看板騎士エイミーの華麗なる竜退治<中>
普通なら足がすくみそうな空中の移動だが、エイミーは舞うような優雅な動きで白竜の頭に降り立った。その手の剣が背後の陽光を受け、新緑のように鮮やかな光を放つ。
状況を忘れ、その姿に見入っていたトロイは、両手で剣を構えたエイミーが、首から背中を花道のように駆け下りて来るのに気付き、
「は、早い!?」
すぐに我に返って自分も剣を抜き、エイミーの最初の一撃を受け止めはしたものの、それをトロイははじき返すことが出来なかった。なんとか刃の勢いをそぎ、背後に飛びずさる。距離を稼いで体制を整えようとしているのだが、その間もエイミーは攻撃の手をゆるめない。
二度、三度と容赦のなく繰り出される斬撃を受け止めるだけで精一杯で、トロイはいつの間にか、竜の尾の先に追い詰められていた。
「い、いきなり現れて、なんなんだお前! しかもどう見ても、この国の人間じゃないだろう?!」
力では及ばないと判断したらしく、トロイは焦った様子で声を張り上げた。
「そんな変な格好で竜人までたらし込んで、一体何する気なんだよ! 人助けにかこつけて、この領国をのっとろうとでも」
「めんどくさいなぁ、きみ。人の国より自分のことを心配したら?」
切っ先をつきつけ、エイミーは冷ややかに目を細めた。
「見た目がどうこう、服がどうこう。そんなの今関係ないでしょ。大事なのは、あたしがアルスさん達を助けたいって思ってる、それだけの話」
「それだけって……」
「だいたい、ひとが弱ってるところにつけ込んで、美味しいとこだけかっさらおうなんて根性が気に入らないのよ。騎士を名乗るに値しないわ、反省なさい!」
一喝すると、エイミーは上段から剣を振り下ろした。
鈍い音と共に、トロイの剣がエイミーの斬撃を受け止めたのも束の間。エイミーの剣はトロイの剣身に食い込み、その剣を叩き折った。その勢いのまま体を袈裟懸けに斬りつけられ、衝撃に耐えきれなかったトロイは後ろに吹き飛び、竜の背から足を踏み外した。
「あっ……」
さすがにやりすぎたかと、エイミーが下をのぞき込む。
そのまま下界の森の中に吸い込まれていくかと思ったが、素早く下にまわったアルスの蒼竜が、トロイの体をくわえて受け止めていた。
『だいじょうぶだよ、その剣、生きてるものは斬れないから。魔法が発動してればその効果が乗るけど、今はただ気絶してるだけ』
「そっか」
「さすがエイミー殿、勇敢で鮮やかな剣裁きだ。私の目は間違いではなかったな」
蒼竜が背中に放り投げたトロイの首根っこをつかみ、アルスはエイミーを見上げて眩しそうに目を細めた。エイミーは誇らしげに胸を張る。
「当然よ、私は選ばれた騎士だもの!」
「その通り、美しく誇り高い最強の騎士だ」
頷いたアルスの目が、今度はもう一騎の白竜に向いた。横にいるレクセルの存在など忘れた様子で、呆然と身動きできないでいるウィタードに。
「まだやるか? ウィタード?」
ウィタードは、蒼竜の背で目を回すトロイと、トロイの白竜の上に立つエイミーと、その背後のラピスへと、順番に首を巡らし、
「……こ、降参する……!」
完全に戦意を喪失した様子で、力なく座り込んだ。
「あー、てすてす。双方の部隊に告げまーす」
手首の縄をほどかれると、白竜の上のレクセルは、ステッキの先をマイクのように口元に寄せた。横に座るウィタードはすっかり放心しているが、ラピスが白竜に人間には理解できない言葉で話しかけていたおかげか、白竜はおとなしくその場で体勢を保ったままだ。
「私はヴェルーリヤ宮廷魔導師レクセルです。ヴェルーリヤ騎竜部隊は、アルマース部隊指揮官ウィタード、指揮官補佐テトレー、参謀トロイグロスの身柄を確保し、停戦合意に至りました。指揮官ウィタードは敗北を認め、以降は和平協定成立までベルーリヤの監視下に置かれます。戦闘は終了でーす! これ以降の戦闘行為は、勝者敗者に関わりなくテールエルデ王国領国間条約による処罰の対象になりまーす。戦闘行為を終了してくださいねー」
レクセルの言葉は、ステッキの先から螺旋状に生まれた風に乗って、下方に展開する双方の灰竜部隊へ広がっていく。それは水面に落ちたしずくのように、戸惑ったようなざわめきと、歓声との波紋を生み出した。魔導師達が街に勝利を伝えるために、蒼い光の花火を中空に放っている。
「さすがですお姉様! これぞわたしたちの愛の力でございますね!」
「やめんか! 領国を越えて性癖を晒すんじゃない! ……ラピス様、城まで白竜達の誘導をお願いしてもよろしいですか」
『いいよー、三兄弟を連れて行けば、勝手についてくると思うけど』
答えたラピスが、白竜達に人間では理解できない言葉かける。白竜たちも、ラピスが自分たちよりも上位種なのは判っているらしく、神妙に話を聞いているようだ。
その様子を眺めていたエイミーは、ふと思いついた様子で、自分を乗せたまま高度を保っているトロイの白竜の頭側に近づいた。神竜の耳がどの辺りにあるのかいまいちよく判らないが、とりあえず首にそっと手を回す。
「背中の上で騒いじゃってごめんね、あなたのご主人だったのよね?」
『……ご主人というか、神竜にとって人間は保護対象だけどね』
「それじゃなおさらショックだったりしない? だいじょうぶ?」
気遣うように頬を寄せられたのが予想外だったのか、白竜が心なしか戸惑った様子で首を後ろに向けようとしている。
「ああ、お美しくお強い上に心優しいなどと……さすがこのレクセルが見込んだお姉様でございます。」
「いーから黙って乗っていろ」
レクセルを叱りつけ、アルスは白竜の首に寄り添っているエイミーを見て、穏やかに目を細めた。視線に気付いたエイミーは、少しの間目をしばたたかせ、少し照れた様子で微笑み返した。




