女性恐怖症になった理由
僕が小学五年生だった頃、クラスに転校生がやって来た。
女の子だった。
名前は忘れたが、彼女の顔は未だに忘れない。
第一印象はとても可愛かった。だが恋愛感情などその時の僕には全くなかったのだ。
でも僕はあることをきっかけに彼女の事を好きになってしまったのだ。
あれは確か僕が小学六年生の時のとある梅雨の時期だった。
放課後、一人で教室掃除をしていた。
綺麗になったしそろそろ帰ろうかなっと教室を後にし、外に出たその瞬間、外は土砂降りの雨だった。
突然の雨で立ち止まった。
なぜなら傘を持っていなかったからだ。
天気予報を見なかった自分が悪い。
今更後悔しても遅い。
仕方なくそのまま帰ることにしようとしたその時。
「あ、鶴田君だ!」
後ろから僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとそこには、一年前に転校してきた彼女がいた。
「どうしたの?そんなところで立ち止まって?」
「えぇっと・・・じ、実は・・・・・傘持っていなくて・・・・・」
「え、そうなんだぁ・・・じゃあ一緒に入ろ!」
「う、うん・・・ってえっ?」
彼女の一言に僕は驚く。
「い、いいの?」
「だって傘持っていないんでしょ?そのまま帰ると風邪引くでしょ?だから入ってもいいよ。ほら」
彼女は僕に傘を差し出す。
「あ、ありがとう。じゃあ・・・」
少し照れながら傘の中に入る。
「うふふ、照れてる姿可愛い。じゃあ、帰ろ」
「う、うん」
僕と彼女は学校を後にした。
その日以来、彼女は僕だけにいつも優しく接してくれた。
例えば、算数の教科書を忘れた時に、彼女が自分の机と僕の机を引っ付けて教科書を見せてくれたり、ノートを忘れてしまった時に、彼女が自分のノートをビリビリと一枚破って渡してくれたり、授業中に気分が悪くなった時に、彼女が「先生!鶴田君が気分悪そうなので保健室に連れて行きます!」と手を上げながら先生に言い、彼女と一緒に保健室に行ったりなど、とにかく優しく接してくれた。
僕はその彼女の優しさに見蕩れてしまい、いつの間にか彼女の事を好きになった。
夏休みが終わって二学期に入った。
彼女が転校して一年五ヶ月が経過。僕は彼女に告白しようと試みたが、臆病な僕には告白する勇気がなかった。
でも僕は思った。
もしフラれて、その後気まずくなるのは辛いと思う。でもその思いを相手に伝えず後悔するのが何倍も辛いのではないかと。
先の事を考えるより、今が大事じゃないかと。
じゃあいつ告白するか?・・・・・今でしょ!!
僕はその日に告白することを決した。
僕は「今日の放課後、体育館裏に来てください。」という内容の手紙を彼女の机の引き出しにコソッと入れた。
そして放課後、すぐに教室を出て体育館裏へと着き、その五分後に彼女が来た。
「へぇ、あの手紙って鶴田君が書いたんだぁ。・・・で、何で私をここへ呼んだの?」
首を傾げながら言う彼女。
緊張が走る・・・
でも、僕は彼女に思いを伝えるんだ。
フラれてもいいんだ。
勇気を振り絞って彼女に告白した。
「あのっ!僕はあなたの事が好きです!!ずっと好きでした!!宜しければ付き合ってください!!!」
彼女の返事は・・・・。
「アハハハ!何ヘタレが調子乗ってんの?マジでありえない、気持ち悪いんですけど、アハハハ!!」
「え・・・」
「ごめんなさい」の一言も言わずに彼女は甲高い声で笑った。
「アハハハハ!!まさか引っ掛かるとは思わなかったわ、アッハハハハ!!」
「えっ・・・それってどういう事・・・?」
「え?何?まだ分かってないの??実はねぇ・・・」
僕は驚愕の事実を知ることになる。
「ぜーんぶ演技だったんだよ!」
「・・・え?」
「まぁ、『ドッキリ』っていうやつかな?私の趣味はね、『人間観察』なんだよ。最初に鶴田くんに会ってからの態度は全部、この状況を作り出す為の演技だったんだよ。ホントに引っ掛かるなんて、私思わず笑ってしまったよ、アハハハ!」
「な・・・なんでこんな悪戯を実行したんだよ・・・」
「え?何でかって?だってキミ弄り易いから」
絶望のどん底に陥った。
告白する前の彼女はとにかく優しくて笑顔も最高だった。でも今の彼女は、全く違う。まるで漫画の悪役のようであった。怖かった。
「それが・・・理由だ・・・なんて・・・・・ふ、ふざけるなぁ!!」
「はぁ?何言ってんのぉ?騙されたアンタが悪いんでしょ!!バッカじゃないの!?」
彼女は逆ギレをする。今までとはまるで別人のようだ。
「大体アンタ見たいなヘタレに彼女なんて出来るわけないでしょ?考えなさいよ!何?アンタもしかして「僕、モテ期来たぁ!!」とか思ってたんじゃないの?」
彼女は僕に罵倒する。
「・・・・・」
僕は泣きべそをかいた。
「あら?どうしたの?私が正論言ったからぐぅの音も出ないっていうやつかな?まぁいいわ、取り敢えず私はもう帰るわ。私だってアンタみたいに暇じゃないんだから」
そう言って彼女はくるりと踵を返し、その場から立ち去った。
「ど・・・どうして・・・・・こんな目に・・・」
僕は俯きながら独り言をボソッと呟く。
「あ、そうそう」
すると彼女はまた僕の方に寄ってきて満面の笑みでこう言い放った。
「私、別にアンタのことなんて、なーんとも思ってないから!!」
彼女は再びくるりと踵を返し、その場から立ち去った。
「もう・・・なんだよこれ・・・」
あまりのショックに僕はただ立ち止まった。
翌日、僕は学校へと登校した。
本当は学校をお休みにしたかったが、親が「熱もないのに学校休むのはダメ!」という理由で学校へ行くことにした。
学校へ着き、教室に入り、椅子に座ろうとしたその時、そこにはたくさんの画鋲が置いてあった。
「うわぁっ?!」
それだけじゃない、なんと机には、「死ね」や「キモい」や「近寄るな」など罵倒する文字がたくさん書いてあった。
「ウフフフ」
前の方から微かな笑い声が聞こえた。
そこには彼女がいたのだ。そしてその後ろには、女子二人がニヤニヤと笑っている姿が見えた。
僕は確信した。あのドッキリを計画したのは彼女だけではなく、後ろの二人もドッキリに協力をしていたことや、陰で僕のことを笑い者にしていたということが。
「も、もしかして・・・これやったの、キミ達・・・・・なの・・・?」
「はぁ?私達そんなことしてないんだけど!」
「何なのよいきなり!」
「いや、嘘はつかないでよ・・・」
「嘘じゃないし!勝手に私達がやったって判断しないでよね!!」
「そうよそうよ!」
「だから・・・嘘つかないでよ・・・」
「じゃあ私達がやったっていう証拠はあるの?早く出しなさいよ!!」
彼女達は怒りを露わにして言う。
この瞬間、僕は女性不信へとなってしまった。
もう、何もかも信じない・・・女性の言ってる事は何も信じない・・・。
「何も根拠も無いくせに、何が「嘘つくな!」よ!ふざけないでよ!!ヘタレのくせに調子乗んな!死ね!!」
彼女の一言に顔面蒼白へとなった。
それから彼女は二度と話し掛けることが無くなった。
あの事件以来、僕は、女性恐怖症へとなってしまった。