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Who am I ? 〜目を覚ませ〜

作者: 川里隼生

目覚まし時計が鳴った。

階段を降りると母が目玉焼きを焼く音が聞こえる。

「おはよう、お母さん」

「あら、おはよう」

妹はもう制服を着ていた。今日は妹の入学式。とうとう高校生か。

妹の高校は家からバスで30分。俺と同じ高校に進学した。合格発表で、妹が赤い目を潤ませていたのを覚えている。

目玉焼きを食べて、俺も制服に袖を通す。3年生になった俺の身長は162cm。そうだ、ボタンが1つ上下逆になっていたんだった。桜の5枚の花びらを象った校章も逆になってしまっている。もう直している暇はないな。

妹と家を出る。もう目の充血は治っているようだ。

バスには同級生の木村が乗っていた。どうせまた夜更かししていたのだろう、左目をしきりに擦っている。

「へえ、お前妹いたんだ」

そうだよ。前にも言っただろ。

バスを降りると、校門まで続く坂道が目に飛び込んでくる。なぜこんな高台に学校を建てたのだろう。高台の割には景色が良い訳でもないし。

入学式は体育館で行われる。もう毛の少ない校長先生が、1年生に激励の言葉を述べる。

「皆さんはもう高校生です。人との出会いを大切にしてください。1+1は3ですよ」

1+1は3? どういうことかわからない。1年生の間にもどよめきが広がる。

「おっと、皆さんにはまだ早かったかな。そう思いませんか? 森本先生」

森本先生、と呼ばれた先には1人の教師がいた。保健の森本先生だ。美人で優しく、生徒から絶大な人気を集めているが、間もなく産休を取るらしい。森本先生は照れ笑いを浮かべていた。

よく理解できない言葉で、入学式は終わった。いや、何となくわかった気もする。

今日は昼には下校できる。部活に入っている奴はこの限りではないが。

妹はバスケ部を見学するそうなので、俺だけ先に帰った。帰ってどうする訳でもない。

適当に部屋でスマートフォンをいじる。選挙は民主党が優勢みたいだな。

ずいぶん時間が経った。スマートフォンの画面を見ていると、周りの明るさがわかりにくい。午後5時くらいだろうか。そのくらいの暗さだ。

電気をつけようと立ち上がる。本棚の本が視界に入った。本棚から飛び出しそうなくらいせり出している。

電気をつけて本をとった。特に変わりない図鑑だ。本棚に戻そうとしたが、何故か奥まで入らない。どう考えてももっと奥までいくはずだ。

何か入っているのか? 本棚を覗きこんだ。何かある。

引っ張り出すと、それはくしゃくしゃになった本だった。恐らく図鑑を無理に押しこんだためにこうなったのだろう。

せっかくなので読んでみようとしたが、見たことのない文字で書かれていた。

しばらくして、妹が帰ってきた。妹にも本を見せた。

「私これ知ってる。日本語だよ。『一月一日、日記を始めてみる。去年はアメリカやら中国やらが衝突して大変だった。カナダでは……』」


私は言葉を切った。私は日本語を勉強している訳じゃない。まず『日本』が何を意味するのかもわからない。

でも、何だか急に怖くなった。日記はこう続いていた。

『カナダでは人々が一斉に記憶を無くすという事件があった。もしかしたらアメリカが人の記憶を操作する兵器を使ったのかもしれない』

私にはわかった。この言葉の意味が。

1+1は3という言葉。愛を表す数式。

「どうしたんだ? 続けてよ」

お兄ちゃんが催促する。正確には、お兄ちゃんはこう言った。

「What did you do? Continue reading」

あれ? 私にはわかる。日本が。それが星条旗を国旗にしていないことも、私たちみたいに英語で話していないことも。何故だかわかる。知っている。

覚えていないの? お兄ちゃん。私に兄はいたっけ。いたよ、絶対にいた。だって目の前にいるのは確かにお兄ちゃんなんだから。

いや、私の記憶はあてにならない。何が正しい記憶かもわからない。わからない。じゃあ目の前のあなたは誰?

私は誰?

さて、皆さんの記憶はどこまで本当なのでしょうね……。

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