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女騎士エイミーの葛藤<後>

 ラピスは幼い顔に、大人びた笑みを乗せ、

「僕は今、中立だからさ、特にアルス達のカタを持つわけではないんだけど、君って困ってる人見るとほっとけないクチなんじゃない? だから、そのファントム・キャッスル? そこの人たちに頼まれて、自分で出来ることならって、引き受けたんでしょ?」

「……」

「で、実際ファントム・キャッスルは助かった。勇者エイミーは人々を救った。キミはそのこと自体は、後悔してるの?」

「それは……」

 用意された衣装を見たときは、ほんとうにこんな格好で、みんな喜ぶんだろうかと半信半疑だった。

 シナリオ自体は、正義のヒーローが女騎士に変わっただけの、あまり特徴のあるものではなかった。大人が多く来るお店なのに、お約束ばかり並べたヒーローショーのようなストーリーで大丈夫なのか、心配したものだ。

 それだけに、初めてステージに立ったときの、お客さんの驚いた顔とノリの良さは意外なほどだった。

 客席中が笑顔になったときのあの嬉しさは格別で、それ自体は、いまでも嫌な思い出ではないのだ。

 おかげで、店の売り上げは上向きになった。店をずっと大事にしてきた店長が、なりふり構わずなんとしてでも店を護ろうとしていた気持ちは、英美も判らないでもない。

「『あの時助けなければよかった』、って思っていないのなら、助けたこと自体は失敗じゃなかったんじゃない? 『あの時助けてあげればよかった』って後悔し続けるよりは、ずっとましなもんでしょ」

「それはそうだけど……」

「人間は短命な分、忘れっぽくて身勝手だから、長く付き合えば甘えも出てくるさ。それが自分の許容範囲を超えたら、距離の取り方を考えるのは当然だ。でも、何かする前から、起きてもいない『もしも』に怯えて、出来ることを何もしないのは、いい悪い以前に、キミの性格にはあわないんじゃないかな?」

 正直、いくらプロポーションに自信があるといっても、水着とさほど変わらない衣装で毎回人前に出るのは恥ずかしい。でも、ステージが始まってしまえば、エイミーは無敵だ。あれこれ悩まず、自分の正しいと思ったことを迷いなくできるエイミー。

 強くて、かっこいい、理想的な存在だと言っていい。服装を除けば、だが。

「……あたし、アルスさんを助けたい」

 ラピスの手を掴んだまま、英美は呟いた。

「この国がどうこうとか、難しいことはよくわかんないけど、自分は悪くないのにああやって一生懸命なアルスさんは助けてあげたい。頑張ってる人が報われないで終わるお話は、嫌だもの」

 後ろでに並んでいた侍女達の表情が明るくなったのが、気配でわかる。

 口にしたことで、段々と迷いがとれていくのが伝わったのだろう。ラピスは真面目な顔の英美に、大きく頷いた。

「折角だから、ボクが女の子としか契約しない理由を教えよう」

「……趣味?」

「レクセルと同じレベルで考えないでよね! それも否定はしないけどさ」

「いや、否定しようよ……」

「男の子は力を持つと、どうしたってそれを外向きに使おうとするからだよ。あの三兄弟みたいにね」

 ラピスは蒼竜に追いすがる白竜の航跡を指で示し、肩をすくめた。

「土地を守護する僕達の力は、契約者あってこそ十二分に発揮される。どうせなら、住み心地のいい場所を作ってくれる人に、お願いしたいじゃない? 美味しい果物がたくさん実って、住んでる人間も生き物もそこそこ幸せにするために力を使ってくれること、それがボクが望む代償なのさ」

「それって、人間の望む願いと、同じ……?」

「そういうこと。この世界の、少なくともこの国の人間と僕ら神竜種は、利害がほぼ一致してるからこそ、こうして近くで暮らせるんだ。もしそれが出来なくなったら、僕はすぐにでも人間を見捨てるよ。力を貸す僕が一方的に我慢するのはおかしいでしょ。一緒にいる意味がない」

「一緒にいる、意味……」

「さて、じゃあちょちょいと済ませてひっくり返しに行こうか」

「ちょちょいって、……契約?」

「そそ」

 そういえば、何も考えてなかったけど、神様との契約なんてどうやるんだろう。やっぱり召喚された上での契約だと、セオリー通りキスなんだろうか。

「いやー、接吻で契約も間違いじゃないんだよ? 魂と呼吸には密接な関係があるって言うじゃない?」

「や、やっぱり?」

「あ、でもボクはそれ、要らないんだけどね。キミに僕と世界との仲介役になってもらうには、もっと簡単で、見た目にもものすごく効果的なやり方があるのさ。あ、君たち少し離れてねー」

 ラピスの声に、慌てた様子で侍女達が距離をとる。

「彼女たちは、フレアとの契約の場面を見てるからね。それじゃエイミー、ちょっとかがんで」

「う、うん」

 言われたとおりラピスの目線にあわせて膝をつくと、

「ここにもういっこ、鱗があるんだよ」

 ラピスは、自分の顎と喉の付け根の境辺りを指差した。

 今前は見下ろすだけだったから気付かなかったが、確かにそこには碧く美しい鱗が一枚ついている。ただ、額についているのとは向きが逆で、ひとまわり小さく、なんだか薄くて柔らかく見える。

 竜の喉元にある、逆さについた鱗。

「フレアの時にはがしたのが生え替わってきたやつだから、まだちょと小さいんだけどね。君にはこれをあげるよ」

「『あげる』って……?」

 英美の問いに答える代わりに、ラピスはちょっと力を入れてその鱗をはがすと、それを英美の額に押し当てた――

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