Act3.お嬢様とおともだち
家の庭で迷うなんて、そんな間抜けなことってふつうないと思う。
けれど、こどもってふつうじゃないことをやってのける生き物で、私もそうだった。
怖くて、寂しくて、家が恋しくて泣いた。
わんわん泣いていると、小さな白髪の女の子がぱたぱたと駆け寄ってきた。
「おじょうさま」
つたない舌っ足らずな呼びかけが、とても心強く思えた。
「お嬢様、いつまで寝ているつもりですか。今日はユナ様と交友を深められるご予定だったと私は記憶しているのですが」
「……はっ!」
私は慌てて飛び起きる。そうだ。今日は友達のユナちゃんが遊びにきてくれる日だった。寝ぼけている場合じゃない。
あいかわらず容赦のないレオンの起こし方だが、今回ばかりは感謝だ。
なにか懐かしい夢をみていたような気がするけど、そんなのはすぐに吹き飛んで、私はあわてて身支度を整えてユナちゃんを迎える準備をはじめた。
「こんにちは。お久しぶりですわね、お元気そうでなによりですわ」
久しぶりに見たユナちゃんは、とてもきれいだった。
昔からおとなびていてきれいだったけど、ますます磨きがかかっているように思う。
ゆるく巻かれた栗色の髪に、すこしたれ目がちな大きな藍色の瞳。ぽってりとした赤い唇がちょっとおとなって感じで色っぽい。胸元がぐっと開いたデザインの空色のドレスを着ているけれど、卑猥な感じはしなくて上品に着こなしていた。
互いの再会を喜びながら、互いの近況を報告しあう。聞くと、ユナちゃんは王立学院の寮に荷物を預けて、すぐに来てくれたらしい。なんでも入寮するのは学院に通うための必須条件であるらしくて、そこで私は合点がいった。
「そっか、残念。せっかくだから、私の家から学院に通ったらいいのになあって思ってたの。入寮が強制的ならしかたないわね」
心のそこから残念だった。はぁ~っとため息をつく私の前に、完璧な所作でティーセットが並べられていく。
さらさらの白髪を後ろ縛りにして、背中に流しただけの素っ気ない髪型。小柄な体を覆うのは質素な女性用の使用人服にも関わらず、どこか気品すら感じさせる佇まい。長い睫に縁取られた紅玉は鮮烈な印象を与えるはずだが、それを隠すように伏し目がちにレオンは給仕を続けている。
うーん。レオンとユナちゃん、美人が並んでいると絵になるなぁ。
「ふふ。本当にかわいらしいことを言ってくださいますのね。あなたのそのお気持ちだけで十分ですわ」
赤い唇に笑みを乗せて、ユナちゃんは熱い紅茶が注がれたティーカップをレオンに向けた。彼はすばやくトレーを差し出しティーカップを受けた。
「レオナちゃん、わたくし熱いものは苦手ですの。アイスティーにしてくださる?」
「はい、かしこまりました」
平然とレオンはそう言って退室した。
ユナちゃんは、昔からレオンのことをレオナと呼ぶ。彼女は私の幼馴染のようなもので、当然レオンが男だって知ってるはずなのだが。
「ふぅ……本当に使えない男ですわね。何度言ったら覚えるのかしら、あのトリ頭」
そしてそして、心優しいはずのユナちゃんは、なぜかレオンのことになると辛らつになる。
それでもって、レオンがユナちゃんに熱い紅茶を出し続けるのはきっとわざとなんだろう。やつが客人の好みを把握していないはずはない。何度か注意してやったがそれでもなおらないのが証拠だ。
「ま、レオンのことはいいじゃない。それよりもっと別の楽しい話をしましょうよ」
「そうですわねぇ……楽しいこと……」
ふと、ユナちゃんは考え込むそぶりをみせた。
めずらしいな。彼女が言葉を詰まらせるなんて、めったにないことだ。どこか調子でも悪いんだろうか。
「本日の午後から、新国王の就任パレードがあるそうですよ。よかったらお二人で見に行かれたらどうですか」
いつの間にか私室に戻ってきたレオンが、冷たい紅茶をテーブルに並べながら言った。
「先代の国王が崩御されてからちょうど一ヶ月、喪が明けると同時に新国王就任が決まったようです。先代にはご子息が2名いらっしゃったのですが、どうやら順当にご長男が王位を継がれるそうですよ」
新国王が決まったっていっても、直接言葉を交わすことがあるわけでもないし、なんだか雲の上の話みたいに思える。
けど、パレードには心惹かれる。きっと盛大で豪華で、今まで見たことがないようなすばらしいものなんだろうな。
「ユナちゃん、どうしようか」
「ふふ。行きたいって顔に書いてありますわよ。いいですわ。せっかくですし、一緒に町にお出かけしましょうか」
「やったぁ!」
思わず私は飛び上がって喜んだ。
町にユナちゃんとお出かけできるなんて、すごく嬉しい。
私はさっそく街着に着替えて、出かけることにした。
ユナちゃんとふたりで出かけるつもりだったのだけれど、レオンとセッカも同行することになった。
「こういう催し物があるときは、色々な人間が出入りしているので治安が悪くなりがちです。大切なお嬢様方おふたりで出かけるのは心配ですので、私とレオンで警護させていただきますね」
ってセッカは言ってたけど、単純にパレードを見たかっただけだと思う。現に、お祭りムードに包まれた町を一番楽しんでいるのはセッカだった。大きな黒い目をきらきらさせて、あっちこっちへ私達を案内してくれる。
私やユナちゃんは、ふだん、王都の中でも限られた場所にしか出入りをしない。必然、庶民達が生活する大部分の王都に対して不案内なので、セッカの同行は正解といえた。
「わー。すごい、道端で服なんて売ってるのね」
大きな噴水を中心にして、ぐるっと円を描いたまるい広場には、ひとがごったがえしていた。
「はい。ここは王都の中央にある公園なのですが、今日はフリーマーケットの場所として解放されているみたいです。服とか骨董品とかいろいろありますよ」
セッカの説明を聞きながら、手近な露天に近寄ってみる。
「はぐれないように気をつけてくださいね、お嬢様、ユナ様」
「こどもじゃないんだから、へいきよ!」
「ありがとうございます。その根拠のない自信をみるに、ますます目を離してはいけないなと思いました」
なんでそうなるのよ、レオンめ!
レオンをひと睨みしてやってから、露天の商品に目を戻す。
うーん。いまいち。ちょっと派手な感じの薄手の服がたくさん並んでいた。色もごてごてしすぎだし、あんまり趣味じゃないなぁ。
てきとうに一枚手に取ってみると、手触りもよろしくない。
ここのお店はパスかな。そう思って離れようとしたところで、ふと、深い赤色のドレスが目に入った。
派手だけど、嫌味じゃない上品な色だ。デザインはちょっと古めかしいけど、露出が少なめでほっとする。手触りも悪くない。
まじまじとそのドレスを眺めていると、露天の主に声をかけられた。ひとのよさそうなおばあさんだ。
「お嬢ちゃん、気に入ったかい?なんなら安くしておくよ」
「ううん。ちょっと気になっただけで」
「そうかい。よかったら試着していきな。着るだけならタダだよ」
断ろうか迷っていると、後ろからユナちゃんが言った。
「あら、すてきな色ですわね。きっと似合いますわよ」
むむ。ユナちゃんにそういわれると、心が揺らぐ。
でもたしかに、着るだけならタダだっておばあさんも言ってくれてるのだし、お言葉に甘えてみようかな。
「レオン、こっちきて!」
「は?」
セッカと並んで、ちょっと離れたところで私達を傍観していたレオンを呼びつける。
そして赤色のドレスをレオンに手渡して、言った。
「そのドレス、着てみて。似合うと思うのよね」
「……そっちでしたの」
ユナちゃんが拍子抜けしたようにこぼした一言が、妙に響いた。
そのあともいろいろな露天を見て回って、気に入った服があれば全部レオンに着せてみた。赤色も青色も、黄色も緑色も、紫色だってレオンはそつなく着こなしてみせた。
さすが私の着せ替え人形!服によって天使のように愛らしかったり、精霊のように儚かったり、おとなの女性のように妖艶だったり、いろんな姿が楽しめた。ほーんと、見た目だけはいいから着せ替え甲斐がある。
久しぶりにレオンの服をとっかえひっかえできて満足だ。ちなみに、服は一枚も買ってない。
「お嬢様ってお嬢様のわりに面の皮が厚くて感心します」
って疲れきった様子のレオンに言われたけれど、気にしない!
ひととおり、中央公園のフリーマーケットを見て回ったところで、国王様の就任パレードの先払いがあった。
音楽隊の華々しい行進曲にあわせて、騎士団の青年達が一糸乱れぬ歩調で行進してくる。先頭に立つ青年が掲げる旗には王家の紋章が描かれていた。三角形の真ん中に長剣があり、その周囲を百合の花が円を結んでいる。
群集が作る花道の中を、飾り立てられた4頭の馬が引く馬車に乗って、新国王が笑顔で手を振っていた。
「まだお后様が決まっていないらしいですわよ。もったいないですわよねぇ」
なんて、ユナちゃんが思わずつぶやいてしまうくらいハンサムだった。
金髪に青い目の王様って本当にいるんだ。物語の中だけの存在だと思っていたけど、こんな王様が実在するなら、私の大好きなロマンス小説の騎士さまそっくりのひともいるかもしれない。
なんて淡い期待をこめながら騎士団の行進を眺めていると、思い出したようにセッカが言った。
「今代の白魔女様も本当はパレードに参加される予定だったらしいですが、お体が弱いとかで今回は辞退されたそうですよ」
「そうなんだ。残念、白魔女様も見てみたかったな」
白魔女様と国王は表裏一体の存在だって言われている。昔の王様の中には、白魔女様の助けがあってはじめて国を動かすことができるって言ったひともいるらしい。
だから、たいてい公の儀式などには白魔女様と国王が同席しているものなのだけど、体調がすぐれないなら仕方ないか。でもちょっとがっかり。
「……ふぅ」
新国王のパレードを見送って、熱狂も去り、群集もバラけはじめたときだった。
「ユナちゃん、なやみごと?」
ユナちゃんがため息ってめずらしい。
思いかえしてみれば、今日ははしゃいでいたのは私だけで、ユナちゃんは少し元気がないようだった。
ユナちゃんは私の問いかけに対して、少し考えるようなそぶりをみせた。そして、どこかつらそうにつぶやいた。
「じつは、大切なものを、なくしてしまって……」
柔らかなグレイの瞳を曇らせて、ユナちゃんはため息をついた。
「スタールビーの指輪。お母様の形見でしたの。学院の試験を受けるときに、お守り代わりに持っていったのですけれど、どこかで落としてしまったみたいで」
スタールビー!
紅玉石の中でも稀少な宝石だ。紅い石の中に十字の光が閉じ込められているそれはそれは美しい宝石だったらしい。
ユナちゃん自身はもう諦めていると肩を落としていった。
気付いてすぐに学院内を探したけれど、思い当たるところにはなにもなかったらしい。
ぜったいに、見つけてあげたい。
いつも朗らかなユナちゃんが沈んでいるんだ。元気付けたいと思うのは友達として当然の気持ちだろう。
「それでしたら、レオンを使われてはいかがでしょうか。うせもの探しなら、レオン、得意でしょう?」
「……セッカ。私を便利屋のようにいわないでください」
レオンは不本意そうだが、そういえば、この間コトラを探していたときもそんなことをセッカが言っていたことを思い出す。
「ほんとう?」
「ええ。昔から私達使用人の間では有名で、重宝していました。最近でこそあまり使っていないようですが、腕はきっと衰えていないでしょう」
立ち話もあれなので、4人でてきとうな喫茶店に入ることにした。
道すがら、セッカがレオンのうせもの探しの的中ぶりを熱弁していたけど、なんとなくうさんくさい気がするのは私だけじゃないと思う。
レオン本人も乗り気じゃなさそうだし、ユナちゃんもセッカの話に対して懐疑的だった。
けど、考えるまでなく、なにもしないよりは、はるかにいいはずだ。
小さな喫茶店の隅の席に陣取って、ユナちゃんから指輪をなくした状況を詳しく聞くことにした。
「なくした場所は当然、分かっていますわ。試験会場ですの。今度入学する学院で試験があったのですけれど、お昼休みにランチをとっていたときにはちゃんと持っていましたの。そして、試験が終わって、ひとごみを抜けて会場から帰ろうとしたところでなくしたことに気付きましたわ」
「失くしたのは学院内で、昼休みには確実に所持していたと」
「本当ですわよ。わたくし、記憶力には自信がありますの。それで、レオナちゃん?あなたはどうやって探してくださるのかしら」
ユナちゃんはレオンを挑発するように横目で睨んだ。
しかし、レオンは相好を崩すことなく、完璧な笑顔の仮面を貼り付けて答えた。なんだか怖いというか不気味というか、ひじょーに険悪な雰囲気で居づらいのは気のせいではないだろう。セッカだけがのん気にお茶をすすっている。
「では、その自信がお有りの記憶力とやらを発揮していただきましょう。こちらの紙に学院の見取り図を書いていただけますか?ユナ様の覚えている範囲でかまいませんよ。私は少し用意がありますので、席を外させていただきますね」
相変わらず嫌味ないい方だ。
レオンは優雅に一礼すると、喫茶店の扉をくぐって外へ出て行った。なにをする気なんだろう。
一方、ユナちゃんは鬼のような形相で紙に向かい合うと、がりがりと羽ペンを走らせている。
うーん、レオンに頼んだのは失敗だったかもしれない。ユナちゃんとレオンの相性はあまりよろしくないことをすっかり失念していた。
これで指輪が見つかったらいいのだけど、見つからなかったことを思うとちょっと気が重くなってきた。
「お嬢様、せっかくですから冷たいデザートでもいかがですか?このチョコレートアイスとかおいしそうですよ」
デザートを食べるような気分でもなかったので、セッカの誘いはお断りした。
真剣に見取り図を描くユナちゃんに話しかけて邪魔をしても悪いし、デザートに夢中のセッカがまとも会話してくれるとは思えない。
暇をもてあました私は、気分転換をかねて少し外の風にあたることにした。
喫茶店の外に出ると、ひんやりとした風が吹いている。喫茶店の表の通りは人どおりが少なく、閑散としていた。たぶん、大部分の人々が新国王の就任式を見ようと王城前の広場に集まっているからだろう。私はパレードをみれただけで満足したけど。
喫茶店から離れすぎないように気をつけながら、てきとうに表どおりをぶらついてみる。小さな食器屋さんや金具店、文房具屋などが並んでいる。
窓越しに並ぶ商品を眺めて楽しんでいると、とつぜん大きな影が私の頭上を横切った。
「きゃっ」
思わずしゃがんで頭を庇う。恐る恐る顔をあげると、大きなトンビがはるか大空を旋回していた。
さっきの影はあのトンビだったんだろう。わき道からとつぜん飛び出してきたようにみえたから、すごくびっくりした。
「お嬢様、ひとりでなにをしているんですか」
頭上を旋回するトンビを眺めていると、聞きなじみのある声に引き止められた。
レオンは不機嫌そうな顔つきで私をみると、これみよがしにため息をついてみせる。
「ちょっと目を離すとすぐにふらふらっといなくなろうとするんですから。昔から私が何度苦労したと思ってるんですか」
そう言って、レオンは私の手首をむんずとつかんだ。
「苦労かけた覚え、ないんだけど」
「そうでしょうとも。お嬢様は自覚がない。性質が悪いとはまさにこのことです」
なにかひどい誤解をされている気がする。私ってあんまり手のかからないよい子だったはず!たぶん!
しかしそんな抗議をしても、レオンにはあっさりと流されてしまう。
ふたりで言い合いをしながら喫茶店に帰ってみると、ユナちゃんとセッカが向かい合って座ってデザートにアイスを食べていた。
ふたりの前に立つと、どこか居丈高にレオンは言った。
「見取り図はかけましたか?」
「ええ、完璧ですわよ」
ユナちゃんの書いた学院の見取り図は、素人目に見ても上手だった。学院にはいったことがない私がみてもわかりやすいと思える。
レオンは見取り図を一瞥して、すっとその紙の上に手を掲げた。彼の中指には銀の指輪がはめられており、その指輪から鎖が伸び、小ぶりな水晶が宙吊りになっている。
彼は目を瞑ると、なにごとかを口内でつぶやいた。ぽわっと柔らかい光が水晶に宿る。光る水晶はゆらりゆらりと揺れて、平面な紙の上をさまよう。
それはとても神秘的な光景だった。
ユナちゃんも驚いたようにその光景を見つめている。これってなんだろう。魔法なのかな。魔法っていまでは使える人は少なくなってるって聞くけれど、存在はしているらしいもんね。
「学院内にまだありますね。学院裏の巨木の上にカラスの巣があると思いますので、明日にでも探しにいってみたらどうですか」
「カラスの巣……」
「おおかたランチに夢中になっている間に、そのあたりの草むらにでも落としたのをカラスがもっていったのでしょう。注意散漫ですね」
ああ、また余計な一言を。
ユナちゃんは顔を真っ赤に染めて、唇をかみ締めている。しかしそれも一瞬、彼女は気をとりなおしたように笑顔を浮かべる。
「ご助言ありがとう。明日さっそく探してみますわ。ところでその水晶、またずいぶんと質のよい代物ですわね。使用人が持っていていいようなものではありませんわ」
「そうですか」
「まさか、盗品だったりしないでしょうねぇ」
盗品!? ユナちゃん、それは物騒すぎる。
彼女の言葉に、レオンはさめた目を彼女に向けるだけで、言い訳の言葉を口にしようともしない。
険悪な空気だけが流れる。
ああ、もう、気まずい。非常に気まずい。なのにどうしてセッカはのん気にデザートを食べ続けられるんだろう。というか、そのデザートいったい何個目なの!
「もー。ユナちゃん、悪い冗談はやめてよね。レオンが盗みなんてするわけないじゃない!」
とっさに、私はレオンとユナちゃんの嫌な空気を払拭しようと試みた。
なんで私がレオンの尻拭いのようなことをするはめになるんだろう。私のほうが偉いのに。私が主人なのに!
……でも、使用人の無礼は主人の責任だもんね。慇懃無礼な使用人を持つと苦労するということだ。
レオンは私をじっと見つめる。やつの視線なんて慣れているはずなのに、どこか居心地が悪くて私はどきまぎした。そしてやつはふっと鼻で笑って、こう言った。
「ユナ様、あなたにどう思われようとけっこう。私はお嬢様に信用していただけるだけでじゅうぶんですから」
おまえはじゅうぶんでも、私には不十分なのだ。
そのへんのことをちゃんと理解してもらいたい。なのに、どこか勝ち誇ったようにユナちゃんを見るレオンが癪に障り、私はイーッと歯をむいた。
後日、レオンの言ったとおりの場所からユナちゃんの大切な指輪がみつかった。
彼女はとても喜んでいたが、見つかった経緯については思うところがあるようだった。
犬猿の仲といえども、いやだからこそ借りを作ったままでは気が済まないと考えたらしいユナちゃんは、レオンにとんでもない贈り物をした。
それはずばり、お姫様セットだった!
すばらしい女物の藍色のドレスに装身具、化粧品。私の目からみても質のよいものだった。
女の子なら喜ぶところだろうけれど、レオンは男の子。贈り物を受け取った瞬間のレオンのあの顔を、私、たぶん一生忘れないだろう。
ほんと、いい気味だと思いながら、一応主人としてレオンをねぎらってやることも忘れない。うん、私ってほーんといいご主人様だ。
「すごいねぇ。石を掲げるだけで失ったものが見つかるなんて、すごい特技よ」
と褒めると、レオンはあっさりと否定した。
「あれは単なるパフォーマンスですよ、お嬢様。石自体にはなんの力もありません」
ん?
じゃあ本当はあてずっぽだったっていうことだろうか。
私の疑問符を的確に拾いとって、レオンは少しおかしそうに笑った。
「私はいくつもの目を持ってるんです。私が探し物が得意なのは、その目のおかげなんですよ」
しかしその回答は意味不明なもので、その後何度聞いてもレオンは答えてくれなかった。
気になる……。