をのたうち回る。身体の奥が熱い。骨が軋み、筋肉が千切れるようだ。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。ああ、俺はこのまま死ぬのかもしれない。
余りの激痛に自分の死を覚悟しようとした時、痛みはウソのように引いていった。荒い呼吸のまま、助かった事に対して安堵する。しかし、すぐに自身の身体に違和感があることに気が付いた。
あれ…?
立ち上がってみると、少し前よりも明らかに、目線の位置が上がっていた。腕や脚も伸びている。
「もしかして、身長が伸びた…のか?」
念わず呟いてしまった。
「うむ。お主の言うとおりだ。確かに身長が伸びておる。しかし、このような事例は、長く生きている我も初めて見たぞ。」
「そうなのか?」
「ああ。‘竜の名付け’は、名を授ける代わりに試練として、享受者に苦痛を与えるのだ。それを乗り越えた者には、祝福として竜の加護が授けられる。お主の場合は、試練に耐えうる肉体がなかった為に、急成長したのだろう。」
そんなことあるものなんだな、と思いつつ、部屋の中に人が見当たらない事に気づいた。
「なるほど…しかし、‘竜の名付け’と急成長については分かったんだけど、俺の両親は何処にいるんだ?」
「あ…うーむ。そのなぁ。」
「どうしたんだ?ガラル。」
突然喋りにくそうに、言葉を濁しているガラル。
「聞いて驚くなよ。その…多少言いにくいことなんだか…」
「大丈夫だって。言ってみてくれよ。」
両親は死んでしまった、というところか。じゃないとこんな竜のところにいたりしないわな。
「お主の親は、この世にはおらぬ。」
やはり訳ありなんだろう。なんかもう予想つくけども。
そんな事を考えながら、ガラルの次の言葉に耳を澄ます。だが、ガラルの口から出てきた言葉は、あまりにも驚くものだった。
「いや、正確にはおらぬらしい。お主を我に預けたのは、ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー神だ。」
「へっ?」