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女騎士さん、町へ行こうよ<後>

 いい人なのだろうな、とは思う。

 さっき自分が泣き出したとき、おろおろとしていたアルスの姿を思い出して、英美は思わず笑みを浮かべた。

 あの女の子はちょっと変わってるし、男の子は妙に大人びてるけど、基本的に自分を客として扱ってくれているようだ。大事な頼み事をしたいから気を遣っている、というのもあるのだろうけど。

「……折角だし、見に行ってみようかな」

 言いながら起き上がろうとした英美は、『女騎士』の特徴ともいえる、肩当てと胸甲が外されているのに気付いた。

 もちろんあれは本物の金属ではない、ただの衣装だ。だが、あれを身につけていないと、自分は本当に、水着を着ているだけのような姿なのだ。

 かといって、舞台でもないのに女騎士の格好で人前に出るなど、良識が許さない。さっきの話しぶりだと、この世界でもこうした露出の高い装備は「過激」だというではないか。

 椅子に座り直しはしたものの、英美はマントをかぶったまま、黙り込んでしまった。

 またなにか気に障ることでもしてしまったのか、アルスは少し不安そうに英美を眺めていたが、不意にひらめいた様子で、ラピスと一緒にこちらを伺っていたレクセルに目を向けた。

「そうだ、あれならエイミー殿に似合うのではないか。レクセル、あのドレスは用意できるか?」

「あの……? ああ、この前のですね! ええ、すぐにご用意できますとも」

「ああ、あれね」

 ラピスも納得した様子で頷いている。

「では、早速お支度を。殿方は少しあちらでお待ち下さいな。ささ、お姉様」

「えっ?」

 てきぱきとアルスをラピスの隣によけ、どこからともなく取り出したついたてで殿方二人との間を遮って、レクセルは英美の前でにっこり微笑んだ。いつの間にか、パステルブルーを基調にした丈の長いドレスを胸の前で広げている。

「肩幅と胴回りがぶかぶかかも知れませんが、そこはこのレクセル、愛を込めて調整いたしますので」

「え? 今、どこからこんなものを?」

「細かいことは気にせずともよいのです。まぁ! 胴回りは余裕があっても腰回りがギリギリでセクシーですね! ここはリボンで調整する形にしておいてようございました。あ、このお胸の辺りもちょっときつうございますね、少しこの辺りを整えましょう。理想的な形なのにふんわり柔らかくて、素敵にございます」

「きゃっ、そこは触らなくても大丈夫なんじゃないの?!」

「レクセル! エイミー殿にいかがわしいことをしているのではあるまいな?!」

「とんでもございません、全体の形を整えるために必要なのでございます。肩などアルス様の寸法に合わせるとどうしても幅が……」

「え? 誰の寸法って?」

「レクセル、要らぬ事を言わずに手早く終わらせるのだ!」

「判っておりますとも! それにしてもほんとにお美しいお肌……」

「……」

「……アルス、口が開いてる」

「ら、ラピス様まで何をおっしゃるのです!」

「これだけ肩があいても全然下品に見えないなんて! 素晴らしいです!」

 ついたての向こうで、レクセルが一人歓喜の声を上げている。向こう側は見えないながらも、ついたてを凝視していたアルスは、ラピスの視線に気付いて慌てて居住まいを正した。

「はぁ……至高の時間でございました」

 なぜか満足した様子でついたての陰から出てきたレクセルが、アルス達を見て得意げに、

「それでは、お待たせいたしました!」

「……!」

 取り払われたついたての後ろから現れた英美の姿に、アルスは最初の鎧姿を見たときとは違う種類の驚きの表情を見せた。

 アルスと背の高さが近い英美には、アルスの寸法で作られたドレスの丈がほとんどぴったりだった。ウェストはリボンで結ばねばならないが、逆に腰回りと胸元は少しきついくらいで、それが英美のプロポーションをぐっとひきたてている。

 肩の寸法が合わないので胸元が大きく広がっているが、レクセルが上手く背中側で調整したのか、まったく下品さはない。露出の多い鎧姿の時よりも、布地の多いドレス姿の方が、女性的な色気が漂っているくらいだ。

どうやら鎧姿の時よりは、姿を見つめるのに抵抗がないらしい。恥ずかしそうに顔を逸らしている英美とは対照的に、アルスは上から下までまじまじとその姿を眺めている。

「これは……貴婦人のような気品であるな。いや、考えてみれば一般市民のご婦人が、あれほどの武術を身につけるのは難しい。ひょっとして、エイミー殿は貴族の生まれなのであるか?」

「な、なに言ってるの!?」

「そうですよアルス様、こういうときは難しい言葉は抜きにして、素直にお美しさを讃えればよいのでございます!」

「なるほど、そうであるな。エイミー殿、とても美しいいでたちであるよ」

 照れるかと思えば、立ち上がったアルスは真面目な顔で頷いている。基本的に育ちがいいので、社交辞令を恥ずかしいものだとは思っていないのだ。

「支度もできたなら、そろそろ行こうか。折角だし僕もつきあうよ」

「そうでございますね!」

 表情を輝かせ、レクセルも頷く。

「ヴェルーリヤはとてもよいところでございますよ! お姉様も気に入られると思います」

「え? あ、はぁ……」

 このままだと自分は戻れないらしいし、この人達も困るようなのに、そんな悠長なことでいいんだろうか。

でも、このままここにいて話だけ聞いていても、なんの実感もない。本当に異世界だというのなら、どんな風景なのかも興味はあった。英美は曖昧に頷いた。

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