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アルカナ・サーガ  作者: いしか よしみ
第1章 幼少期
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父さんと母さんはラブラブ

 また、怖い夢を見た。

 夢の中は、上も下も透き通る蒼い空、そして下は地面が見えない。

 俺は浮いていた。

 ああ、いつも通りだ。

 体は動くのに浮いてるだけで移動できない。

 いつも通りであれば、ここにはあと二人いるはずだ。

 目線を上げると二人がいた。

 どちらも自分とほとんど同じ容姿をしている。

 三つ子と言われても違和感がないだろう。

 俺は、この人達を『夢の人達』と呼んでいる。

 夢の人達はいつも笑顔で俺を見つめている。

 そして、おそらく握手なのだろうか、手を差し出してくる

 ここまでは、怖くもなんともない。

 怖いのはこれからだ。

 俺は、夢の人達に右手差し出す。

 あと少しで触れようかという時、ストンと浮いてる感覚が無くなる。

 そうなんだ、落下していく。

 夢の人達とどんどん距離が離れて、見えなくなる。

 

 「うわぁ!」


 絶叫と共にベットから跳ね起きる。

 相変わらず、あの落下だけは慣れないな……。


 「また、いつもの怖い夢見たの?」


 母さんが隣でオタマ片手に俺の顔を覗きこんでいた。


 「よ、よく分かったね。あ、おはよう母さん」

 「おはよう。そりゃあね。ニタ―って笑顔になったと思ったらすぐに苦い顔でうなさられるんですもん。ユウはほんとにその夢見るよねぇ。普通同じ夢なんてほとんど見ないのにね。……起きたことだし、さっさと顔洗ってきなさい。朝飯にするよ」


 ほんとになんなんだろうね、あの夢。


 「はーい」


 返事をして、洗面所に向かう。



 顔を洗ってリビングに入ると、すでに父さんが座っていた。


 「おはよう、父さん」

 「おはようさん。また、いつもの夢見たんだって? ユウ」


 コーヒー片手に新聞を見ている父さん。


 「そうなんだよね。落下するのも、こりごりだよ。それに不思議なんだよね。最近の夢の人達ってさ、俺に合わせて成長しているんだよね。この右腕の擦り傷なんて同じようについてたしさ」

 「ふ~ん。成長する夢か。ユウの魔力が操作出来ない事に関係あるのかねぇ。昔は、ユウと一緒に魔道具使うと暴走するもんだったし、魔力が溢れてるから将来は天才魔術師か!?って騒いちまったけど、今となっては逆に一切魔力操作出来ないほどだもんな」

 「そうだね、夕方の日課で母さんがいろんな方法教えてくれるけど、効果が出ないんだよね」

 「まぁ、深く考えなさんな。魔法を使うんじゃなく、一般人は必ず出来る魔力操作だからな。そのうち操作は出来るようになるもんだ。ついでに夢も見なくなるもんさ」

「そっかなー」 


 魔力操作か。

 そうなんだよね、俺は全く出来ない。

 魔道具とは、その道具に魔力を通すと予め決まった効果を発揮する。

 この村には、街灯だったり、家の中だとランプや火を起こす道具もそれだ。

 俺の場合、魔力を操れないので、魔導具を動かせない。

 まぁ、今のところ生活に支障が無いから気にしてないけどね。


 その時、母さんが台所から料理を持って来ながら話しかけきた。


 「ほらほら。さっさと食べて、父さんといつもの日課をしてきなさい。終わったら今日はトムさんの畑仕事はやんないで、フランツの手伝いをしてほしいのよ」


 フランツさんは、この村の自警団のリーダーをしている人だ。

 朝の日課の手伝いをしてくれている。

 自警団絡みの仕事って珍しいな。


 「はーい。ちなみにフランツさんのとこでは何やんの?」


 言いながら、出てきた朝飯をガツガツと胃袋に収めていく。


 「村近くで魔物を見たって話があったから、集会所の倉庫にある武器や防具の整備するから人手が足らないそうよ。村のみんなが使うものだからお願いね」

 「魔物って珍しいね。魔物の話が出るのは初めてだよね。母さん」

 「そうね、こっちに越してから六年近くになるけど初めてね。本来、魔物はこんな村の近くにはでてこないいんだけどね。あなたもそうでしょ?」


 俺と同じくガツガツご飯を食べている父さんは、相槌を打ちながら話す。


 「ああ、そうだな。暴走猪ならまだしも、魔物レベルは多少知恵があるから自分のテリトリーからほとんど出ないし、人間の生活圏には来ないんだけどな。逆に入って来ちまったら、被害で人死が出る事もあるから、しっかり準備して対処しないとまずいしな。俺やローザなら問題無いけど、この村全体だと戦える奴はそう多くないだろうからな」

 「そうなのよね。まぁ、来ないかもしれないけど、用心に越したことないし、手伝いの方はやろしくね」

 「分かったよ。母さん」


 そっか、元騎士の父さんと元魔術師の母さんが言うんだから魔物って危険なんだな。

 そんな事を考えてると、父さんが話しかけてくる。


 「ユウ、昨日、言うの忘れてたけど、来月にやるお前の五歳の誕生日会に爺ちゃんが来るぞ。一緒に祝福したいんだとさ。昨日来た手紙にそんな事書いてあったぞ。ローザには、体に気をつけろってさ。俺は……特に何も書いてなかった。あの親父と来たら全く……」

 「まあまあ、何も書いてないって事は、何も心配してないってことでしょ? それにあなたの場合、心配する必要ないでよ。騎士団を退団しても、他の人より強くてカッコイイわよ。シリウスはカッコイイ! 愛してるは!」


 あ、スイッチが入ったか……。


 「えへへっ。そっか、カッコイイか~。俺もローザを愛してるぜ!」

 「そうよ、ふふふ」


 父さんと母さん、見つめ合って二人だけの世界を展開しだした。

 ああ、なんでこの親達は子供の前でイチャイチャしだすんだろう。

 ラブラブなのは良いけど、子供の居ない所でやってほしいな、こっちが恥ずかしいよ。

 ほぼ毎日、何かのタイミングでスイッチが入る、この光景を見ている俺としては、生暖かい目で見ることしか出来なかった。


 「ごちそうさま。父さん、先に裏手に言ってるね」


 俺は、そそくさと日課の為に家の裏手に向かった。

 

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