備え
「村長。この村に柵を作りましょう」
翌朝、俺は村長に提案した。
「柵?」
「村の周囲を囲む防壁です。生活魔法で石壁を作れます。高さは三メートルもあれば十分でしょう。それから見張り台をいくつか」
「壁を……あんたが作るのか」
「はい。それと、もう一つ。緊急時の食糧備蓄を空間収納で預かっておきます。万が一のとき、いつでも取り出せるように」
村長は深く頷いた。
「頼む。だが、あんた一人に何もかも背負わせるわけにはいかん。わしらにもできることがあるはずだ」
「ありますよ。村の男衆に、交代で見張りに立ってもらえますか。壁ができても、見張りがいなければ意味がない」
「任せろ」
その日から、俺は村の防備に取りかかった。
生活魔法で石壁を築く。家を一軒建てるのとは規模が違うが、この五日間で畑仕事のついでにレベルが上がり続けた五穀豊穣のおかげで、魔力の総量も底上げされているようだった。
村を囲む楕円形の石壁。高さ三メートル、厚さ五十センチ。出入り口は二箇所で、頑丈な木の門を取り付けた。四隅には見張り台。
丸二日かかったが、完成したときには村人たちから歓声が上がった。
「城壁だ……うちの村に城壁ができた……」
「これなら安心だ」
だが、俺はまだ安心していなかった。壁だけでは魔王軍の部隊相手に持たない。もう一つ、仕掛けが必要だ。
壁の外側に、畑を広げた。
ただの畑ではない。五穀豊穣で育てた唐辛子──この世界のものは日本の唐辛子よりはるかに辛みが強い──の畑を、壁の外周に沿って帯状に植えた。レベル35の効能がついた唐辛子だ。鑑定すると「強烈な刺激効果・接触した者に一時的な視覚障害と呼吸困難」とあった。
要するに、天然の催涙ガスだ。
これを生活魔法の風で敵に向けて吹きつければ、戦わずして侵入者を退けられる。料理人として唐辛子の扱いは得意中の得意だ。
さらに、壁の内側には大量の水を溜めた。井戸から汲み上げた水を生活魔法で石造りの水槽に蓄える。消火用でもあり、いざとなれば生活魔法で水流として放つこともできる。
料理人の武器は、火と水と食材だ。なら、それで守ればいい。
「蓮さん……すごい。これ、全部蓮さんの魔法で?」
リーナが完成した城壁を見上げて呟いた。
「生活魔法ですよ。ちょっと応用しただけで」
「ちょっと……?」
リーナが呆れたような、感嘆したような、複雑な表情を浮かべた。




