世界を知る
王宮を出ると、そこは活気に満ちた城下町だった。
石畳の大通りに沿って商店が軒を連ね、様々な人種──尖った耳のエルフらしき者や、小柄なドワーフらしき者もいる──が行き交っている。
まずは自分のスキルを正確に把握しなければ。
人気のない路地に入り、意識を集中させて『鑑定』を自分自身に向けた。
すると、視界に透明な窓のようなものが現れた。
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**【朝比奈 蓮】**
**種族:** 異界人
**レベル:** 1
**<スキル>**
**【五穀豊穣】** ランク:EX(規格外)
どんな土地にどんな種や苗を植えても3時間で作物が育つ。野菜の切れ端や皮を植えても同様に成長する。育った作物には栽培者のレベルに応じた効能が付与される。レベルは作物を植えて収穫するたびに上昇する。
**【空間収納】** ランク:EX(規格外)
時間停止型の亜空間を所持。容量無制限。言葉一つで収納・取り出しが可能。通常の空間収納は容量に上限があり、内部でも時間が経過するが、このスキルにはその制約がない。
**【鑑定】** ランク:EX(規格外)
対象のあらゆる情報を詳細に把握できる。通常の鑑定魔法ではスキル名と簡易な情報しか判明しないが、このスキルは効果の詳細・隠された性質・数値情報まで完全に解析する。
**【生活魔法】** ランク:EX(規格外)
火・水・風・土の基本元素を自在に操り、生活に必要なあらゆるものを創造・操作できる。調理器具の生成、住居の建築、衣類の洗濯・乾燥、家具の製作など、生活基盤に関わるすべてを魔法で実現可能。
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全部──EXランク。
料理人の手が震えた。これが普通ではないことくらい、召喚されて数時間の俺にもわかる。
聖女の鑑定ではスキル名しか読み取れなかった。つまり、この詳細な情報は俺の『鑑定』だからこそ見えたものだ。
試しに、通りすがりの冒険者風の男にこっそり鑑定をかけてみた。
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**【ガルド】**
**種族:** 人族
**レベル:** 28
**職業:** 冒険者(Cランク)
**<スキル>**
**【剣術】** ランク:C
片手剣の基本的な技術。斬撃の威力と速度にわずかな補正。
**【身体強化】** ランク:D
身体能力を一時的に底上げする。効果は控えめ。
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やはり。一般的な冒険者のスキルランクはCやDが当たり前で、Bですら珍しい部類らしい。それが全スキルEXなど──。
「……これは、隠すしかないな」
俺は小さく呟いた。
目立てば厄介事に巻き込まれる。それは孤児院時代に嫌というほど学んだ処世術だ。施設の外から来る大人たちの中には、善意の皮を被った悪意を持つ者もいた。自分の価値を正しく隠すことは、身を守る術でもある。
方針は決まった。このスキルのことは誰にも言わない。できるだけ目立たず、静かに暮らしていく。
それから俺は城下町の市場を回った。
まず調味料だ。料理人として、これだけは妥協できない。塩、胡椒、数種類の香辛料、そしてこの世界独自の調味料をいくつか。支度金のかなりの部分を使ったが、後悔はない。
次に、果物と野菜を買った。食べるためだけではない。果物の種、野菜のヘタや根元の部分──普通なら捨てるような端くれを、丁寧に取り分けて空間収納に仕舞っていく。
五穀豊穣があれば、この端くれから作物が育つ。種も苗も必要ない。買った野菜を食べて、残りを植えれば、無限に食材が手に入る。
りんごを齧りながら歩く。甘酸っぱい果汁が口に広がる。この世界のりんごは日本のものより少し小ぶりだが、味は悪くない。芯に残った種を五粒、丁寧に取り出して収納した。
市場で情報収集も怠らなかった。商人たちとの会話から、この世界の地理がおおよそ把握できた。
王都から東へ街道を十日ほど行くと、もう人の営みが途絶える辺境の地がある。魔物は少なく、ただ何もない荒野が広がっているだけ。肥沃でもなく、資源もなく、誰も統治していない土地。開拓する価値すらないと見なされた場所。
俺にとっては──理想の場所だ。




