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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第2章 少年期 天使で悪魔なお嬢様 編
8/29

また例の夢を見た

 また、例の怖い夢を見ていた。

 俺は雲一つ無い蒼い空に浮いていた。

 とは言っても今ではこの夢も慣れたものだ。

 浮遊感を味わっていると、いつもの二人が現れ手を差し出してくる。

 俺も両手をそれぞれ差し出す。

 ここで落下が始まる――と言いたいが今では、ほんの少し続きがある。

 片方の人が俺に近づき、握手をする事が出来るのだ。


 「あんたは、誰だ?」


 俺は握手が出来た一人に問いかける。

 体感的には二十秒位の間が空いた。


 『……我ハ汝ト共ニ在ルモノ……』


 その途端、俺と握手した人が一緒に落下した。

 浮いたままのもう一人と距離が離れていく。

 落下は、どんどん加速していく。

 意識が……


 「うわぁ!」


 俺は、ベットから跳ね起きる。

 慣れてるとはいえ、この心臓のバクバクはどうにかならないものか。

 八才になった今でもこの夢は定期的に見ている。

 父さんが言ってた「そのうち夢は見なくなる」だが、変わらず見ている。

 しかも、夢自体の内容も少しずつだが長くなってきている。

 これって何だろうな、あと数年立てば会話も成立したり、もう一人とも握手できるのだろうか。


 そういえば何で寝てたっけ?

 俺は辺りを見回す、ここは――滝小屋だ。

 正確には村の近くにある森の奥に滝があり、滝の頂上付近に小屋がある。

 この小屋は二年位前にフランツさんと巡回兼狩りに出かけた時に偶然見つけた。

 まあ、小屋というより骨組みの木材しか残っていないボロボロ状態だった。

 それをベースに一年位かけて丸太を重ねていき、壁や屋根を作り、小屋が完成し『滝小屋』と命名した。

 滝小屋は狩りや薬草等の採取に出かけた際に、休憩所というか中継地点になっている。

 それに森に入れば突然の雨や濃霧になったら避難所としても使える。

 ちなみに内装は特に何もしてないし、簡易ベットと部屋中央に暖をとれる様に囲炉裏的な物くらいしか置いてない。


 今回は森の中で薬草を取りに来た際に、休憩がてら寄って仮眠をとったところだった。

 まさか、仮眠自体の短時間でもあの夢をみてしまうとは……

 

 少し憂鬱になりかけた俺は窓に目をやる。

 ふと外を見ると空が茜色になっていた。

 

 「やばい。考え事してる場合じゃない、さっさと山を降りないと母さんに怒られる」


 俺は部屋の角に薬草等を集めたカゴから袋に入れ始める。

 袋を背負い、腰にソードブレーカーと手製のホルスターに魔導銃を収め、ボーガンを片手に小屋を出た。



 村に戻ったのは、空が暗くなってしまった頃だった。

 家に帰ると母さんに開口一番で叱られてしまった。


 「ごめん、母さん。山を降りる途中に鹿を見つけてさ。狩っていたら次に猪を見つけて、そいつも狩ってたら、こんな時間になっちゃった」

 「はあ、あんただったら魔物レベルが出ない限り怪我の心配はしてないけどさあ」


 そうなのだ、俺は今家族、しいては村の人達から体力的な面であまり心配されていない。

 父さんやフランツさん達から毎日武術関連でしごかれている為である。

 みんなが組んだ訓練メニューは素晴らしく、俺の成長に合わせて訓練してくれるので、今の所大きな怪我や病気にすらなっていない健康体で過ごせている。

 ちなみにフランツさん達の方は、元騎士だけではなく元バウンティハンターや元スカウト、元修道士だったりと多彩だ。その為、武術のみならずサバイバルの知識や偵察する際の索敵方法等を教えてもらっている。

 そのおかげで今では森へも一人でいくことを許されている。

 

 「そもそも門限を設けたのもあんたが森でサバイバルを始めさせない為だからね。でも約束事はきちんと守りなさいね。約束を守れない男が私は嫌いだからね。よってこれはお仕置きよ」


 そう言いながら母さんの右腕が俺の頬を優しく撫で、呪文を唱える。

 それって身体強化の魔法じゃ……

 ぎゅっ。

 左の頬に鋭い痛みが走る。

 

 「いたっ、いたい、いたたたたっ! ……母さん、身体強化してまでやらなくてもいいじゃない!」

 「バカねぇ。非力な私の握力じゃ、お仕置きにならないでしょ? はい、これで終わり。それじゃ、父さんを呼んで来て」


 いやいや、そうはいうけど母さん、細い腕にしては力あるでしょ。

 俺は左の頬をさすりながら、父さんを呼びに行こうとしたら、部屋のドアが勝手に開いた。


 「おう、ローザもユウも大きな声出してどうした?」


 父さんは、体中絵の具だらけの格好で入ってきた。

 今の父さんは村長兼芸術家という肩書を持っている。

 絵のみならず陶芸をやったり、彫刻をやっていた時期もある。

 なんでもその時の気分でやりたい事が変わるそうだ。

 王都では父さんのファンの方も多いらしく、それなりに売れてる芸術家らしい。


 「あなた! 先にお風呂入ってきれいになってきてね。ご飯はそれからにしましょ。そんなカッコでは抱きしめられないわ」


 やばい、ラブラブスイッチが入りそうなキーワードが出てきた。

 俺は、晩御飯が遅くなってしまう可能性を考え、スイッチが入る前に父さんの背中を押してお風呂場へ向かった。



 本日の晩御飯は、鹿肉をふんだんに使ったメニューでとても美味しかった。

 鹿と猪をそれぞれ一頭ずつあったので、残りは近所へのお裾分けと保存食として干し肉になる予定だ。

 フランツさん、肉全般好きだから喜ぶだろうな。



 晩御飯後、夜の日課となる勉強が始まる。

 魔力操作の練習が無くなった分、今はほぼ座学のみの勉強になっていた。

 母さんは一般教養に始まり歴史やその他、思いついた雑学等を教えてくれる。

 

 「今日、この国や周辺国について勉強しましょうね。あなたも他の街に行く機会があるでしょうしね」

 「そうだね。他の街や王都にも行ってみたいよ」

 「あなたもいずれは成人になって家を出て行くでしょうし、どこに行っても困らない様にしないとね」


 この国の名はゲブラー王国という。

 今まで全く気にしてなかった……

 周辺には、東にティファレト聖王国、南にホド大公国、北にビナー帝国。

 そしてこの国の場合、中央に王都、この村は北東に位置しビナー帝国国境付近になるらしい。


 ちなみにビナー帝国とは中が悪く、ここ三十年くらいは、たびたびビナー帝国からの小規模な侵攻戦があるらしい。俺の生まれてからはそんな事は起こってないようだ。

 それぞれの国の現状を簡単に教えてくれた。

 今日はさわり程度の勉強になるようだ。

 

 「あと、この大陸には合計で十の国があって大陸間鉄道が整備されているから、各国へ行くことが出来るようになってるわ」


 鉄道自体は魔道具発明の応用で開発された。

 国によって大陸間鉄道の他に各都市や村へと鉄道がしかれている。

 残念ながらゲブラー国では、王都と各大きな都市にしかしかれていなく、うちの村はもちろん無い。


 また、戦争があった場合その国同士の鉄道は閉鎖及び撤去されるらしい。

 この国の場合は、ビナー帝国間が閉鎖されている。


 「今日はこのくらいにしましょうか。今週はこんな感じでやっていきましょう」


 母さんは、本を閉じ今日の夜の日課――勉強が終了した。

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